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第13話 辺境伯の読めない手紙

騒ぎのあと、アルノーは一通の古い手紙を私へ差し出した。


「頼みがある」


 それは亡き辺境伯夫人、つまり彼の母から届いた最後の手紙だった。雨で滲み、何度読んでも肝心な数行が解読できないという。


「私にですか」


「余白が読めるなら、これも読めるかもしれない」


 私は慎重に紙へ触れた。滲んだ文字の奥に、淡い金の線が浮かぶ。


 ――本は閉じた家を守るためではなく、寒い土地で生きる人に手渡すためにある。


 私は息を止めた。続きを読み上げる。


 ――もしあなたが信じられる記録官に出会えたなら、その人と一緒に春の図書室を作りなさい。


 アルノーは黙ったままだった。だが、握った手紙の端がわずかに震えている。


「お母様は、辺境の子どもたちに本を開きたかったんですね」


「ああ。だが私は、守ることばかり考えて閉じていた」


 彼は私を見る。


「君となら、開ける気がする」


 その言葉は求婚でも告白でもない。それなのに胸の奥へ静かに沈んでいき、長く残った。


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