#21. もう二度と会えない人。
そうはいっても、服を作り出すことができる魔法とは……非常に興味深い。
この魔法があれば収納バッグにもっと余裕を持たせる事ができるのではないか?
一体どんな原理で作っているのだろう? 男が着ている服は非常にシンプルなシャツとズボンだ。
複雑なデザインを作り出すためには、それだけ厄介な魔法が必要なのだろうか?
(ザハードはこんな魔法教えてくれたことないのに。こんなに便利なものをどうして教えてくれなかったんだろ? 私が怠け者になりすぎると思って教えなかったのかな? ふうむ)
あれこれと考えながら男の服をじっと見つめていると、彼が申し訳なさそうな声で言葉を続けた。
「魔法がそんなに気になるのですか? 教えて差し上げるのは難しくありませんが……ですが、その前にザハード様について、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「あっ。ごめんね。私、はしゃぎすぎてたわね」
そういえば、今は魔法について話している場合ではなかった。
その上、この男は患者だ。患者を目の前にして自分一人ではしゃいでいたようで、非常に申し訳なくなった。
「とんでもないです。お嬢様の、言葉を遮ってしまい大変申し訳ありません。遅くなりましたが、私メを助けてくださり本当にありがとうございます。おかげさまで、ザハード様の居場所を知ることができました」
男が深く頭を下げて挨拶をした。ぶかぶかのシャツ越しに巻き付いている包帯が痛々しく感じられた。
(この人、ザハードとかなり親しそうだけど……)
彼にザハードの訃報を伝えなければならないと思うと、胸が重くなった。
エルナがどうしても口を開けないまま彼を見つめていると、男がベッドから降りてエルナの前にひざまずいた。
「えっ? ちょっと、何をしているの!?」
「お嬢様。お願いがあります。お嬢様の命令なら何でもいたします。ですからどうか私メを……ザハード様のところへ連れていってください」
男の願いにエルナは息を呑んだ。エルナの反応を拒絶だと思ったのか、彼が深く頭を下げた。
「お願いいたします。一度だけでいいのです。ただザハード様がお元気でいらっしゃるか、ご無事であるか。それだけでも知りたいのです。そのあとでしたら私メをどうなさろうと構いませんので……」
ザハードの安全さえ確認できれば自分自身はどうなっても構わないと言わんばかりの彼の言葉に、エルナは静かな眼差しで男を見つめた。
床に散らばった白い髪が、白い墓石を思い起こさせた。降っていた雨は冷たかった。石の感触は硬かった。
ここに埋葬された人は二度と戻らないということを教えてくれるように……。
ザハードの墓碑の前に立ったその瞬間が思い出され、指先が震えた。
その場に座り込んだエルナが、そっと男の肩をつかんだ。男がゆっくりと顔を上げた。
(私に訃報を伝えるとき、父様はこんな気持ちだったのかな)
不安感と一縷の期待を宿した赤い瞳がエルナをとらえた。
もうこれ以上泣かないと誓ったのに。ザハードの知らせを口にしようとすると、言葉よりも先に涙がこみ上げてきた。
エルナはなかなか開かない口を開いて言った。
「ザハードは……この世界にいないわ」
「……えっ?」
「こんな知らせを伝えてごめんね。ザハードは三年前……ハメルーンで息を引き取ったの」
「……お願いです。そのような冗談はおっしゃらないでください。ザハード様は私たち連合軍の中でも最も優れた方でした。人族大陸で亡くなられるはずが……」
「長年の奴隷生活で病を患ったそうよ。ごめんね」
男の赤い瞳に透明な涙が溜まり始めた。わななく唇が、かろうじて言葉を紡ぎ出した。
「本当……ですか? ザハード様が。本当に……亡くなられたのですか?」
「……ええ」
重みに耐えかねた涙がとうとう白い頬を伝って流れ落ちた。男の顔が歪んだ。
「私メが、遅かったのですか……? 本当に……これ以上お会いできないのですか」
「……」
「どうにかして……氷の海を渡るべきだったのに。こうと分かっていれば……っく……ぐすっ」
あふれ出る感情を抑えきれないように、男が崩れ落ちた。
エルナはザハードについて何も知らなかった。彼が亡くなる瞬間でさえ、エルナは何も知らなかった。
だからこそザハードについて知るために、彼をこの場所で眠らせてあげるために、獣大陸にやってきた。
ザハードなら見守っていてくれると言いながら、笑って前に進んだ。どこかでで見守っていてくれると。
しかし今、彼の死を自分の口で語っていると、耐え難ほど深い喪失感が押し寄せてきた。
どれだけ彼を知ろうとしても、彼が見守ってくれていると信じても、それはあくまで儚い信仰にすぎない。
彼を知ろうとしても、もはや彼に会うことはできない。
彼が見守ってくれていると信じても、二度とその微笑みを見ることはできない。ザハードは死んでしまったのだから。
唇が震えた。全身が震えた。胸が痛すぎた。
まだ収めきれなかった苦痛が涙となって頬を伝い流れ落ちた。
「ごめんね。ザハードを故郷に連れて行ってあげると約束したのに。私が約束を守れなかったの。私がもう少し早ければ。もう少し……ぐすっ」
紡ぎきれなかった言葉が涙となってこぼれ落ちた。
ザハードを思うと胸が痛んだ。彼の臨終に立ち会えなかったことがひどく心残りだった。深い後悔が消えてくれない。
大きな寝室にすすり泣きの音が響き渡ること、どれほどだっただろうか。
先に涙を拭ったのは男の方だった。
両手で顔を覆ったまますすり泣いているエルナの背中を、そっと優しく撫で下ろしてくれるのが感じられた。
「お嬢様の、せいではありません。申し訳ありません。感情的になってしまいましたね」
「ううん、違うの。私が約束さえ守っていれば……」
「獣人は本来、自身の欠点を他人に知らせません。病気であればなおさら知らせません。ザハード様はお嬢様に弱い姿を見せたくなかったのでしょう」
悲しいのは自分自身も同じはずなのに。エルナを慰めている男の姿を見ていると、優しかったザハードが思い出され、ますます涙があふれてきた。
エルナがなかなか涙を引っ込められずにいると、男がそっと彼女を抱きしめた。
男の抱擁からはザハードと同じ匂いがした。それが猛烈に安心させられると同時に、どうしようもないほど痛く胸に迫ってきた。




