本音を伏せながら
「おぉっ! 久し振りやな♪ 元気そうで何よりや」
玄関の扉を開けるなり、陽気な関西弁がお出迎え。
「ベネットさんも、お元気そうで」
「まぁ、ゆっくりしてやぁ~」
そう言いながらも、家主の米内さんは小走りで机の前へ。
「ネットでは、しょっちゅう話しとるけど。やっぱ顔見ると安心するわ」
椅子に座り直すや、視線の先を液晶タブレットに向けた。
「もしかして、締め切り間際だった?」
「いんや。それは昨日や。今やってるんは次のネーム」
カツカツと小刻みに鳴るタッチペンの音。熟練した筆裁き。
でも見た目は小学生の女の子。自分と同じ元は中年男性の漫画家。
「少し、背が伸びた?」
「伸びたで。今、成長期やからな。胸も腰も順調に育っとる。自撮りしながら、スケッチするの楽しいで」
「プロだねぇ~」
ネットで画像を検索出来るとはいえ、欲しい構図が見つかるとは限らず。
自撮り出来るのなら、その方が早かろう。
「お茶でも淹れる?」
「頼むわ」
「高山烏龍茶で良い?」
「今日は東方美人茶の気分やな」
伸ばした指の先を変更。隣の茶缶へ。
東方美人茶の抽出温度って、八十度だっけ?
普段、淹れていないから、自信がなかった。
「今日は、どないしたんや?」
「コッチまで来る用事があったからさ。たまには顔でも出そうかなって」
嘘は言っていない。
そう思いながら、薬罐へ水を注いだ。
「ベネットさん。身体の調子はどう?」
「今日は最悪やなぁ」
「何か、問題でも?」
ドキリとしながら質問を重ねる。
「前にネットで話したと思うけど。年明けくらいから、アレが始まってもうてなぁ。はんま面倒やわぁ。腹も痛うなるし」
「あぁ。そっち……」
ガスコンロを点火しながら、深呼吸を一つ。
「それ以外は? 足の調子とか、大丈夫?」
「せやなぁ。成長痛やと思うけど、たまに膝が痛うなる」
「走ったりしてる?」
「しとてるで。子供が学校から帰る午後三時くらいから、毎日マラソンしとるよ。この仕事しとると、身体がなまってもうてなぁ~」
水が沸騰する音、
液晶画面にペンを走らせる音、
両方を聞きながら、聞くべき内容を考慮。
「走ってる最中に、足が縛れて動かなくなる事は?」
「そういうのは特にないなぁ。今は体重が軽いし」
「そっか………」
気付くと大きな溜息を吐き出していた。
それも深々と。
「どないしたん? 栗田さん元気ないなぁ?」
「ちょっと気になる事があってさ」
答えながら戸棚から茶海と急須を取り出した。
「何か、あったん?」
「まだハッキリしていないから、結論が出たら話すよ」
中途半端な憶測で不安を煽るのは避けたかった。
「そうやっ! 冷蔵庫に苺タルトがあるで。お茶が入ったら一緒に食べよや♪」
少女らしい弾むような声での提案。
「人間、甘い物食べたら幸せな気分になるもんや♪」
くったくない明るい喋りを背中に聞きながら、ふと思った。
最近、あまり笑ってないな………と。




