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第8話 修道院の書架裏
手がかりを追って訪れた雪丘修道院の書架裏には、私の母が寄贈したはずの植物図鑑が隠されていた。
表紙の百合紋は削られ、上から新しい蔵書票が貼られている。けれど、完全には消せていない。紙は正直だ。
「持ち込んだのは若い貴婦人でした」
老修道女が教えてくれた。
「『花嫁文庫に置く前の修復をお願い』と」
私は図鑑の見返しをそっと撫でる。
修復依頼者、リディア・フォルクナー。
同席者、ユリウス・ベルンハルト。
備考、旧蔵書印は剥離希望。
「そこまでして」
私の声は、自分でも驚くほど静かだった。怒りすぎると、かえって声は凍るらしい。
アルノーが修道院の窓外を見たまま言う。
「剥がした跡が残るなら、消えていないのと同じだ」
「ええ。だから、もう少しです」
母の本は、私が読むべき場所へ戻せる。そう確信できたのは、この北辺で初めてだった。




