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第2話 左遷先は北辺文庫

北辺文庫は、雪と石と紙でできた静かな砦だった。


 王都から四日。たどり着いたシュタイン辺境伯領の文庫は、城館の北塔に併設された古い書庫だった。窓の向こうでは雪が細かく舞い、書棚のあいだを冷気が糸のように流れていく。王都の華やかな閲覧室と違い、ここにあるのは救貧台帳、相続記録、貸本札、巡回文庫の破損報告ばかりだ。


「ここでは一冊の本が、冬の慰めになる」


 低く落ち着いた声がした。辺境伯アルノー・シュタイン。三十五歳。灰青の瞳と無駄のない物腰を持つ男だった。冷たい印象なのに、言葉には妙な正確さがある。


「王都では目録をなくしたそうだな」


「なくしたのではなく、抜かれたんです」


 私がそう言うと、彼は少しだけ眉を上げた。


「言い切れるなら、働ける」


 歓迎でも慰めでもない。けれど切り捨てでもなかった。その線引きだけで、少しだけ胸が楽になる。


 その日のうちに私は北辺文庫の未整理箱を開いた。返却されない貸本、破れた蔵書印、雪害で濡れた古文書。その中に、王都から回送されたと見られる私物本の木札が一枚だけ混じっている。母の蔵書印と同じ百合紋が、かすかに残っていた。


 目録三一七は、やはりここへつながっている。


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