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立つ意味立たぬ意味

「『ジッツ』」

「『クリーク』?」


 後日、ゼネヴォン城の庭にて、午後のティータイム。

 両殿下は姉弟らしく、リンクして首を傾げた。



『ジッツ・クリーク』


 言うなれば


『座り込み戦争』


 ってとこか。



「だいたい字面で予想はおできになると思いますが。


 戦争にはなるが戦闘にはならない。

 要はひたすら


『戦っている()()をし続ける』


 ということです」


 ドミニク殿下は緊張の面持ち。

 おそるおそる、といった感じで口を開く。


「そうやってハインリヒ兄上に、


『真面目に戦争していると()()()()()』。


 そういうことかな」

「はい」


 何をそんな硬くなるのか。

 その答えは殿下の左側、アデライド殿下が繋ぐ。


「それは、大丈夫なんでしょうか?」

「確かに軍が動くからには兵糧などの負担は発生するでしょう」

「それもそうですが。

 その、もし偽装がバレた場合、


 ツィマーさまは」


 なんと、モミアゲの立ち場を案じていらっしゃるのか。

 なんと慈悲深い。


 だが事実、一番リスクを負うのはアイツだろう。


「はっきり申し上げて、ご懸念のとおりでしょう。

 王への叛逆、味方の妨害、敵国への内通、利敵行為。


 本人はもちろん、一族郎党まで(るい)が及ぶでしょう」


 今度こそ両殿下が固まる。

 唾も飲んだか。


「なぜそんな」

「彼が忠実なる騎士だからです」

「騎士」

「はい。


 両殿下のためならば。

 一度こちらを選んだならば。

 そこに天地神明に恥じぬ『義』があるなら。


 いくらでも命を、持てる全てを懸けられる。


 ツィマー卿は両殿下と騎士道に忠実なのです」


 正直、アイツだけ負うリスクがデカい。

 それは気付いている。


 少なくとも、もう失うものが殿下だけの私より()()()()


 普段は


 モミアゲだ能力ゼロだ

 一度くらい役に立て


 などと、ボロカス言っている私でも。


 さすがに今回は思う。



 モミアゲ。

 オマエは誰より立派な騎士だ。



 誇れ、モミアゲ。

 そして、



「いけません! あなた方は勘違いなさっています!


 確かに私は


『王家の争いで無関係な国民が傷付くのは認められない』


 と申しました!



 しかし、それでツィマーさまの周りの方々が危険になっては!

 その方々もまた、罪なき人々でしょう!



 私に聞き分けがないばかりにこうなったのは理解しています。

 しかし、これはあんまりな」



 殿下がこのような方だから。

 命と誇りの懸け甲斐があるよな?



「お言葉ですが、アデライド殿下。

 以前私がお話ししたことを覚えておいででしょうか」

「何について」


「『国民たちを救いたいなら、あなた方が王となって行いなさい』


 と」


 アデライド殿下は動揺し、

 ドミニク殿下の顔は引き締まる。


 覚えておいでだったようであり、


 強く意識に根付いているようだ。


 どういう受け取り方であれ。


「それを成すのであれば、結局誰かの血は流れるのです。

 誰かが不利益は被るのです。

 ハインリヒ派を倒せば、ハインリヒ派の誰かが。


 しかしそうせねば、苦しむ民を救えはしない。

 非情ともいえ、冷血ともいえ、為政者(いせいしゃ)として選ばねばならないことです。


 それでもなお、決めてなお、心では(いと)われる殿下にお聞きしたい。



『ハインリヒ派だけがリスクを背負い、血を流せ』



 と?」


「そんな!」


 我ながら意地が悪すぎる言い方だよな。


 だが、アデライド殿下が真っ直ぐに思えばこそ、

 私も曲げては当たれない。


「ですから我々も、その覚悟が必要なのです。

 最大限避けられるように努力はする。

 そのうえで、賭けねばならないものが存在するのです。


 こういうときに賭けると約束しているから、私たちは特権階級なのです。

 騎士なのです。


 ですから、殿下も王族であらせられるなら、



 義務を(まっと)うさせなさい」



 アデライド殿下は何も答えない。

 ただキュッと口を引き結んで、真っ直ぐ私を見ている。


 反論できない、受け入れるしかない。

 しかし個人的感情としては納得しない、決して屈しない瞳。


 それでいい。それで。


 摂理として正しくとも、人倫として正しくないこと。

 嫌なこと。


 その感情はそのままでいい。

 むしろそのままがいい。



 そういう人が、いつか変えてくれたらいい。



 両殿下がいつかそうしてくださるために。

 私は今できることをする。


 出陣の準備をするために、私はお茶会をあとにした。











 さて。

 先日、殿下とのお話は終わった。


 納得いただこうがいただけまいが、アレはアレで構わないのだ。


 だから言うほど、説得が山場とかいうことはない。

 事実、あれから


『ひと晩寝て考えたけどやっぱナシ』


 とかは言われていない。



 問題はここからだ。



「アンヌ=マリー。オマエはいいのか」

「私ですか?」


 廊下を並んで歩く私たちは、二人とも鎧を着装済みだ。

 このまま真っ直ぐ進んでいけば、バルコニーへと出て



 眼下には出撃準備の整った兵士たちがひしめいているだろう。



「亡命者たるあなたを、指揮官側として隣に立たせることですか?」

「それも気に入らん兵士たちはいるだろうが、もっと根本的なことだ」

「ほう」


 いろいろ人間の感情に聡いアンヌ=マリーが、いまいち要領を得ない返事。

 本当に分かっていないのか、すっとぼけているのか。


「今回出撃することについてだよ」

「あぁ」


 アンヌ=マリーが人差し指を立てる。


「確かにゼネヴォン統治はじっくり行きたいものですが。

 別に生涯足踏みするものでもありませんから。


 両殿下という白十字の御旗を残したまま、留守にするのは」

「そうじゃないそうじゃない」

「はぁ」


 だが分かっていないようだ。


「オマエたちはそもそも、白十字王国を侵略しに来たんだろう。

 だとしたら偽戦なんてのは正反対の行為だ。


 よくもまぁ、受け入れたな?」


「あぁ、そのことですか」

「モミアゲは分かる。

 どうしてオマエがそうまでしてくれる?」


 真っ直ぐ見つめた私の目は、おそらく睨み付けているんだろう。

 だが、それが私の肚の割り方だ。

 隠していることがあっても、


 肚を割れば、向こうも割ってくれる。


 そう信じている。


「イヤだなぁ。ご存知でしょう?

 我々があなた方に恩を売るのは、占領統治を早く、深く、容易くするためです」


 アンヌ=マリーの目が優しく細まる。

 悪意がないからこそ、怪しい輝きだ。


「それは何も、ゼネヴォンや白十字西方郡だけではありませんよ?」

「……傀儡政権の樹立か」


「とまでは言わずとも。


 仲のいい方が政治を動かしてくだされば。

 同盟、商売、軍役、その他外交。

 全てにおいて他の列強より我々を優先してくだされば。


 それだけでフルールはグッと有利で豊かになる」


「それだけか?」

「軍人として出会ったからか。あなたは私が聖女であることを忘れている。


 戦争せず、愛と平和で融和できるなら。

 それに越したことはない」


「……確かにな」


 そうだったそうだった。

 聖女は演説がうまいんだ。


 だったら今は素直に信仰しておこう。


「しかし」


 だからこそ、


 その表情が変われば私の心も騒つく。



「全てのフルール人がそうとは限りませんね」

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