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新生アイドルユニット『妹’s』

 仕方ない。

 仕方ないんだ。


 これは私一人の問題じゃないんだからな。

 だから個人の()()()()な感情やプライドなど……



 イヤじゃあ……



 落ち着け。深呼吸しろ。

 アンガーマネジメントだ。6秒数えろ。


 ふー、ふー。


 ひっひっふー。


「大丈夫ですか? お産みたいになってますよ」

「今、激しい何かが産み落とされようとしているのだ」

「『奇妙な戦争ドロール・ドゥ・ゲール』をしに行くのですよ?

 そんな『世界を灰にするまで』みたいな顔しなくてもいいのでは」


 アンヌ=マリーはいろいろ気遣ってくれるが、そうじゃないんだ。


 もっとミクロな問題なんだ。

 だから個人的苦痛と怒りが止まらないんだ。


 それをマクロな大義で誤魔化すことで!

 なんとかバルコニーからの身投げを堪えているんだ!!


「アンヌ=マリー。頼みがある」

「なんでしょう」


 顔を見ず、俯き加減で絞り出すように。

 意図した発声じゃなかったが、深刻さは伝わったらしい。

 アンヌ=マリーの声に緊張が加わる。


「今から私の話を翻訳してもらうわけだが」

「ええ」


「どうか、たとえどんな発言が飛び出そうとも。

 意味や雰囲気の一切を変えることなく、そっくりそのまま伝えてほしい」


「……あえて強い言葉、品のない言葉で戦闘意欲を引き出す、と?」


 それならばどれほどよかったでしょう。

 今から私は品どころか尊厳を失うんだよ。


「でしたら、他の通訳を付けましょうか?

 何分(なにぶん)ゲイル語は勉強中の身ですので。細かいニュアンスが」

「いや、大丈夫だ。極めて平易な表現しか使わない」


 あまり待たせると、兵士たちもイライラするだろう。

 覚悟を決めろ。

 さっきは飛び降りを堪えたが、今度はそのくらいの覚悟で行け!


 一歩前進、手すりの(きわ)まで来ると、多くの兵士たちと目が合う。

 まるでお立ち台だな。



 ふふふ! 数万人からのフルール王国のみんな!


 今から全員、私のファンにしちゃうからね!



 右手を天高く突き上げ、左手は頬に添えるだけ!

 上体はほんの僅かに反らせる一方、下半身は右足一本立ち!

 さらに左足は膝を曲げて後方へ蹴り上げるので、バランスを取るのが難しい!


 昭和のアイドルにしか許されん、渾身のクネクネポーズだ!



 キエエエ!!



「フ、



 フルール王国のお兄ちゃんお姉ちゃんたちーっ!」



 あぁ、やった。やってやったぞ。

 てかショーワノアイドルってなんだよ。


 いい加減私もな。慣れてくれたらいいんだけどな。

 マヒしたら最高なんだけどな。

 でもなかなか、そうはいかないんだよな。


 またこの大人数か。

 ここ最近使わずに住んでいた分の、恥晒しカウント一気に回収だな。

 ふざけんなよな。


 おい。アリマリ。なんとか言えよ。


 健康状態のオマエにゃ効かないことは知ってるんだよ。

 今オマエがどんな顔してるかと思うと、そっち見れないんだよ。

 早くリアクションしろよ。


 なんだ? ショックのあまり心臓止まって死んだんか?

 大好きな主が生み出したもうた、悪意100パーセントの地獄に絶望したか?


 オラァ!



 答えてみろよ、聖女サマァ!!(やつあたり)



 なんて。

 一周まわって横目で見れるようになると。


 お。

 アンヌ=マリーが一歩前、私の隣へ。


 おやおやおやぁ?

 エラく赤面してるじゃあないか。

 あんな恥も外聞もないモン見せられたらなぁ?


 さぁ、神の悍ましさを、オマエの口から民草へ……


 ん?


 深く深呼吸して、目を閉じて、



 右手を挙げて?

 腰をクネらせて!?




『フ、




 フルール王国のお兄ちゃんお姉ちゃんたちーっ!』




 そこまでやれとは言っとらんぞ!


 言葉のニュアンスまでは言ったがな!

 動きは指定しとらんだろうが!



『『『『『うおおおおおおーっっっ!!!!』』』』』



 うるさいっ!

 なんちゅう歓声だ!


 私の言葉が通じたからか、アイドル=マリーの結果か分からん!


「あの!」

「こっち見るな!」

「見るなじゃありません! 話の続きはないのですか!」

「あ、お、おう。そうだったな」


 恥ずかしそうにするんじゃない!

 恥ずかしがられたら、いかに自分が恐ろしいことをしているか再認識するだろうが!

 ただでさえ物理的な再現を目の当たりにしているんだぞ!


 しかもな! オマエはまだ華奢で童顔だからいいだろうが!

 こちとら『女熊』とか言われとるような女だぞ!!


 ええい、言ってる場合じゃないな!

 とにかくフルール軍洗脳という目的は果たせそうなんだ!



 乗るしかない! このビッグウェーブに!



「私は最近まで、北方で戦っていたの!

 だから正直言うと、仲間は北方に行った方がたくさんいるはずなの!」


 欄干に手をついて軽く乗り出すと、アンヌ=マリーも同じようにする。

 やっぱりコイツ勘違いしてるな!


「でも私たちはあえて西方、フルール王国へ亡命してきました!

 なんでか分かる!?」


 この際だ!


 鑑定士のババアのまえに、いっそアイドル道を貫いてやろうじゃないか!


「きゃっ」


 アンヌ=マリーを強く抱き寄せ、指を絡ませ空高く突き上げる!



「この世の誰より! お兄ちゃんお姉ちゃんたちを頼りにしていたから!」



『おおおーっ!!』

『いいぞーっ!!』

『そのとおりだーっ!!』


 ま、ウソなんだがな。

 でもモミアゲより頼りになるのは確かだ。


「だからお願い!



 私たちに力を貸してーっ!!」



『当たりまえだーっ!!』

『オレに任しときな!!』

『お姉ちゃんが全部解決して、ヨシヨシしてあげるわーっ!!』

「フューちゃああああああ!!」


 今なんか聞こえたな。

 ま、いいか。


 それより、



「おおお……、このまま一緒にバルコニーから飛び降りていただけませんか……」



 赤面を両手で覆うアンヌ=マリー。

 耳まで真っ赤になって震えている。


 別のケアせにゃならん事態が発生してしまった。


「しっかりしろ。耐えろ。生きろ。アンヌ=マリー。


 生き延びて白十字へ行って、いつか一緒にババアを燃やそう」


「誰ですかババアって」



 それとだな、アンヌ=マリー。


 妹魔法はそのうち解ける。



 私たちはこれを『座り込み戦争』中、


 定期的にやらねばならん。



 そのことは、今は黙っておく。


 私が考えたくないから。

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