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第4話 返されなかった持参金目録
翌朝、私は北辺文庫の回送棚を片端から調べた。
見つかったのは、婚礼準備室から送られた雑多な荷札と、封の破れた木箱の控え書き。だが肝心の目録三一七だけが抜かれている。代わりに差し込まれていたのは「新花嫁用寄贈本に編入」とだけ記された粗末な札だった。署名も日付もない。
「これを正式な記録と呼ぶのは無理ですね」
私が言うと、アルノーは帳面を覗き込んだ。
「辺境では、配給の控えにこんな穴があれば誰も眠れない」
私は回送控えの余白へ指を滑らせる。白い文字がまた浮かぶ。
持参金評価額、金貨二百四十枚。
返還停止理由、婚約者承認済。
承認者、ユリウス・ベルンハルト。
「返還停止まで入っています」
「婚約破棄の前に、君の持参金を凍結したわけか」
アルノーの声に、低い怒りが混じった。私は帳面を閉じる。
「婚約を奪うだけでは足りなかったんです。母の本棚まで義妹の飾りにするつもりだった」
彼は鍵束を一つ、机の上へ置いた。
「北塔の封書庫も開けろ。責任は私が持つ」
王都では、責任という言葉は私を黙らせるために使われた。けれど彼のそれは、調べ続ける許可として置かれた。




