↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ですが、冷血の暴君(自称)が私のご飯で感動してうるさい  作者: 紺木羽ノ歌


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/6

第1話:漆黒の深淵を纏いし白銀の聖結晶 (核心に眠る緋き結晶)


「あー…やっぱり、定時で帰れる世界って最高……」


木漏れ日が柔らかく差し込む森の薬草園で、私——サオリは、摘み取ったばかりの『スッキリ草』の香りを嗅ぎながら、深く息を吐き出した。

前世の私は、某総合病院で夜勤と残業に追われるベテラン看護師だった。ナースコールは鳴り止まず、モンスター患者には追われ、睡眠時間は削られ……気づけば三十代半ばを過ぎたある冬の夜、当直室で仮眠を取っていたはずが、目が覚めたらこの異世界にいたのだ。

神様的なサムシングが気を利かせたのか、今の私は二十代前半の若い身体と、そこそこの『癒やしの魔法』を持って、辺境の小さな教会で気ままな一人暮らしをしている。

たぶん聖女。でも「穢れを払え」とか「魔王を倒せ」なんて無茶振りは一切なし。あんまり脅威ではないらしい。

なので、前世で磨いた観察眼とトリアージ能力、そしてちょっとした治癒魔法があれば、村人たちの肩こりを治したり、擦り傷に絆創膏を貼ってあげるだけで感謝され、食いっぱぐれることはない。


「よし、今日の仕事はこれでおしまい! お昼ごはんにしようっと」

薬草のカゴを抱え、ルンルン気分で教会の裏手へ向かおうとした、その時だった。

ガサガサッ、ドサッ。

草むらから、明らかに人間の大人ひとりが倒れ込む重い音がした。

「……ん?」

振り返ると、そこには漆黒のフルプレートアーマーに身を包んだ大男が、うつ伏せで倒れていた。背中には、身の丈ほどもあるゴツい大剣。兜からはみ出た銀髪が、血と泥で汚れている。

前世の職業病が速攻で発動した。

(意識レベル確認……応答なし。呼吸はある。バイタルは……脈拍、やや頻脈。出血箇所は右脇腹か)

私は即座に駆け寄り、慣れた手つきで男の身体を仰向けにした。

兜の隙間から覗く顔立ちは、ぞっとするほど整っていた。鋭い眉、高い鼻梁、引き締まった唇。だが、今は苦痛に歪んでいる。

「はいはい、大丈夫ですよー。今ラクにしてあげますからね」

私は溜息をつきつつ、右手に温かな光を宿した。

癒やしの魔法を脇腹の傷口に当てる。じわじわと肉体が再生し、出血が止まっていく。ついでに前世で培った「つぼ押し」の要領で、男の緊張した筋肉を解してやった。

「ふぅ……よし、処置完了。あとは水分補給と栄養補給ですね」

治癒魔法のおかげで命に別状はないはずだ。私が立ち上がろうとしたその時、ガシッと強い力で手首を掴まれた。

「……くっ……貴様……私に何をした……!?」

男が薄っすらと目を開けていた。その瞳は、吸い込まれそうなほど鮮やかな琥珀色だ。声は低く、威厳に満ちている。……が、目の焦点が微妙に合っていない。完全に迷走神経反射を起こしかけている顔だ。

「何をしたって、手当てですよ。あ、急に起き上がると貧血起こしますから、そのまま寝ててくださいね」

「戯言を……! 私は隣国の黒狼騎士団長、アラルド・フォン・ヴァルハイト……! 『冷血の暴君』と恐れられたこの私を、ただの魔法で救っただと……? 謀ったな……!」

名乗りが長い。

あと「冷血の暴君」って自分で言っちゃうタイプかw

「はいはい、アラルドさんね。血圧上がっちゃいますから、大声出さないでください。暴君だろうが何だろうが、うちの敷地で倒れられたら後味が悪いんで。ほら、お水どうぞ」

私は腰の水筒を外し、彼の口元に当ててやった。

アラルドと名乗った男は、警戒心露わに私を睨みつけていたが、喉の渇きには勝てなかったらしい。コクコクと水を飲み干すと、少しだけ顔色が戻った。

「……ふん。命拾いしたようだな。だが勘違いするなよ、女。私は借りを作らん。この礼はいずれ——」

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。

森の静寂を切り裂くように、盛大な腹の虫が鳴り響いた。

アラルドの顔が、みるみるうちに耳まで真っ赤に染まっていく。

威厳たっぷりのフルプレートアーマーを着た大男が、お腹を鳴らして赤面している。うん、可愛いところあるじゃないか。

「……今の音は、アレだ、蛙だ……」

「無理がありすぎますね。ちょうどお昼にしようと思ってたんです。冷やご飯と、昨日の残りの味噌汁くらいしかありませんけど、食べます?」

「断る! 敵国の料理など……くっ、毒でも入っていたらどうする!」

「入ってたら、さっき助けた意味がないでしょうが。ほら、立ち上がれます?」

私は呆れながら、彼を教会の縁側に連れて行った。

数分後。

アラルドの目の前には、竹の葉に包まれた「大きなおにぎり2個(お米っぽい穀類。具:梅干しっぽい酸っぱいやつと昆布らしき草)」と、具だくさんの味噌(のような調味料)汁、そして自家製の浅漬けが並べられていた。

異世界に来て一番感動したのは、この地方に米と味噌に酷似した穀物・調味料が存在していたことだ。前世の和食恋しさに、私は完璧な「おふくろの味」を再現していたのである。コレも神様的サムシングの配慮かしら。

「……何だ、この黒い紙のようなものが巻きついた白い塊は。毒物か?」

「海苔です。美味しいから食べてみてください。あと、熱いから気をつけて」

アラルドは疑いの目を崩さないまま、恐る恐るおにぎりを掴んだ。

そして、覚悟を決めたようにガブリと一口かぶりつく。

(モグ……モグ……)

アラルドの動きがピタリと止まった。

「……? アラルドさん?」

次の瞬間、彼の琥珀色の瞳がカッと見開かれた。「な……なんだこの食べ物は……!? 噛んだ瞬間に口の中に広がる、絶妙な塩加減と米の甘み! そしてこの黒き海苔の香ばしさと、中に潜む酸っぱい果実……! まさに……

【封印されし白銀の聖結晶

〜漆黒の深淵(海苔)を纏いし魔導核〜】

ではないか! 旨味の波が、私の脳髄をダイレクトに揺さぶっていく……!?」

語彙力の暴風雨が吹き荒れた。

「あ、梅干しですね。疲労回復に効くんですよ」

「さらにこの茶色いスープ! 根菜の甘みと発酵した豆の深いコク……これぞ

【大地の霊脈(発酵豆)より湧き出でし 創世の混沌スープ(カオス・ブロス)】!

傷ついた私の胃壁を優しく包み込んでいく……! まるで……まるで、母の温もりに抱かれているかのような……っ!?」

「……語彙力高いわね…」

冷血の暴君はどこへ行ったのか。アラルドは凄まじい勢いでおにぎりを口に押し込み、味噌汁をズズッと啜り、浅漬けをバリバリと音を立てて完食した。

「ふぅ……」

全てを食べ終えたアラルドは、満足感に満ちた顔で天を仰いでいた。

「どうです? お腹膨らみました?」

「……フッ、悪くない毒だった。私の勝ちだ」

「勝ち負けじゃないです。じゃ、元気になったなら気をつけて帰ってくださいねー。長居されると近所迷惑なんで」

私は空になった食器を下げようとした。

すると、アラルドがガタッと立ち上がり、私の肩を両手で掴んだ。顔が近い。めちゃくちゃ男前な顔が目の前にある。

「女! 名を何という!」

「サオリですけど……」

「サオリか! 覚えておく! 私は明日も、貴様の命を狙いにここへ来る!!」

「えっ、物騒な予告やめてもらっていいですか?」

「この『冷血の暴君』アラルド・フォン・ヴァルハイトの命を狙う刺客など、返り討ちにしてくれるわ! だから明日も……その、あの白い塊と茶色いスープを用意しておけ! いいな!?」

ツンデレの方向性が迷子になっている。

要するに「明日もお昼ごはん食べに来ていい?」ということらしい。

「はいはい。じゃあ明日来るなら、途中の道で『すずらん草』摘んできてください。薬の材料にするんで」

「な……私を駒のように使う気か!? 貴様、命が惜しくないのか!?」

「はーい、お気をつけてー」

手を振って見送ると、アラルドは「くっ……覚えていろよ!」と捨て台詞を残し、マントを翻して森の奥へと消えて行った。

私は差し込む日差しを浴びながら、ポリポリと浅漬けをかじる。

「……なんか、騒がしいのが来ちゃったなぁ。まあ、定時退勤は死守するけど」

これが、私と「自称・暴君」の、実にゆるくておかしな日々の始まりだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

ブクマや感想、リアクション、評価をいただけると励みになります。よろしくお願いしますm(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。