第3話:暗黒の黒蛇を封印せし黄金の聖剣〜紅蓮の雷撃針を添えし 疾風迅雷の携帯要塞〜
それからというもの、アラルドは毎日正午になると我が物顔で教会にやってくるようになった。
薪割りを手伝わせたり、高い場所の掃除を頼んだりすると、「この私を雑用係にする気か!」と怒りつつも、完璧にこなしてくれる。案外、面倒見が良い性格なのだ。
そんな平和なある日の昼下がり。
私が縁側で冷やし緑茶を飲みながら、のんびりと読書を楽しんでいた時のことだった。
ズズズズズ……ッ!
突如として空が黒雲に覆われ、不穏な魔力が周囲を満たした。
教会の敷地内に、禍々しい紫色の魔法陣が浮かび上がる。
「カカカ! 見つけたぞ、隣国の英雄アラルド! そしてその女!」
魔法陣から現れたのは、巨大な角を生やした悪魔のような男——魔王軍四天王の一人、狂乱のガルバだった。
「我が魔王軍の脅威となるお前を、この辺境の地で密かに抹殺してくれる! 死ねぇっ!」
凄まじい殺気が放たれる。普通の人間なら恐怖で動けなくなるレベルの威圧感だ。
しかし。
「……おい、貴様」
アラルドが、低く、地獄の底から響くような声を出した。
その全身から放たれる殺気は、悪魔であるガルバのそれを遥かに凌駕していた。
「なに……? なんだその眼光は……!? 死期を悟って狂ったか!?」
「貴様……今が何時か分かっているのか?」
アラルドは、背中の大剣をゆっくりと引き抜いた。
「今は……サオリの貴重な休憩時間(12:00〜13:00)だぞ……!!」
「は?」
「彼女が毎日楽しみにしている、のんびりとお茶を飲む静かな時間を……貴様のような害虫が邪魔をしていい理由にはならんのだよおおおッ!!」
ドォォォォンッ!!
アラルドの一撃が炸裂した。
神速の斬撃。大気が裂け、衝撃波だけで森の樹木が吹き飛ぶ。
「ぐはぁっ!? な、なんだこの馬鹿力はぁぁぁああっ!?」
四天王の一角だったはずのガルバは、反撃の暇すら与えられず、一瞬で遥か彼方の空へと吹き飛んで行った。キラリと空で星になる悪魔。
「……ふぅ。サオリ、無事か!?」
剣を納めたアラルドが、必死の形相で私のもとへ駆け寄ってくる。その手に持たれていたのは……無惨にも押し潰された、今日の私の特製おやつだった。
「……くっ、奴のせいで、貴様が持たせてくれた
【暗黒の黒蛇(ソース焼きそば)を封印せし 黄金の聖剣コッペパン 〜紅蓮の雷撃針を添えし 疾風迅雷の携帯要塞〜】が……! 黄金の小麦装甲から、黒き蛇が溢れ出してしまった……!!」
「あーあ、せっかくの焼きそばパンが潰れちゃいましたね。アラルドさん、吹き飛ばす前にパン置けばよかったのに」
「む……!? (溢れた麺をパクリ)……っ!! な、なんだこの刺激は……!? 香ばしい濃密な黒タレが絡みついた麺と、ふんわりとしたパンの甘み! そしてこの上に鎮座する血のように赤い根菜の爽やかな酸味が、油分を一瞬で打ち消す……! 片手で持ち運べる携帯型・超高密度炭水化物兵器……!!」
「ただの焼きそばパンです。あ、ちなみにアラルドさんが暴れる前に、私の一張羅の『結界魔法』張っておいたんで、私のお茶も無事ですよ」
「結界……!? 四天王の襲撃を完璧に遮断しているだと……!? 貴様、やはりただ者では……」
「それよりアラルドさん。せっかくの休みなのに、そんなに興奮したら体に毒ですよ。ほら、座ってお茶飲んでください」
さっきまで世界を滅ぼしかねない殺気を放っていた男が、ちょこんと縁側に座り、潰れた焼きそばパンを大切そうに頬張りながらお茶を啜っている。
「……なあ、サオリ」
「なんですか?」
「私は……貴様といると、調子が狂う。だが……悪くない」
ぽつりと呟いたアラルドの横顔は、夕日に照らされてどこか柔らかかった。
(私もですよ…)




