あなたのためと言いつつも③
暗い室内で重なる寝息。
パジャマ越しに密着する肌。
布団の中で伸びて来た指先が、腕に絡みつき抱き締められた。
ぬくもりを欲するように。
既視感とは良く言ったものだ。
いつぞやの木村さんと同じ状況。
偶然……ではないな。
どこかで話しを聞いて、同じ事をしたいと彼女が望んだ結果だろう。
「あの………」
「ん?」
「うざいとか、思ってます?」
耳元で囁かれるお伺い。
強引にしておきながら、嫌われたらどうしようと不安になるあたり、実に宇垣さんらしい。
「別に」
敢えて、そっけなく答えた。
娘の春佳が幼い時も、よく一緒に寝ていたっけ。
懐かしいな。
そんな事、彼女に話せるわけもないが。
「栗田さん。少しお話しをしても、よろしいでしょうか?」
「良いけど」
眠れないとか?
「あと何人の方と、お会いする予定ですか?」
「そうだねぇ」
性別反転者をネット上で検索し、片っ端から連絡を試みた。
半分は返信がなく。
更に半分は明らかに偽者。
直接、面談まで辿り付けたのは結果的に数人のみ。
「まぁ、それなりに収穫は有ったけど………」
未だ肝心な情報が欠けていた。
「登録方法が、まだ判らないんだ」
性別反転を実行するネットアドレスには、今でもアクセスだけは可能。
だが、自分の登録情報では入り口で弾かれる。
先へ進むには、新規登録が必要だった。
「でも、有力なそうな人は、もう残っていないのでは?」
「いるよ。あと一人だけ」
「まさか、あの人ですか? それ絶対に危険ですよっ!?」
やめてくださいと言わんばかりに、宇垣さんは腕を強く握った。
「危ないのは判ってるよ。でも、放っておくのもさ、少し可哀想だから」
ずっと気になっている人がいた。
女性から男性への性別反転者。
年齢は中学生くらい。
もともと不登校だったらしいが、性別が変わってから一歩も部屋から出られず、以後は引き籠もり生活との事。
連絡を取り合った当初、ネットでの会話を要望されたが、丁重にお断りした。
自分の身を守るためにも、情報の露出や漏洩に繋がる方法はなるべく避けたい。
対面にこだわるのも、それが一番の理由だった。
「栗田さん。わたしも一緒に連れて行ってください。二人なら、危険度は下がりますよね?」
「その気持ちは嬉しいけど……」
確かに二人なら心強いのだが。
「自分の身を守る事が出来る? 逃げ足も遅いよねぇ~」
「それは………そうですけど」
一人だけなら何とかなりそうだが。
宇垣さんと一緒だと、流石に自信がない。
「では、男子と一緒行くのは?」
「向こうが警戒して、会ってくれないと思う」
もし誰かを連れて行くとしたら。
三川君の妹、一香ちゃんが適任だろうけど。
その為だけに、自分の正体を明かすのは気が引けた。
「もし雰囲気がダメそうなら、即座に走って逃げ出すよ」
明るい声で答えるも。
心の底では、一抹の不安を感じていた。




