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コズミック・ドリフター④偽りの楽園(リゾート・ユートピア "セレネ・ガーデン")  作者: naomikoryo


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第六話:楽園のからくり

「……輸出、だと?」


陸はリラの言葉を、オウム返しに繰り返した。

その声は、自分でも驚くほど低く、怒りに震えていた。


「ああ、そうだ。セレネ・ガーデンの、もう一つの主要産業。優秀な労働力としてのピクシーの輸出だ。表向きは『文化交流』や『技術研修』という名目が使われているがな」


リラは冷ややかに言い捨てると、コンソールのキーボードを凄まじい速度で叩き始めた。

陸が見た、ひとつの例外。

歌を歌い、涙を流すピクシー。

そのイレギュラーな存在が、リラの情報屋としての好奇心と探究心に火をつけたのだ。


彼女の指がモニターの上で踊る。

まず、ホテル・アルテミスの従業員管理サーバーに侵入し、ピクシーたちの勤怠記録、健康状態、客からの評価データを一瞬で抜き出す。

次にセレネ・ガーデンの行政システムへ侵入し、移民局のデータベースから出身星や入国記録を照会する。

さらにハッキングは銀河中央銀行の金融ネットワークにまで及び、星系間の不透明な資金の流れを追跡して、金の出所と行き先を洗い出していく。


壁一面のモニターに膨大なデータが滝のように流れ、解析されていった。

その光景は、もはや神業としか言いようがない。

陸はただ息を呑み、彼女の作業を見守るしかなかった。

自分たちがヘパイストス・ファウンドリで稼いだ高額な報酬の一部が、こうしたハッキングを可能にする超高性能機材の維持費に消えている。

そのことを陸は、今さらながら理解した。


数十分後。

リラは、ぴたりと指の動きを止めた。

そしてメインモニターに、一枚の相関図を表示させる。

それは、この偽りの楽園の醜い真実を暴き出す、一枚の設計図だった。


「……やはりな」


リラは忌々しげに吐き捨てた。


その設計図が示す事実は、こうだ。

ピクシーたちの故郷の星は、過去の大規模な自然災害からの復興資金として、セレネ・ガーデンを経営する複数の星間企業から、莫大な額の借金をしていた。

その借金の担保として差し出されたのが、ピクシーという種族、そのものだったのだ。


彼らは「労働力」としてセレネ・ガーデンに「輸入」される。

そして、ここで稼いだ賃金はすべて故郷の星の借金返済に充てられる、という契約。

だが、その賃金は不当なまでに安く設定されている。

さらに衣食住、そして健康管理にかかる費用は「必要経費」としてすべて彼ら自身の負担とされ、給料から天引きされる。

結果として、彼らの手元には一コズモも残らない。

それどころか日々の生活費がかさみ、借金は減るどころか雪だるま式に増えていく――そういう仕組みだ。


それは、生涯終わることのない労働地獄。

現代的な言葉と巧妙な金融システムで隠蔽された、紛れもない「奴隷制度」だった。


「……ひどい」


陸は愕然として呟いた。

楽園だと思っていた場所の、美しい景色の下で、これほど醜悪な搾取が行われていたとは。

無表情で働くピクシーたち。

歌を歌い、涙を流したあの少女――ルナの絶望。

そのすべてが、この狂ったシステムによって生み出されていたのだ。


「胸糞悪い話だ」


リラも同じように呟いた。

紫紺の瞳には、珍しく露骨な嫌悪の色が浮かんでいる。

彼女とて感情のない鉄の人形ではない。

これほど非人道的な仕組みを目の当たりにすれば、怒りの一つも覚える。


だが彼女は、すぐに情報屋としての冷徹な仮面を被り直した。


「……だが、我々が介入すべき問題じゃない」


「なっ……!?」


陸はその言葉に、耳を疑った。


「どうしてだよ! こんなひどいことが、許されていいわけないだろ!」


「当たり前だ。だが、考えてみろ」


リラは冷静に諭す。


「我々の今の最優先事項は何だ? クロノス・オーダーの情報を持つ提供者との接触だ。下手にこの星の闇に首を突っ込めば、我々も厄介事に巻き込まれる。最悪の場合、この星を牛耳る企業連合を敵に回すことになる。そうなれば、情報提供者との接触どころじゃなくなるぞ」


それは正論だった。

あまりにも正しく、そしてあまりにも冷たい正論。

陸はぐっと言葉に詰まる。

目的の重要性は分かっている。

だが、だからといって目の前の不正義を見過ごすことが、彼にはどうしてもできなかった。


「……じゃあ、ルナって子も見殺しにしろって言うのか。あと一週間で、どこかの星に売り飛ばされるんだぞ」


「……それは」


リラも言葉を濁した。

彼女とて、あの少女の運命を思えば胸が痛まないわけではない。

だが、ビジネスはビジネスだ。

個人的な感情でリスクを冒すのは、プロのやり方ではない。


「これは仕事だ、陸」


リラは自分に言い聞かせるように言った。


「我々はただの情報屋と、その足だ。世界の警察でも慈善家でもない」


その言葉は鋭い刃となって、陸の理想論を切り裂いた。

彼は何も言い返せず、ただ唇を噛みしめることしかできなかった。


モニターに映し出された、楽園のからくり。

その醜悪な真実が、部屋の空気を重く支配していた。

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