あなたのためと言いつつも①
「遠慮せず食べてね」
「はい。ありがとうございます」
宇垣さんの母親より差し出されるご飯のお椀。
恐縮しながら受け取った。
つい最近、似たような事があったなと既視感を覚えながら。
「戴きます」
小松ちゃんとの面談結果を報告に来たのだが。
気付いたら宇垣家に宿泊する事になっていた。
わけが判らないよ。
目の前には配膳された豚肉の生姜焼き。キャベツの千切り。お味噌汁。漬け物。ほうれん草のおひたし。
どれも美味しそうではあるのだが。
お昼、ご馳走になった牛肉が、未だお腹の中に居座っていた。
「栗田さん。はい、お茶」
「ありがとう。宇垣さん」
「この後、お風呂に入ります?」
「ご飯の後に?」
「いつでも好きな時に入れますから、遠慮なく言ってください。寝る場所は、わたしの部屋です。パジャマは後で渡しますね」
ハキハキと明るい口調の宇垣さん。
学校でも同じように話したら、それなりに友達が出来るんじゃないかな……と、思ってしまう。
「娘から聞いたけど。栗田さんはいつも一人でご飯を?」
「ここ最近はそうですね。たまたま家族の長期出張や、出向が重なったので」
お約束というべきか。
宇垣さんの母親から身辺の聞き取り調査。
「掃除や洗濯など大変でしょ?」
「いえ、もう慣れましたから」
山盛りの洗濯籠。
散らかったまま片付かない部屋。
あの状態を『慣れました』というのは、自分でも如何なものかと思う。
「ウチも主人の帰宅が遅くてね。いつも夕食は、この子と二人だけなの。もし寂しい時は、いつでも来てね」
「ご心配戴き、ありがとうございます」
善意の申し出に篤く礼を述べた。
何故かとても嬉しそうな親友を横目で見ながら。
「栗田さん。もし家の鍵を無くした時は、遠慮なく頼ってください♪」
口に入れたお茶。
危うく吹き掛けた
「それ、誰から聞いたの?」
「演劇部の新入生からですけど」
一香ちゃん、まさか話したっ!?
そういや口止めしてねぇっ!!
「親戚の家に泊まるより、わたしの家の方が近いですよね?」
「あ、うん。それは、そうかな」
ほっと脱力しながら相槌を打った。
流石に、そこは誤魔化してくれたのか。
「お茶のお代わり戴ける?」
「はい。どうぞ」
ここ最近、宇垣さんが不機嫌だったのには気付いていたが。
何も相談しなかった事に大変ご立腹だったとは。
強引に宿泊を迫って来たのも、既成事実が欲しかったのだろう。
これで、三川君の家に泊まったと知ったら、どうなる事やら。
熱いお茶に息を吹きかけると、湯飲みに口を付けた。




