不渡りの街、現生の弾丸
スクラップ・シティの路地裏。
オイルと錆びた鉄の臭いが充満する澱んだ空気の中で、重機のような改造腕を持つ巨漢が、下卑た笑みを浮かべて迫り来る。
「おいおい、そんな古い鉄屑を抜いてどうするんだ? ここじゃあ物理装甲を積んだサイバネティクスが一番強えんだよ!」
男が油圧プレス式の拳を振り上げる。駆動音とともに、鉄の腕が空気を引き裂いた。
だが、ジンは一歩も引かない。リリアを背後に庇ったまま、年代物の自動拳銃を真っ直ぐに構えた。
「電子のバリアもない、口座の認証もない……。ただの肉と鉄のぶつかり合いか。いいぜ、こっちの方が計算が楽で助かる」
ジンの指が引き金を絞る。
乾いた破裂音が路地に響き渡った。放たれたのは、メニカのデータではなく、現物の鉛の弾丸。
バキ、と鈍い金属音がして、男の油圧シリンダーの継ぎ手から火花が散る。
ジンが狙ったのは、巨躯の装甲ではなく、剥き出しになった駆動系の最も脆い関節部分だった。
「ぐ、あああっ!? ガタがきてやがる……!」
「この街のジャンクパーツはメンテナンスが甘いんだよ。一発一五メニカの旧式弾だが、あんたの安物の腕を壊すにににゃ十分だ」
ジンは容赦なくさらに二発、同じ箇所を正確に撃ち抜いた。
高圧オイルが激しく噴き出し、巨漢は悲鳴を上げてその場に膝を突く。
周囲で出方を窺っていたハイエナたちの目が、一瞬で警戒の色に変形した。
「チッ、弾を三発も無駄にしちまった。……四五メニカの純損失だ。おい王女、ぼさっとするな。今のうちに走るぞ」
「は、はい……っ!」
リリアはジンのフライトジャケットの裾を強く掴み、錆びた電子機器の山を縫うようにして走り出した。周囲のならず者たちは、ジンの冷徹な手際と「本物の銃火器」の威嚇に気圧され、それ以上追ってこようとはしなかった。
二人は息を切らせながら、路地の最深部にある薄暗いジャンク屋『オールド・バレル』の重い鉄扉を押し開けた。
「……おい、親父。生きてるか。コイン・トスの『飯』を仕入れに来たぞ」
カウンターの奥から、片目が義眼の老人が顔を出す。老人はジンの顔を見るなり、深く刻まれた眉間のシワをさらに深くした。
「ジンか……。まだ生きてやがったか。だが、タイミングが悪いな。お前の故郷、旧アルタ州から不穏な噂が流れてきてる。世界銀行が、あそこをタダのゴミ捨て場から『何か』へ作り変えようとしてるぞ」




