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コズミック・ドリフター④偽りの楽園(リゾート・ユートピア "セレネ・ガーデン")  作者: naomikoryo


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第七話:陸の決意

重い沈黙が、部屋を支配していた。

リラの冷徹な正論は、陸の燃え上がりかけた怒りと正義感を、真正面から否定するものだった。

陸は唇を噛みしめ、俯いていた。


彼女の言うことは正しい。

自分たちの目的は、クロノス・オーダーの情報を得ること。

そのために、ここへ来たのだ。

個人的な感情でリスクを冒すべきではない。

頭では分かっていた。

分かっているのに。


脳裏に、あの光景が蘇る。

月を見上げ、悲しげに歌っていたピクシーの少女、ルナ。

自分に気づいた瞬間、恐怖に顔を歪めたあの表情。

そして、彼女があと一週間で「輸出」されるという事実。


見て見ぬふりなど、できるはずがなかった。


「……ふざけるな」


陸の口から、低い声が漏れた。


リラが怪訝な顔で彼を見る。

「……何がだ」

「だから、見て見ぬふりなんてできるわけないだろうって言ってるんだ!」


陸は勢いよく顔を上げた。

その瞳には怒りと、そして確固たる決意の光が宿っていた。


「あんたの言うことは正しいよ。正しい、けど、俺は納得できない。あの子を助けもせずに、のうのうとこの楽園で過ごして、情報提供者が来るのを待つなんて、絶対にごめんだ」


「……甘いな、陸」


リラは冷ややかに言い放った。


「あんたはまだ、この世界の本当の厳しさを分かっていない。それはただの自己満足だ。あんたが一人、息巻いたところで、この星の巨大なシステムが変わるわけじゃない。下手に動けば、あんたが潰されるだけだ」


「それでもだ!」


陸は叫んだ。


「何もせずに後悔するくらいなら、俺は動いて失敗した方がマシだ! ウロボロスで俺を助けてくれた、あの爺さんがそうだったように!」


ヘパイストス・ファウンドリでの戦いを経て、陸は自分の力に自信と、そして責任を感じ始めていた。

この「惑星渡り」の力は、ただ逃げるためのものではない。

ザインと共闘した時のように、使い方次第では戦局すら変えられる。

ならば、誰かを守るためにも使えるはずだ。

無力なまま暴力に蹂躙されるのを待つだけだった、以前の自分とは違うのだ。


「困っている奴がいたら助ける。理由はそれだけで十分だろ。それが、俺のやり方だ」


陸はきっぱりと言い切った。


その言葉に、リラは一瞬息を呑んだ。

真っ直ぐな瞳。

青臭い理想論。

非効率で危険極まりない感情論。

情報屋としての彼女のすべてが、それを否定しろと叫んでいた。


だが、彼女はそれをできなかった。

なぜなら、その青臭い正義感に、一度救われた覚えがあるからだ。

アルカディア・ネクサスで、泥棒をしようとしていたこの馬鹿な少年。

彼が持つ、損得を度外視した甘さこそが自分にはないものであり、そして時として、計算され尽くした論理を凌駕することを、彼女は知ってしまっていた。


「……好きにしろ」


リラは吐き捨てるように言うと、ぷい、と顔をそむけた。


「だが、私は手伝わない。あんたがどんなトラブルに巻き込まれようと、私は私の仕事をする。情報提供者との接触が最優先だ。忘れるな」


「……ああ、分かってる」


陸は頷いた。


「これは俺が勝手にやることだ。あんたを巻き込むつもりはない」


彼はリラに背を向け、部屋の出口へと向かった。

胸の中では、これから何をすべきか、その計画がすでに形を作り始めていた。

それは無謀で危険な賭け。

だが彼は、行くと決めたのだ。


「……死ぬなよ、馬鹿」


部屋を出ていこうとする陸の背中に、リラの消え入りそうな小さな声が投げかけられた。

陸は振り返らず、ただ片手を上げてそれに応えた。


その声が、いつもの彼女からは考えられないほど優しさに満ちていたことに、彼はまだ気づいていなかった。

リラは一人部屋に残されると、陸が出ていったドアをしばらく見つめていた。

そして一つ大きなため息をつくと、忌々しげにコンソールへと向き直った。


モニターには、彼女が先ほどまで調べていた、セレネ・ガーデンを支配する企業連合の脆弱性に関するデータが、まだ表示されたままになっていた。

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