異世界編 その23『そして』
ケヲス中央都市スウロラ。
勇者アイザワやノイ達が参加した武闘大会はこの都市にある『闘技場』で行われた。
ちなみにそこではほぼ毎日何かしらの『試合』をしているらしく、遠目から見ただけだが周囲には飲食店や武器屋なんかが立ち並び賑わっていた。
ここケヲスは実力主義という風潮で強い=偉いという考えを持っていることは知っていたけど。
宿にあった観光マップを思い出す。
ギルド受付嬢人気No1 ワウワス・ノーちゃんに聞いたオススメスポットはコレ!
オススメ☆その1
『ゴールデンロード』…闘技場前の歴代大会優勝者の手形や武器のオブジェが
飾られている道。 歴代の強者たちの強さを体感しよう!
オススメ☆その2
『クラロド・ケーニー実物大像』…ギルドホーム前にある闘技場現チャンピオンの銅像。
写真撮影出来ます! 記念にどうぞ♪
オススメ☆その…いやもういい。
現実逃避で何だか疲れてきた。精神的に。
ってかあれ。確か『クラロド・ケーニー』ってケヲス総統帥と同じ名前じゃね?
「小鳥さん小鳥さん。 案内の方がいらっしゃいましたよ」
おぉっと。そうだった。
ケヲス南の都から中央都市にやってきた私たちはギルドセンターに寄り勇者アイザワの情報を集めようとするとケヲス人の職員からギルドホームに私たちをご指名に会いたいと言っている人がいるという。
誰かと問えば「上司からはそれだけだったので…」とわからず。
まぁ私たちを知っているのなら旅の目的を知っているとか知り合いとかだろうし「会う」ことが不利益になると思えないから行くことにし。
取り合えずココに記録してある勇者アイザワの任務履歴をメモっていたのを照らし合わせてから向かって案内されると…
なんと、マライルさんでした。
本日はマライルさんとお話しのようです。
「お久しぶり、という感じでもないですね」
「先日はどうもですかね。 あ、紹介します。 部下のキツネさんです」
上司なら部下をさん付けしないのだろうけど私の中では『キツネさん』だしなぁ…。まぁいいか。
「では私も改めて。 ケヲス中央都市ギルド所長の『マライラ・マト・ティンガ』と
いいます。 本日はコトリさんにオルブライト王国国家図書庫管理司書長として
お話しがありましてお呼びさせてもらいました」
ギルドホーム内にある個室。
少人数で話し合うのに使われているであろうこの部屋は私とキツネさんとマライラさんの3人しかいない。
「何でしょう? もしかして『ドラゴン』について、とかですか?」
SSSランクのドラゴン討伐。
それが依頼され受諾され完遂した、としかわからなく何でもイイので少しでも中身が知りたいところだ。
ポケットから白紙を取り出しメモをする用意をするとマライラさんは「申し訳ないですが」と本当に申し訳なさそうに。
「本日はその件ではないのです。 こちらを見ていただけますか?」
私とマライラさんの間にあるテーブルに一枚の用紙が出される。
見てみると【任務:盗賊討伐 依頼者:クラロド・ケーニー 任務遂行指定:チーム聖光騎士団 ランク:S+ …】
下の方に文章が。何々…北の都北東付近に根城を持つ盗賊団の殲滅任務。
って、え。
討伐じゃなくて殲滅? 報酬が桁違うとか依頼者がすんごいヒトとか言いたい事はあるが勇者アイザワが殲滅任務?
顔を上げる。
「詳しくお話しします。 貴方には知っている義務があると思いますので」
「なるほど…キツネさん、お茶を」
「わかりました。 あぁ昼食の時間も近いですから軽食もお持ちしましょうか?」
「その辺はキツネさんにお任せするよ」
私はペコリと軽くお辞儀をして部屋を出て行くキツネさんを白紙を仕舞いつつ見送った。
バタン。
「…お気を使わせてしまってすみません」
「いえいえお構いなく。 キツネさんが戻ってくるまでにお仕事頑張って
お腹減らしましょ、お互いに」
「えぇそうですね…では何から、いえ最初から話しましょう」
勇者アイザワと巫女さんが出会った時のイベント、エルフ誘拐未遂事件。
近年多発していたアジュラ住民の消息不明事件。
バラド民族惨殺事件。
それら全ての犯人がその殲滅対象となった盗賊団、とな。
色々あった出来事、全部ソイツのせい。っていうのは…まぁ随分後片付けが楽そうなことではある。
一応判明した動機や戦利品の流れなんかも全部聞いちゃったりしたが。
勇者アイザワの軌跡として必要なことを書き出すとしたら…
【ケヲス北東に潜む盗賊団を勇者アイザワ達はケヲス軍と協力し討伐任務を
遂行した。盗賊の首領は追い詰められた最後、『魔界は既に在る!意思は
既に意思を持つ!力を持つ!強きが弱きに負けることがないのだ!』と
言い残し魔の気配のする黒い煙に溶かされるように消えた。
そして他の団員も取り押さえられ事件の証拠となる物品なども回収され
依頼主であるケヲスから多大な感謝をされたという。】
こんな感じだろうか。
嘘は言ってない。 ただ、本当のことを言わなさ過ぎってだけで。
けれど頼まれたから仕方ない。
マライラさんに、ではなくてケヲス・アジュラ・オルブライト三国に頼まれたから仕方ないのだ。
書かないでくれ、と。
とはいっても。
忘れるわけにもいかないので『赤い本』に全部書くとしよう。
メモに日本語で書けばいいとは思ったがJの時のように見られてしまうかもしれない。
読めないだろうが読めない言語を使いこなせているのを見られるのも良くないだろう。
…もしキツネさんが『コレ』を読んだならただ忘れないで欲しい。それだけ。
「…わかりました。 そういう事でしたら致し方ありません。
とはいえこれで三国以外の『敵』が出来るのですから最低限書かせてもらいますが」
「それはそうでしょうとも。 だからこそ此方から全て情報を開示したのでしょうから」
「お疲れ様ですねぇ…マライラさん」
「えぇ全く…」
マライラさんはソファの背に身を預け、目頭を揉む。
何だろう…仕草や何かではなく毛並みから疲れオーラが出ていそうだ。
私もそんな脱力する姿につられてか無意識に力んでいた肩を落とす。
「「はぁ…」」
紅茶はまだのようだ。
そして残念ながらお腹の具合もまだ余裕がある。
もう少し頑張れと?
えー
「めんどい・・・」
「どうかされましたか?」
「あ、いえキツネさんが戻ってこないなーと」
余裕があるといってもそろそろ戻ってきていいと思うんだよね…うんホントに思ってた。
材料買って調理ーな事はないだろうし話の本題が終わったから都合良く入ってきてもいんじゃね?っていう。
「あぁそれはですね」
マライルさんは軽く曲げた人差し指を口に当てて…まるで指笛を鳴らす動作に見えた。
え、ってことは…。
「話が終わるまでオロキュスにこの部屋に誰も入れないよう命じていました。
今知らせたのでもう少ししたら戻って来るでしょう」
「…なるほど」
うんこれでいいんだよ。うんこれが普通で当たり前なんだよ。
夜。
今日のお話しを全て『赤い本』に記して残り僅かな気力でベット(ソファー)に寝転がる。
予め用意しといた毛布に包まり…よし寝る準備おk。
「小鳥さん…そこで寝る気ですか」
案の定キツネさんからの苦言がすかさず飛んできたがもぅ余裕があるのは口くらいで。
「本日の寝床はココだね。 もー動ける気しないし」
「全く…」
視線を動かすとソファーの背もたれにキツネさんが寄りかかる様子が見れた。
どうやら少し話したいことがあるようだ。
まぁ別に構わないけどそれくらい。
「小鳥さんは…気になりませんか?」
「気になるのが色々有り過ぎるんだよねー…とはいってもこのタイミングだと
ドラゴンだったり?」
「えぇ、ドラゴンの役割が浮いてるってことが」
「ふむ…」
盗賊の殲滅依頼、首領の言葉は勇者が魔王を倒す一連の流れ(ストーリー)といってイイだろう。
けどドラゴンは? 考えるにドラゴン=魔王ってわけなさそうだし…首領の言葉を意訳するとこうだ。
『使える力は充分だしこっちは元々強いんだからお前ら弱いのに負けるはずないじゃん』
これって現状手出しはしないけどそんなでも勝てるしかかってこいやー!だよね?
ってことは魔王が直接出てくることはない、けど強いドラゴン出てきてるし。
じゃあドラゴンって何なのさ?
「確かマライラさんは…」
私とキツネさん、マライラさんとオロキュスさんの4人で食事中に聞いたのだ。
ドラゴンってどんなモノだと教わってました?と。
「オルブライトでは『早く寝ないとドラゴンに食べられちゃうぞ』と子供の教訓に。
アジュラでは伝説上のもういない存在に。
ケヲスでは未確認で魔モノの頂点である、といわれてる。
つまりどこも話の中にしか存在していなかった…けれど」
「実際に存在した。 そしてティンガ族ではちょっと違う口伝があって」
そう。
マライラさんが『コトリさんだから』と教えてくれた。
「【竜は我らが『獣』の長であり始であり、決して
牙を向けてならぬモノである】ですか。これまた気になることですよね…」
「気になるトコだらけじゃん。 書き出すのも面倒なくらい」
まぁ順調に魔王まで近づいてきてるから任務の経過としてはいぃんだけど。
「はぁふ…」
面倒なこと考えてたら眠くなってきた。疲れてたし、結構。
「キツネさん」
「…なんでしょう?」
「もう寝てもいいかな? 気になることは明日にでも纏めればいいよ」
「わかりました。 おやすみなさい、小鳥さん」
「おやすみキツネさん」
ぐっすりと眠りに落ちた少女を見る。
「小鳥さん…」
(何で足の事言わなかったんですか? 気付かせようとしなかったんですか?)
ノドに突っかかって出てきてくれなかった言葉。
言ってどうなる、と諦めてる自分がいて弱さを思い知らされる。
それに比べてこの少女は…なんて強い。
テーブルに開きっ放しで置いてある『分厚い本』を片付けようと手に取り、中身が視界に入る。
その懐かしい日本語についつい読んでしまう。
読むなとは言われてないし自分の名前もタイトルに入ってるのだ、読んでも構わないだろう。
とはいえ全部は長いだろうから…そうだ、今日の分だけでいいだろう。
「…」
最後の一文を読み終え、本を閉じる。
…あぁ、
そんなに強いと、甘えてしまうではないか。