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聖女ですが、冷血の暴君(自称)が私のご飯で感動してうるさい  作者: 紺木羽ノ歌


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第5話:薄紅の帳を纏いし聖なる揺籃

貴様って…


夕暮れ時の橙色の光が差し込む中、アラルドはゆっくりと目を覚ました。

「……ハッ!? 私はいったい……!?」

ガバッと跳ね起きるアラルド。

「あ、起きました? よく眠れてましたよ。4時間くらい」

「よ、4時間!? 夢も見ずに、こんなに深く眠れたのは……何年ぶりだ……!?」

信じられないといった様子で自分の手を見るアラルド。身体が驚くほど軽くなっているのが分かるのだろう。

アラルドは私をじっと見つめると、ゆっくりと膝をついた。

今までの威圧的な態度でも、中二病な突進でもない。真摯な、一人の男としての眼差しだった。

「サオリ」

「はい?」

「私は今まで、貴様に『料理を作れ』『城に来い』と勝手なことばかり言ってきた。……撤回する」

「お、改心しました?」

「私は……貴様という存在に救われたのだ。この傷だらけの心を、貴様の温もりが満たしてくれた。……私は、貴様の隣にいたい。貴様が笑って過ごせる場所を、私がこの剣で守りたいのだ」

彼の琥珀色の瞳が、真っ直ぐに私をとらえる。

「料理のためではない。貴様が好きだ、サオリ。私と……結婚してくれないか?」

真っ直ぐで、飾らない、本物のプロポーズ。

さすがの私も、心がキュンと跳ねるのを感じた。元ベテランナースとはいえ、こんなに男前な騎士様に真剣に告白されたら、照れないわけがない。

「……もう、最初からそう言えばいいのに」

私はふっと微笑んだ。

「いいですよ。ただし、条件があります」

「条件? 何だ!? 城を一つ建てるか? 宝石か!?」

「違います」

私は指を立てて、ビシッと告げた。

「一、毎日の残業(戦い)は禁止。定時で帰ってくること。

二、休日は二人でゆっくりお茶を飲むこと。

三、私の『定時退勤スローライフ』を絶対に邪魔しないこと。……以上です!」

アラルドは一瞬ぽかんとした後、心底楽しそうに爆笑した。

「ハハハッ! なんだそれは! おやすい御用だ! むしろ望むところだ!」

アラルドは嬉しそうに私を抱きしめた。甲冑が冷たいけれど、彼の体温はとても温かかった。

それから、数ヶ月後。

「サオリ! 薪割りも終わったし、今日の夕刻の巡回も異常なしだ! これで本日の『定時退勤』の義務は果たされたな!」

「はいはい、お見事ですアラルドさん。手洗いとうがいをして、そこに座ってください」

小さな家の縁側に、私とアラルドは並んで腰を下ろした。

すっかり日も落ちかけ、空が綺麗な茜色から紫色のグラデーションへと移り変わっていく。

「頑張ったアラルドさんに、今日のご褒美おやつです」

私が冷蔵魔法で冷やしておいた小鉢を差し出すと、アラルドの琥珀色の瞳が輝いた。

「む……これは……? 黄色く滑らかな質感、そして上部にかけられた漆黒の蜜……。一見すると、どこか儚げな豆腐のようだが……」

アラルドはスプーンですくい、口へと運ぶ。

(プルン……)

「……っ!? な、なんだこの妖艶な食感は……!? 舌の上に乗せた瞬間、ぬかるむように解け、卵と牛乳の豊かな甘みが口腔全体を支配していく……! そしてこの上に鎮座する苦くも甘い黒きタレ(カラメル)……! 甘美と苦痛が交差する、まさに……【薄紅のキャラメルを纏いし 聖なる揺籃プリン・ラグナロク】……!!」

「あ、カラメルソースは焦がしすぎないように微調整したんです。どうです、美味しいですか?」

「……ああ。飛び上がるほど美味しい。サオリ、貴様はやはり天才の魔導調合師だ……」

アラルドはスプーンを握りしめたまま、うっとりと目を細めた。

そして、私の手をそっと自分の大きな手で包み込んでくる。

「アラルドさん? 手が温かいですね。また血圧上がって……」

「違う。……ただ、幸せなのだ。こうして二人で、静かな夕暮れに甘き『揺籃』を食す。……昔の私には、こんな穏やかな時間が訪れるなど、夢にも思わなかった」

真剣な眼差しで私を見つめてくる旦那様。……ずるいなぁ、普段はあんなに中二病で大騒ぎしているくせに、不意打ちでこういう顔をするんだから。

「……ふふ、私もですよ。前世でも今世でも、こんなにのんびりおやつを食べられるなんて思ってませんでした」

「サオリ。これからもずっと、私の隣でこの『揺籃』を作ってくれるか?」

「ええ、もちろん。ただし、甘いものの食べすぎは虫歯と血糖値の上昇につながりますから、週二回までですよ」

「〜〜〜っ!? そこは『はい、喜んで』と素直に言うところだろう……!?」

「ふふっ、私の本職は看護師ですからね。患者……じゃなくて、旦那様の健康を一生守るのが、私の大事なお仕事です」

茜色の風が吹き抜け、二人の笑い声が静かな森へと溶けていく。

最高に愛おしくて、少し騒がしい旦那様とのゆるゆるスローライフは、明日もきっと平和で美味しい一日に違いない。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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