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第10話 王都装丁庫の空箱

王都装丁庫には、磨かれた木箱が整然と並んでいた。


 けれど中身は空だ。母の本棚から消えた装丁具の箱も、ノエルの父の蔵書箱も、札だけが残されている。私は箱の内側に触れた。


 搬出先、婚礼準備室裏倉庫。


 確認者、ユリウス・ベルンハルト。


 備考、閲覧会後に返却予定。


「返す気なんてなかったくせに」


 私の呟きに、装丁庫の老職人が肩をすくめた。


「若い令嬢が『姉のものも、いずれ私の家のものになるの』とね。まさか本当にそうなるとは思わなかったよ」


 証言は十分だ。だが私は、怒り以上に呆れを感じていた。誰かが遺した本棚を、結婚式の飾りだとしか思っていない。その浅さが、どうしようもなく悲しい。


「エリナ」


 アルノーが私の名を呼ぶ。


「戻そう」


 短い一言が、ひどく優しかった。


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