表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栗田さんの憂鬱な美少女生活  作者: 黒田如風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/128

それぞれの事情②

 今日は喉が痛い。

 打撲の後遺症か腹部の調子も、すこぶる悪い。

 授業が終わったら速攻で帰ろう。

 そう思っていたのだが。


「伊藤ちゃ~ん。コレの解き方、全然わかんないにゃぁ~」

「それ、前回ちゃんと教えたでしょ? どうして一回で記憶しないの?」

「まぁまぁ。俺達、伊藤さんみたいに頭良くねぇからさぁ。ちょっと教えてくんない?」

「そうやって、すぐ人に頼る。努力しないから駄目なのよ」


 放課後。

 いつもの面子による、ファーストフード店での勉強会。

 なし崩し的に巻き込まれた。

 高校受験を控え、少しでも学力を伸ばそうとする姿勢は否定しない。

 自分自身、もともと数学系は得意じゃないので、復習の良い機会ではあるのだが。


「栗田さん。何か欲しい物あるか?」

「あぁ、私は…特にいらない」


 真横に三川君。

 正面には古村君。

 他の女子が気を遣った結果だけど、圧が半端ない。

 二人とも高身長、格闘技系の肉体派。

 先日、危うく死にかけたトラウマで、心が全く落ち着かない。

 彼らに悪気がないのは判っているが、体が勝手に怯えている。

 この状態、暫く続くのだろうか。

 学校の教室でも、男子が近付く度に緊張する始末。

 これ、一週間で治るのかなぁ。


「ちょっと、トイレ」


 シャーペンを置き、立ち上がった。

 少し気分転換がしたくて。


「ここって、二階だよね?」

「そうであります。栗ちゃん一緒に行く?」


 迷子を心配する母親のような発言。


「いや、大丈夫」


 苦笑しながら木村さんに手を振り、席を離れた。

 ショッピングモール内の店舗だと、大概トイレが遠い。

 個室が多い分、順番待ちが短くて済むけど。

 エスカレーターに乗り、更にフロアの奥へ。数分歩いてようやく辿り着いた。

 女子の姿に変わってから一年以上経つのだが、油断すると男子トイレに足を踏み入れてしまう。

 更に言えば女子用に入るのも、抵抗を感じてしまう。

 別に悪い事は何もしていないのだが。

 一呼吸入れてからトイレ内へ。

 個室には入らず、洗面所へ。

 水を出し顔を洗った。

 冷たい流水を手ですくい取り、何度も何度も洗った。

 浮つく気分を沈めるために。

 精神統一の行水をしている気分だった。

 今朝、宇垣さんには、気付かれずやり過ごせた。

 大丈夫。

 もう、大丈夫。

 心が落ち着いた所で、トイレを出た………ら、待ち伏せされていた。


「栗田さん。大丈夫か?」


 情緒不安定の要因に、トイレの出口で鉢合わせ。


「三川君もトイレ?」

「まぁ、そんなところだ」


 嘘つき。

 喉元まで出かけた言葉を、辛うじて飲み込んだ。


「今日、何か変だぞ?」

「別に」

「ずっと落ち着きがねぇからさ。困った事でも、あんのか?」


 君が側に居るからだよ。

 そう言いたくなるも、大本の元凶は五月さんなので、責めるのは酷か。


「ちょっとね」


 このままシカトして席に戻っても良いのだが。

 彼の事だから、このまま大人しく引き下がるとは思えず。


「嫌な事があったから、臆病になっているだけだよ」


 相手が安心するように、少しだけ事情を口にした。


「誰にやられた? 学校のヤツか?」

「その、肉体言語で解決しようという性格。流石に迷惑なんだけど」


 どうして喧嘩したと思うのかなぁ。

 ある意味、間違ってはいないが。


「教えてくれよ。気になるじゃねぇか」

「形式上の彼女だから?」

「オマエを守るのは、オレの役目だろ?」


 喜んで良いのか、困るというか。


「だから心配ないって。子供じゃ………」


 いや。

 今の肉体は、まだ子供か。

 大人と言うには、少なくとも三年は早い。


「守ってくれるのは、惚れた女だから?」

「そうだ。悪いか」


 胸を張って言われると、どんな顔をしたら良いのか迷う。

 だが不思議と、嫌な気分ではなかった。


「どうしても理由を知りたい?」

「あぁ。教えろよ」


 正直に応じる義理はないのだが。

 きっと彼の事だ。いつまでも心配し続けるのだろう。

 自分が男へ戻っていた時に、わざわざ真夏の同人詩即売会まで、探しに来たくらいだから。


「誰にも秘密にすると約束……出来る?」

「いいぜ」

「絶対だよ」


 周囲に人がいない事を確認すると、首の包帯に指を掛けた。

 シュルシュルと音を立てる衣擦れ。

 全て指で巻き取ると、彼が見やすいように顎を上げて見せた。


「その首の痣………どうした?」

「殺されかけた。首を絞められて」

「はぁっ!?」


 驚きの声が通路に響き渡る。

 静かにしろと、唇に人差し指を立てた。


「な、な、なにやってんだよ、オマエ……」


 想像の斜め上だったのか、オロオロと狼狽える三川君。


「ちょっとね。やばい事を調べていたらさ。怖いお兄さんが出て来ちゃってぇ。いやぁ、油断したねぇ。本気で怖かったよぉ~」


 あっけらかんと明るい口調で笑いながら話した。

 相手の顔色が変わるのを堪能しながら。


「いや、オマエ、ダメだろ。つーか、マジで何やってんだよ?」


 この男でも、青ざめる事なんて有るのか。

 体格が大人並みでも、心は男子中学生だからな。

 危うく死ぬところだったと、彼女に言われたら、普通そういう反応をするか。


「でも、大丈夫だよ。もうその場所には、二度と近付かない。今回の事で、私も反省したから……さ」


 以前に出会った性別反転者は、誰も彼も良い人ばかり。

 慢心していた。

 今の自分は、ひ弱な少女だという事を、改めて思い知らされた。


「そんなわけで、今は背の高い男性が苦手なのさ。これで納得した?」

「するわけ、ねぇだろっ!」


 ちゃんと話したんだがなぁ。

 もっとも、宇垣さんにも同じ事を告白したら、小一時間ほど説教される気がした。


「その……やばい調べものって、まだ、すんのか?」

「方法は変えるよ。もう、危ない目に遭うのは嫌だし」


 ある程度、必要な情報は揃った。

 次に行うのは、分析と実践だ。


「栗田さん、頼みがある」

「なに?」

「今度、その調べものをする時は、オレを連れて行け」


 時代劇か、映画のワンシーンような台詞を、三川君は口にした。

 至極、真面目な顔で。

 危うく噴き出しそうになった。


「いつでも、オマエに付きあってやるよ」

「それは頼もしいねぇ」


 そんな機会があるかは不明だが。


「じゃぁ今度。危ない橋を渡る時は、君のお世話になろうかな♪」


 たとえ下心からの申し出であったとしても。

 心配してくれる彼の気持ちは、素直に嬉しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ