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第19話 もうあなたの蔵書印には戻らない
すべてが明るみに出たあと、ユリウスが一人で私の前に現れた。
「やり直せないか」
夕暮れの閲覧室跡。かつての婚約者は、ようやく私を真っ直ぐ見た。
「君は必要だったんだ。記録も、蔵書も、落ち着きも」
「私は家具ではありません」
自分でも驚くほど、声は穏やかだった。
「あなたが必要だったのは、私じゃなくて、私が守っていたものよ」
私は母の百合紋が押された蔵書印を手に取る。
「もうあなたの蔵書印には戻らない。私は私の本棚で、私の名前で生きていく」
ユリウスは何も言えなかった。ようやく、本当に終わったのだと思う。喪失よりも、解放の方がずっと大きかった。
振り返ると、入口の外でアルノーが待っていた。言葉を挟まず、ただ帰る場所がこちらにあると示すように。




