ゼロ・バリューの街
高度を下げた『コイン・トス』の眼下に、かつて大戦で捨てられた巨大空母の残骸が見えてきた。
四国の境界線からも、世界銀行の監視網からも外れた「空白地帯」。
そこが、スクラップ・シティだ。
「いいか王女様。ここから先は、アンタの目にある『マスターキー』も、俺の口座にある『メニカ』も、ただの数字遊びだ。
ここでは現物だけが価値を持つ」
ジンは手動操作で機体を古い甲板へと着陸させた。
ハッチを開けると、むせ返るようなオイルの臭いと、焦げた鉄の熱気が二人を包み込む。
周囲には、全身をサイバネティクスで改造したならず者や、各国の脱走兵たちが、野犬のような鋭い視線でこちらを伺っていた。
彼らの共通点は、その胸に「破産」を意味する焼印があることだ。
「……怖いですか?」
リリアがジンの袖を、少しだけ強く握る。
「ああ、怖いね。ここじゃ『お釣り』が弾丸で返ってくるからな」
ジンは腰のホルスターから、年代物の自動拳銃を抜き出し、弾倉を確認した。
彼の向かう先は、街の最深部にあるジャンク屋「オールド・バレル」。
そこには、カインとの戦いで消耗したバースト・タックスの「現物弾丸」を補充できる唯一の男がいる。
だが、その道中、一人の巨漢が二人の前に立ちふさがった。
男の腕は重機のような油圧式プレス機に改造されており、その瞳にはジンたちの『コイン・トス』に対する強欲な色が浮かんでいる。
「おい、そこの守銭奴。その綺麗な銀色のツバメを置いていきな。そうすりゃ、その横の小娘の命だけは『値引き』してやる」
ジンは溜息をつき、リリアを自分の背後へと隠した。「悪いな、デカブツ。この娘は非売品だ。……それに、俺は今日、あいにく小銭を切らしててね。支払いは、こいつで勘弁してくれ」
ジンの指が引き金にかかる。
メニカの価値が消失した場所で、初めて「命のやり取り」が純粋な物理法則に従って始まろうとしていた。
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