お気楽な被災者達 K氏の事情①
「そろそろか?」
スマホを取り出し液晶をタップ。
新規の受信は無し。
予定の時間まで後、数分。
ここまでは予定通り。
周囲を警戒しながら人を待つ。
いつでも逃げ出せるよう、軽く準備運動をしながら。
「面倒な人じゃなきゃ、良いけど」
自分と同じ、性別反転者との待ち合わせ。
行き交う人を注視しながら、深く息を吐いた。
前回のパインさんとは違い、今回は一切が不明。
男か、女かすらも。
判っているのは、Kというアルファベット一文字の名前だけ。
とはいえ、何となく事情は判る。
誰でも慎重になるし、臆病にもなるだろう。
メールの文面は男性っぽい感じがした。
恐らく外見は女性であろうと推測しているが………。
「今日イベントでも、やってんのかなぁ」
週末の繁華街。
人の往来がいつもより激しい。
自分の外見や特徴などは伝えているが、見通しが悪いため先方も探し辛かろう。
もっと目立つ服装にすべきだったかなぁ。
たとえるなら。
今、コチラに向かって歩いて来る少女みたく、ゴシックロリータ風のヒラヒラ服とか。
あれくらいインパクトのある外見なら、人混みに紛れても、すぐに………判ると思うのだが。
その少女は何故か、目の前でピタリと足を留めた。
二次性徴前の細い身体、あどけない顔立ち。
くりっとした瞳で、暫しコチラを見つめた後。
おもむろに小さな唇を開いた。
「君が由喜ちゃんか?」
「ぇ……。あっ、はい」
ハキハキとした威勢の良い声に、思わず即答。
「そうか、そうか。まさか、こんな可愛い子だとは予想外だったわっ!」
「あ、あのぉ。もしかして、Kさん……でしょうか?」
多分そうだろうけど、念のために確認。
「そうじゃっ! Kだとアレやから、小松と呼んでくれ。今の名前はそれにしとるっ!」
「判りました、小松さん」
「さん付けなぞ無用っ! 小松ちゃんで宜しゅう頼むわっ!」
「あ、はい。よろしくお願いします。小松…ちゃん」
確かに見た目は可愛い小学生の高学年くらい。
しかし、その言動は元気の良い男の年配者。
ゴスロリ服とのギャップに、空いた口が塞がらない。
「す、すみません。ウチのお爺ちゃんが、ご迷惑をお掛けしまして」
少女の後ろにいた女性が、オロオロとした顔で頭を下げた。
「なっちゃんや。お爺ちゃんと言うのは、いい加減やめんか」
「いや、でも……お爺ちゃんだし」
見た目は年の離れた姉妹なだけに、他人が聞いたら首を傾げるだろう。
まぁ、気持ちは判る。
娘の春佳もたまに自分の事を『お父さん』と呼ぶから。
「すみません。ウチのお爺……じゃなくて、小松ちゃんが心配で。今回、同行しました」
「お疲れ様です」
ぱっと見た感じ高校生……いや、大学生かも。
「お孫さんですか?」
「いえ。ひ孫です」
は?
ひ孫?
「一人で大丈夫だと言うとるのに、こ奴が心配しおってなぁ~」
「今は見た目が子供ですから、仕方ないかと」
当たり障りのない返事をするも、ご家族の心労が容易に想像出来た。
「今日の小松ちゃんの服装。とても可愛いので、変な男が寄って来るかもしれませんし」
「そうじゃろ? この服、上品で良い感じやろ? 思わず通信販売で買ってしまってなぁ~」
お披露目とばかりに、その場でクルリと廻った。
レースの施されたスカートが、フワリと舞った。
「結構、良いお値段が…しそうですね」
「年金と軍人恩給が、たんまり有るからな。使わにゃ損じゃ♪」
今の発言で確信した。
この小松ちゃん。
元の姿は百歳前後のご老体であろうと。




