表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栗田さんの憂鬱な美少女生活  作者: 黒田如風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/130

お気楽な被災者達 K氏の事情②

「お天道様てんとうの下で飯を食うのも、たまには悪くないのう。これでビールをグイッといけたら最高なんじゃがっ!!」


 少女の声に隣の客や、行き交う人々の視線がコチラに集中。

 そうだろな。

 成人男性ならともかく。

 見た目、小学生の子が口にしたら違和感しかない。


「お爺ちゃん。お願いだから自重して」


 ひ孫さんが涙目になりながらのお願い。


「なっちゃんや、心配でんで良い。誰が見ても、変な娘がおるくらいにしか思わんわいっ!」


 小松ちゃんの言う事は間違ってはいないが。

 その変な娘に、同席してる面子まで漏れなく巻き込まれ。

 どんな人が来ても良いようにテラス席を選んだのが、今回は裏目に出た模様。


「由喜ちゃん、君ならビールくらい飲めるじゃろ?」

「いえ、まだ学生の身分ですから………」

「俺の若い頃は、それくらいの歳で普通に飲んどったぞ?」

「まぁ、ぞの頃は……そうですね」


 四方からの奇異な視線を、ひしひしと感じながら林檎シュースを口にした。

 ベネットさんも同じようにお子様な外見ではあるが、周囲に気を遣う人だったからなぁ。


「単刀直入に聞くが、由喜ちゃんも俺と同じか?」

「まぁ、そんな感じです」

「なんで、こんな事になっとる? 誰が始めたんじゃ?」

「今、それを調べている最中でして、ご協力をお願いしたく」


 ヤリ辛い事、この上ない。

 周囲に会話が丸聞こえ。

 信じる人は誰もいないと思うが、一人でも興味を持っていたら……。

 この席に座ってから、心の中で冷や汗がダラダラと流れていた。


「俺はてっきり、お国が馬鹿な事を始めたとばかり思っておった」


 チョコレート掛けのエクレアを、美味しそうに頬張る小松ちゃん。

 見た目だけなら、活発で可愛い女の子だった。


「今、少子化じゃろ? 老人を若返らせる実験でもしてのんか?」

「お国……ですか」


 復唱しながらシュークリームを口に運んだ。

 国家の関与は、全く考慮外だった。


「そのうち赤紙が届くようになるんじゃろ? お前は何月何日に、性別が変わり若返るから準備せぇとなっ!」

「配達員から『おめでとうございます』と言われ、近所の方々に万歳三唱されるんですか?」


 少し想像しただけで、頭痛するような光景が脳裏に浮かんだ。


「でも、お爺ぃ…じゃなくて、小松ちゃん。若返るのに性別が変わる必要あるの?」


 カップの紅茶を持ち上げながら、ひ孫さんが至極真っ当な突っ込みを入れた。


「それは……なんか理由があるんじゃろ。お国のお偉い方の考える事など、俺には判らんっ!」


 指に付いた生クリームを舐めながら、履き捨てるように答えた。

 嫌な事を思い出したのか、口元を不機嫌そうに歪めながら。


「あくまで憶測ですが。もし国が関わっているのなら、もっと上手くやると思いますよ」

「そうかのぅ」

「隔離施設でやるとか。少なくとも一般国民が知るような状況で、実験はしないかと」


 偉い人の頭のネジが、弾け飛んでいる可能性は否定しきれないが。

 公的の機関の研究なら、流石に新聞やテレビで報道される気がした。


「ならば、これは誰の仕業じゃ?」

「それが皆目かいもく判らないので、真相究明のために、小松ちゃんの経緯いきさつをお伺いしたいというのが、今回の主旨でございます」


 本来の目的は、再び男へ戻るための手段探しだが。

 誰が、どうやって、何のために、というのも気にはなっていた。


「経緯と言われても、話せる事はそれほどないぞ? 朝起きたら、女の子になっとった……くらいか?」

「あの時は、本当に大変でした」


 ひ孫さんが溜息をつくなり、遠い目をした。

 きっとお約束な出来事が展開されたに違いない。


「あの、小松ちゃんに一つお尋ねしたいのですが」


 ずっと気になっている事があった。


「姿が変わる前に、タブレットや、スマホなどを、操作されましたか?」


 元はご老体。

 ネットにアクセスに出来るとは、とても……。


「おぅ。しとったぞ。朝から晩まで毎日やっとった」

「毎日…ですか?」

「頭より先に、足が駄目なってな。出歩けず暇を持て余しとったら、孫達が機械を貸してくれたんじゃ」


 テレビより楽しいのは判るが。

 使いこなすという事は、元々それなりに頭脳明晰なのだろう。


「姿が変わったのは、いつ頃ですか?」

「半年前じゃな。冬になる手前ぐらいか。月末……いや、下旬に入ったばかりか?」

「わりと最近……ですね」


 少し意外だった。


「そうなんか?」

「はい。私は一年以上前ですし」


 記憶が確かなら、パインさんは一年前の筈。

 自分が知っている上では、一番新しい被害者だろう。

 もっとも、本人は楽しんでいるようだが。


「ふむ。この話、長くなりそうじゃな………。河岸かしを変えるか」


 小松ちゃんは、小さなバッグより円形の金属を取り出し、蓋を開いた。


「懐中時計とは渋いですねぇ」


 ゴシックロリータ衣装の小道具にすら見えた。


「これか? 昔、世話になった人の形見でな。年季物だが今でも元気に動いとるぞ? 俺みたいにな♪」


 素直に笑って良いのだろうかと、一瞬、悩んでしまった。


「時間は頃合いじゃな」

「何かあるので?」

「由喜ちゃん、美味い物を食べに行こうや。天麩羅か? 寿司か? 鰻か? すき焼きなら良い店が近くにあるぞっ!」

「ぇ、あ、はぃ?」

「金なら気にするな。その代わり、君の話を色々と聞かせて貰うがなっ!」


 そう言うや、皿上に残ったお菓子を口の中へと放り込んだ。


「あの、お爺ちゃん。由喜さんにも事情が…」

「私は構いませんよ」


 個人的には、テラス席より気が楽だった。

 ただ、帰りは遅くなりそうだなと覚悟した。


「では行こうかっ!」


 勢い良く、小松ちゃんは席から立ち上がると………そのまま前のめりに倒れた。


「大丈夫ですかっ!?」

「お爺ちゃんっ!?」


 慌てて駆け寄るも、心配無用とフリルの袖を左右に振った。


「たまにな、足の感覚がなくなるんじゃ。数分経てば動くようになる」

「数分……経てば?」

「元は歩けんほど弱っておったからのうっ! 仕方なかろうてっ!」


 足をさすりながら小松ちゃんは明るく笑い飛ばした。


「すまんが、ちょっと待ってくれ」

「はい。ごゆっくり」


 笑顔で答えるも、声が少し沈んだ。

 やはりか………。

 薄々気付いてはいた。

 今の身体。

 若返っているように見えるが、完全に年齢相応ではないらしいと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ