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第5話 無口な辺境伯は破れた栞を拾う

封書庫の床に落ちていた古い栞を、アルノーは自分の手で拾った。


 辺境伯が紙片を拾う必要なんて本来ない。それでも彼は、赤い絹のほつれた栞を私へ差し出した。


「見るんだろう」


 私は頷き、栞に触れた。すぐに余白がひらく。これは母が愛用していた詩集に挟まれていた栞だ。裏面には小さく棚番が書かれ、その上から別の数字が重ねられている。


 移送箱番号九。


 同送品、装丁箱二点、蔵書印一箱。


 最終送付先、王都装丁庫。


「本だけじゃありません。蔵書印と装丁具も一緒に動いています」


「花嫁文庫を作るには、見た目も必要だからか」


「私の母の印まで使うために」


 アルノーの横顔がわずかに険しくなった。


「死者の遺品まで奪う連中は嫌いだ」


 その声は低いのに、不思議と私の胸の凍りを溶かす。


「辺境伯は、思ったより優しい方なんですね」


「優しくはない。本の持ち主を取り違えるのが嫌いなだけだ」


 無口な人だ。けれど、破れた栞を見捨てない人でもある。私はその事実を、思っていた以上に大切に感じていた。


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