ヘーゼルの女主人
ーーー何の話をしてるのかしら。
この場では流石に許可なく喋ることが出来ないヘーゼルは、なんか凹んでいるらしいアロイとミィを訝しんでいた。
ーーートールダムが現れたのって、ミィ達のせいなの?
話の流れからしてそれっぽいけど、何か『風が吹いて桶屋が儲かる』的なことなのではないだろうか。
ご当主様も国王陛下も、そんなニュアンスで話している気がするし。
「ヘーゼル……」
そこで、ミィがこちらに声を掛けてくる。
なんか凄く申し訳なさそうでショックを受けた感じだけれど……ヘーゼルは、その態度にちょっとイラッとした。
ーーーそうじゃないでしょう!
「よく分からないですが、どうでもいいですよ。そんなことより、隠し事されてたことの方が怒ってます」
一応、場を弁えて敬語を使いつつ、ヘーゼルがそう告げると、ミィの目が驚きで丸くなる。
ーーー驚くようなことかどうかも見えてないの!?
ミィは一体、どうしてしまったのか。
自分の行動に疑問を持ったり、ヘーゼルの反応で驚いたり……そんなミィは、全然違うのだ。
トールダムが現れたことが仮にミィ達のせいだとしても、悪気のない行為どころか、多分分かりようのなかったことっぽい。
なら、本当にそんなことより、友達だと思ってたのに自分に関わる隠し事をしてたことの方が、よっぽど腹に据えかねる話だと。
そうヘーゼルが考えるってことが分からないくらい、何も見えていないミィなんて。
そんなのは、いつものミィじゃない。
「話をさっさと進められては? ミザリにもこの後、どうするかを聞きに行かないといけないんですし」
ヘーゼルがそう急かすと、ミィがちょっと気の抜けたような顔をしたので、さらに一言付け加えた。
「国王陛下にお示しになった言葉の他にも、『もう起こってしまったことを気にしても仕方ない』と常々仰っているのも、奥方様ですよ」
喋り過ぎただろうか、と思いつつ、ヘーゼルは頭を下げる。
ーーーそんなことでウジウジしてるなんて『らしく』ないんだから、いい加減シャキッとしなさいよ……ッ!!
意識を取り戻してからこっち、どうにもミィは、こういう『らしくなさ』が目立つのである。
普段はいつも通りだけれど、あれ以来、なんかあるとちょっと動揺して後ろ向きになる。
『グリンデル伯爵家の真実』の話にしたって、前までのミィならもっと早く話してくれていた筈だ。
何となく自信がなくなってて、だから何となく人を信用出来てなくて、だからいちいち、行動がワンテンポ遅い、そんな感じに見える。
強気で自信満々でいて貰わないと、困る。
頼りないミィなんて、ヘーゼルだけじゃなくて、皆が困るのだ。
ミザリだって、今のミザリなら……きっとミィとアロイがいつも通りで、ちゃんと話すって決めて話に行ったら、全然大丈夫に違いない。
あの子にはヘーゼルもいるし、ウーヲンもいる。
自分に、ミザリやシドゥがいるみたいに。
ーーー『私のせいで』じゃないのよ! いつもみたいに言いなさいよ! 『私がいるから大丈夫』って!
たったそれだけで。
本当は大丈夫じゃなくたって、ミィがそうやって強気な態度で『行くわよ!』って言うだけで。
皆、安心するのに。
そんな風に、ヘーゼルが言葉と視線に込めた気持ちを、理解したのかしなかったのか。
外見が出会った頃みたいに若返っている女主人は、広げた扇を口元に当てて、小さく息を吐いた。
※※※
ーーー全然ダメね。
ウェルミィは、ヘーゼルの視線に込められた『しっかりしなさいよ! らしくないわね!』という気持ちをヒシヒシと感じていた。
ーーー情けないわ。
演技は得意だった筈なのに、ヘーゼルに全部見抜かれて不安に思われているなんて。
全然悪役令嬢らしくも、〝悪の華〟らしくもない。
ウェルミィは一度、静かに目を閉じた。
ーーーしっかりしなさい、ウェルミィ・オルミラージュ。貴女は、この程度で狼狽えるような女じゃなかったでしょう?
何かミスをしたなら、悩むのではなく全力で挽回する。
何か仕掛けられたなら、仕掛けてきた相手に全力で応じる。
今まで、そうして生きてきた筈だ。
まして、頼れる人の少なかった昔と違って、今はウェルミィが全力で突き進んでも支えてくれる人達がたくさんいる。
ーーーそうよ。……頼りなくなよなよしてる場合じゃないのよ。
何せ、今回の喧嘩の相手は、女神なのである。
世界そのものをどうこう出来るような、それこそお義姉様のとんでもない力を与えた存在だ。
そんな相手に、『お前に貰ったものなんかいらない』って叩きつけに行くのに。
自分のせいなんて揺らいでいる程度じゃ、そんなの、夢のまた夢。
ただ吠えただけの、戯言になってしまう。
ーーー思うなら、余計な手出ししやがって、じゃないの?
ルール違反みたいな手助けなんかなくても生きて行ける、って示して。
意地でもその横っ面張り倒す為に、方法を探しているのではなかったのか。
ーーー矜持を思い出しなさい、ウェルミィ。
自分がそれを為すという、強い信念を持って、生きること。
それが、誰に与えられたわけでもない、ウェルミィ自身が決めた、自分の生き方だった筈だ。
ゆっくりと目を開くと、その場にいる面々を顎を上げて見回す。
ーーーそうよ。女神や運命程度、どうってことないのよ。
そう定めた、と誰かに押し付けられたものを覆してきたのも、飲み込んで自分の意志で歩んできたのも、ウェルミィだけじゃない。
お義姉様も、エイデスも。
この場にいる他の面々も。
今まで知り合ってきた皆だって、そうだ。
それぞれが、自分の出来ることを全力でやって、生きてきたのだ。
人として、愛する者の為に。
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