単純にして、一本気にして、複雑な
『全てのフルール人がそうとはかぎらない』
言い換えれば
『平和な座り込み戦争』
より、
『血を流し奪い合う闘争』
を求める者もいる、ということ。
「全ての人類が争いを好まないのであれば。
この世に戦争はないはずなのですから」
実際、平和にはなっていない。
世の中鉄血帝国のように、必要に迫られて戦う者もいる。
だが自ら剣を取る決断をした者も多い。
ここに来る道中にもいた山賊たち。
あれも他の道より、掠奪と争いを選んだ存在だ。
廊下の先に待つ、フルール軍の兵士たち。
彼らが皆そういう思考だとは思わない。
だが、なかには
勝てる戦いなら勝ってしまうべきだという人。
戦う覚悟で来た気持ちの着地を求める人。
素早く効果的に成果を得られる方がいい人。
愛国心や名誉欲に命を懸けたい人。
単に白十字のメリットのために動くのが気に入らない人。
予想すらできない数の理由が待っているだろう。
「難しいな」
「えぇ。それを私たちの器量をもって、まとめ上げなければなりません。
そして」
ここでアンヌ=マリーは私の顔を覗き込む。
「あなたが何よりアデライド殿下の感情を優先したように。
私もいざとなれば、兵士たちの意向を優先するでしょう」
「む」
視線が前方へ戻る。
「早いところ、殿下を説き伏せることです」
返事をするまえに私たちはバルコニーへ出る。
正午に向かってどんどん強くなっていく日差し。
上から瞼を押さえ付けられ、視線を下ろすと
中庭にはたくさんの騎士たちが詰め掛けている。
ローヌ城自体が小さいから詰まって見えるのもあるが、
実際は中庭の外にもまだまだ人数がいるだろう。
『お出になられたぞ!』
『おおおおーっ!』
『アンヌ=マリーさま!』
『我らが聖女さま!』
『敬虔にして誇り高いヴァリア=フルールの騎士たちよ!』
アンヌ=マリーは
『殿下を説き伏せろ』
と言った。
つまり、
『フルール軍兵士たちの不満や疑問は私が抑える』
そう請け負ってくれたのだろう。
『ときに聖書には、“軍勢”なる言葉が多くあります。
“神の軍勢”
“天の軍勢”
“万軍の神なる主”
などなどです。
これは何を意味するか!
すなわち
“軍なるものは常に主の配下にして尖兵”
であり!
“主は軍勢の働きにて、私たちの信仰と善行を試されている”
ということに他なりません!』
『おおおおお!』
『父なる神!』
『栄えある主!』
『その偉大なる仲介者にして我らの羊飼い、アンヌ=マリーさま!』
隣で大声を張るアンヌ=マリーの声より、
下から返ってくる兵士たちの歓声の方が大きい。
なるほど。これだけのカリスマがあれば、大抵のことはなんとかなるだろう。
だが、先ほどの話を引用するなら。
おそらくは殺し合いもやむなしと思う人間より、
聖女だ宗教だのカリスマのみで全ては我慢できない人間の方が多い。
『であれば! 今回の戦もまた神の戦!
我々は敵か味方か以上に、義によって立たねばなりません!』
特にそれは、最前線で説法を聞く限られた指揮官より、
言葉があまり届いていない、軍隊の最大勢力に多いだろう。
『今、白十字王国は邪悪なる簒奪者により悪の都となっています!
我々はこれを打ち破らなければならない!
敬虔にして誇り高きヴァリア=フルールの騎士たちよ!
万軍の神なる主の兵士たちよ!
正しき信仰、正しき行いを!
主の御名と、
”ヤグルマギクの旗"のもとに!』
『『『『『おおおおおおーっ!!』』』』』
果たして、アンヌ=マリーだけに背負わせていいのだろうか。
つい先日アデライド殿下に、
『我々も相応のものを賭けねばならない』
と出血を説いておきながら。
私はボンヤリ眺めているつもりか?
『では、私の話はこのくらいにして。
白十字王国、フューガ・フォン・ミュラー卿からもお話を伺いましょう』
不意にアンヌ=マリーと目が合う。
「なんだ」
「あなたからもぜひ、士気が上がるお話を。
私が通訳いたしましょう。
我々が結束するための儀式でもあります」
「う、うむ」
一応あらかじめ『考えておけ』とは言われていた。
だからそこは困らないのだが、
「う」
『『『『『………………』』』』』
やはり、騎士たちの目付きが違う。
彼らはただアンヌ=マリーを支持するものであり、
私たちに味方したいわけではないのだ。
それはたとえ戦わされるのであろうと、戦わせてくれないのであろうと。
騎士が二君に仕えないように。
敬虔な信徒が異教の神を仰がないように。
内容関係なく私の存在は、
こうして高い位置から演説するのは、気に食わないのだ。
マズいな。
何をどうしてもフラストレーション確定だ。
根本が揺らげば全てに支障が出る。
アンヌ=マリーとて部下に注意を取られれば、何か致命的ミスをするかも。
いや、そうなるまえに
『部下たちを優先する』
アイツはそう宣言している。
となれば、やはり今回の『座り込み戦争』には無理があるか。
少なくとも長くはやれなさそうだ。
アンヌ=マリーが言ったとおり、アデライド殿下に覚悟を……
いや、そうするとモミアゲが。
本格的に正面衝突すれば、西方方面軍の大敗は免れないだろう。
アデライド殿下のおっしゃるとおり、多くの罪なき将兵の血が流れる。
私だって白十字王国人だ。
ワガママを言えるなら、そんなことはしたくない。
よしんばそこまで行かなかったとしても。
敗北し、両殿下捕縛に失敗したらば。
アイツやその家族が無事でいられるか。
ハインリヒ政権下で厳しい責任追及を受けはしないか。
……私がモミアゲを心配するだと?
ありえん。
とは思うが、実際アイツは私たちに滅私で尽くしている。
今回ばかりは見捨てられん。
前回の人質交換のような算用ではなく、仲間として。
となると。
やはり、なんとしてもフルール軍をまとめ上げ
ジッツ・クリークを成立させなければならない。
この数の兵士を。
頭から私に反感を持っている連中を。
あぁ、チクショウ。
だとすると、
手段はひとつ、
アレしかない。




