↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

#30. 懲罰。



できれば聞こえてくる声をたどって、一人残らず断罪してやりたかった。しかし、そのためには時間もないし、正直言って面倒くさかった。


面倒くさいとすら感じる。


(雑魚の不良どもを一網打尽にできるようなものって、何かあるかな?)


連中を一か所に集められるだけでなく、あえて不満を口にすることもできないほど圧倒的で派手な演出なら、なおさら良さそうだ。


遥か高くそびえる鐘塔を見上げながら考えを巡らせていると、遠くない場所からエルケルの気配を感じ取った。


(ふふ、いい考えが浮かんだわ)


手際よく計画を立てたエルナは、決して大きくはないものの、耳の奥に鮮明に突き刺さる朗らかな声で口を開いた。


「これが鐘塔なんだね。本当に見事だなあ。ねえ、グレン、こんな巨大な鐘塔って、どこの村にもあるものなの?」

「はい? あ、はい。鐘塔の設置は義務づけられていますので」

「へえ……どうして鐘塔を設置するの?」

「災害が発生した際にお知らせするためです。この鐘が鳴ると、非戦闘員は避難所へ、戦闘員は直ちに鐘が鳴った回数に応じた方向へ向かいます」


実はエルナは、鐘塔についての説明をザハードから聞いたことがあった。しかし、初めて聞いたかのように感嘆の声を漏らしながら、彼の話に耳を傾けた。


「いくら鐘が大きくても、響く音には限界があるはずなのに。獣人族って本当に耳がいいんだね。ハメルーンにはこんなものないからさ」

「鐘がないのであれば、人族大陸では何をもって危険を知らせるのですか?」

「普通は魔法で襲撃の予報を知らせるよ。こんなふうに」


エルナがグレンの方へ手を差し出すと同時に、その手つきに合わせて炎が揺らめいた。


赤々と燃え盛る炎は徐々に大きさを増していき、やがて翼を大きく広げた鳥となって空へと舞い上がった。


美しい火の鳥の姿に、列に並んでいた人族の冒険者の口から口笛が漏れた。


「お嬢ちゃん、魔術師かい? すげえな」

「魔法にはちょっと自信があるものだから。だから、皆さんはこれから起こることを心配する必要なんてないのよ」

「えっ? それどういうことだ?」

「ふふ、面白いものを見せてあげるから、もう少し待っててね。あ、それから、よければ少し下がってもらえる?」


エルナの笑みに、冒険者たちは怪訝な表情を浮かべながらも、エルナが動きやすいようにと身を引いてくれた。それに伴い、エルナはグレンへと視線を向けて話を続けた。


「グレン、この火の鳥は知らせるだけの効果じゃないんだよ。ほら、こんなふうに威嚇だってできるの」


言い終えたエルナが指を弾くと、火の鳥が空中で爆発し、地上へと降り注いだ。


ほとんどの火の玉は落下する途中で消え失せたが、いくつかの火の玉はヒソヒソ声が続いていた路地裏や大通りへと落ちていった。


[きゃっ! 私の尻尾が!]

[うわっ、なんだ?!]

[火を消せ、火を消せ!]


大きな事故にならないよう火加減を調整したため火事にはならず、髪や毛の一部が焦げる程度で済んだ。


しかし、思いがけない攻撃を受けた獣人たちの怒りに満ちた視線がエルナに突き刺さった。


エルナは待っていましたとばかりに、片方の口角を持ち上げた。

鮮やかな嘲笑だった。


[人族のめす、貴様、今何をした!]

[生意気なアマが……]


エルナの挑発に、物陰に隠れて陰口を叩いていた獣人たちが、一人また一人とエルナに歩み寄り始めた。


怒りに満ちた獣人たちの姿に、エルナの背後に立っていた一人の冒険者が彼女に尋ねた。さきほど彼女に同調してくれた冒険者だった。


「おい、お嬢ちゃん。獣人たちを刺激してどうする気だ。そんなことしたら大変なことになるぞ」

「あら、心配してくれてありがとう。でも、全然問題ないわ。むしろ……獣人って短気だと思っていたけど、意外と身を引かないものね」


パカンの連中といい、今といい。獣人という存在は、本当にエルナの想像とは違うようだ。もっとも、彼らだって知性を持った者なのだから、種族として性格をひとくくりにするなんてナンセンスだけどさ。


(そうよ、良い人がいれば悪いだってもいる。悪い人ほど目立つものだしね)


目を細めたエルナが首をこつんと傾げ、指先をクイッと動かした。


[か弱い女がそんなに怖いのかしら、陰でコソコソと卑怯にささやいたりして。文句があるなら表に出て言いなさいよ]

[おう、いいぜ。よっぽど痛い目にあいてえらしいな]

[どこか一つ使い物にならなくなっても恨むなよ。お前が選んだ道だからな!]


人族の女になめられるのが我慢ならなかったのか、屈強な体格の獣人たちが数人、即座にエルナへと襲いかかった。しかし、彼らがエルナに届く直前、まるで道を塞ぐかのように空から大きな何かが降ってきた。


-ズシン、ズシン!


反射的に駆け出す足を止めた獣人たちが、重々しい音を立てて落ちてきたものを見つめた。それが何であるかに気づいた瞬間、獣人たちは息を呑んだ。


[ひっ……!]

[な、なんだこれ?!]


エルナに襲いかかろうとしていた獣人たちの前に落ちてきたのは、血まみれの獣人の一団だった。数は計12人。様々な種族が入り混じっていたが、そのうちの3人は青雄族だった。


ボロ布のようになった同胞の姿に、先ほどまで絡んでいた獣人たちの顔が青ざめた。


ワンテンポ遅れて、空から漆黒の鳥が舞い降りた。長い尾を優雅に揺らしながら、巨大な鳥が地面に転がっている血まみれの獣人の一団――エルナが捕らえてこいと言いつけておいた盗賊団の上に降り立った。


エルナの鋭い足爪が食い込むと、盗賊団が細いうめき声を漏らした。


エルナがスタスタと歩を進めてエルケルに近づくと、エルケルは待っていたかのように彼女の体に顔をすり寄せた。


「エルケル、盗賊たちを捕まえてきてくれたんだね。よくやったわ。でも、まだ戻るには早いみたい」


言い終えたエルナの視線が絡んできた獣人たちに向かうと、彼らの肩がビクッと震えた。


力なく垂れ下がった尻尾から、すでに攻撃の意思を喪失していることは分かったが、ここで終わらせては面白くない。


そこでエルナは尊大な表情を浮かべて口を開いた。


[痛い目に合わせるだの何だの言っておいて、もう尻尾を巻いて逃げるの? 獣人も大したことないみたいね]

[……]

[そう言わずに、もっとやってみたらどう? 爪を立てたなら、かすり傷一つくらいつけてみなさいよ。ほら、あなたたちが散々バカにしている人族の女なんでしょ?]

[……]

[なんで何も言わないの? まさか怖いの? 人族の小娘に負けるのが?]

[いい加減にしろ! エルケルがいくら中級の幻獣だとしても……]


エルナの挑発に闘気を蘇らせた獣人たちが、歯をギリギリと鳴らしながらエルナに歩み寄った。彼らを懲らしめようとエルナが魔法式を紡ぎ出そうとした、その瞬間だった。


[そこまでだ。]


背後から聞こえた低く厳格な声に、周囲に集まっていた青雄族の獣人たちが一斉に頭を下げた。エルナが振り返ると同時に、厳格な声が続いた。


「あの者どもは私が厳しく言い聞かせておくゆえ、もうこれくらいにしておけ。女王エルナよ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。