第2話:黄金の煉獄皮膚を身に纏いし爆炎鳥の深層肉撃
「おいサオリ! 頼まれていた『すずらん草』だ! 森の奥で群生しているのを根こそぎ刈り取ってきたぞ!」
ドサッ、と重い音を立てて教会のテーブルに置かれたのは、もはや業者の出荷レベルの量の薬草だった。
翌日の正午ぴったり。宣言通りに現れたアラルドは、漆黒の甲冑に身を包んだ威厳ある姿……のまま、両腕いっぱいに薬草を抱えてドヤ顔を決めていた。
「……アラルドさん。頼んだのは『一掴み分』なんですけど。これ、教会の軒下に入りきりませんよ」
「なに? 不足があっては困ると思ってな。この私をパシリに使ったのだ、これくらい当然の成果だ!」
「はいはい、ありがとうございます。じゃあご褒美のお昼ごはんにしましょう」
「ふん、別に期待など……」
そう言いながらも、アラルドの琥珀色の瞳は期待でキラキラと輝いている。分かりやすい男だ。
今日のお昼のメインディッシュは、前世でも大人気だった『醤油ベースのから揚げ』と『甘い玉子焼き』、そして『ポテトサラダ』である。
「……なんだこの茶色い肉の塊は。表面がカリカリとしているが……」
「鶏肉に醤油と生姜で下味をつけて、衣をまぶして揚げたものです。熱いから気をつけてくださいね」
アラルドは半信半疑のまま、フォークでから揚げをひとつ持ち上げ、口へと運んだ。
(サクッ……ジワァッ……)
咀嚼した瞬間、静寂が訪れた。
アラルドの身体がピクリと硬直する。
「……な、なんだこれは……!? 噛みちぎった瞬間、香ばしい衣の中から溢れ出す圧倒的な肉汁……! 醤油の芳醇な香りと生姜の爽やかな風味が、肉の旨味を極限まで引き立てている……! 外はサクサク、中はジュワッ……この奇跡的な食感のコントラストは一体……!?」
「あ、ポテトサラダもどうぞ。お肉の合間に食べるとさっぱりしますよ」
「む……この白い泥のようなものは……ふむ、ジャガイモか? (モグッ)……!? 柔らかな芋の甘みと、酸味のある滑らかなタレ(マヨネーズ)が絶妙に絡み合い、から揚げの脂っぽさを一瞬で洗い流していく……! これは……永久機関か!? から揚げとこのサラダを交互に食べ続ければ、私は無限に戦い続けられるぞ……!!」
大絶賛である。
冷血の暴君と呼ばれた男が、から揚げとポテトサラダのループに完全にハマっていた。
「……サオリ」
から揚げを完食したアラルドが、真剣な面持ちで私を見つめてきた。手に持ったフォークを握りしめ、顔をほんのり赤く染めている。
「貴様……いや、サオリ。私は決めたぞ」
「なんですか? お代わりならまだありますよ」
「そうではない! 貴様を私の居城へ拉致し、一生私の専属料理人……いや、妻として迎え入れる! 毎日このから揚げとポテトサラダを作るがいい! これは決定事項だ、拒否権はない!!」
必死の形相で放たれた、渾身のプロポーズ(兼拉致予告)。
だが、元ベテランナースの私から見れば、彼の表情や興奮状態は別のシグナルにしか見えない。
「あー、アラルドさん。ちょっとおでこ失礼しますね」
「な、なんだ急に……っ!?」
ひょいと手を伸ばし、彼のおでこに手を当てる。
「んー、熱はないですね。でも血圧が上がって興奮状態になってます。アドレナリンが出すぎですね。あと、から揚げの食べすぎは塩分と脂質の過剰摂取になるので、毎日はダメです。週一回まで」
「〜〜〜っ!? 私は本気で求婚して……!」
「はいはい、食後のカルピス(っぽい甘酸っぱいジュース)飲んで落ち着いてくださいねー。はい、ゴクゴクしてー」
「ゴク……ゴク……うん、甘酸っぱくて美味しい……じゃなくて!! 私は『冷血の暴君』だぞ!? なぜそうも子供扱いするのだ!?」
「だって、暴れん坊の患者さんにそっくりなんですもん。ほら、口元にポテサラついてますよ」
私は指先で彼の口元を拭ってやった。
アラルドは「〜〜〜〜っ!?」と声にならない悲鳴を上げ、顔を真っ赤にして固まってしまったのだった。




