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私たちの南海トラフ  作者: ⚓フランク ✥ ロイド⚓
第1章 私たちの南海トラフ

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第2話 まさか、ほんとに!

⌚2(・)0(・)2(・)6(・)年(・)1(・)0(・)月(・)2(・)9(・)日(・)((・)木(・))(・)午(・)前(・)3(・)時(・)1(・)9(・)分(・)


 明彦の言った15分後まであと6分。直美は、キッチンシンクの下から緊急持ち出し袋を取り出して、ダイニングテーブルの上に雑に置いた。眠いんだよ、私は、と彼女は目をこすった。


 バックパックのドスンという音。明彦が持って逃げるという前提でリストアップして詰め込んだので、彼女には重いと感じた。まだつながっているのかな?と直美はスマホを取り上げた。


「お~い、準備完了ですわよ、明彦!」

「キミは呑気な声だなあ。こっちは業務中だ。研究所の所内に連絡している途中なんだ。電磁石がクエンチしたり、トンネルの機器がズレたりする可能性があるからな」「政府や気象庁とかには連絡しないの?」


「KEKは文部科学省所管の研究機関だぜ。俺が見ているビーム軌道やエネルギーは、運転と機器保護のための数字だ。地震計も、衝突点の振動がルミノシティや超伝導電磁石に効くから置いているもので、気象庁の観測網には入っていないんだ。緊急地震速報の入力は、気象庁の地震計や防災科研が観測したデータを元に作成されるんだ。ウチは関係ない」


「でも、気象庁や防災科研とかの観測は、地震が起こってからなんでしょ?」

「俺に所轄外の地震予知をする義務はない。今晩のモニタールームの責任者の俺は、所内の関係各所担当者に『観測数値が異常だ、対処の可能性あり』と通達することしかできない」

「でも、本当に南海トラフが起こったら、あんたの通報で救われる命もあるんじゃ……」

「そんな通報をして押し問答をしている内に南海トラフが起こっちまうよ。あと、5分!」


「あ!北海道の実家に連絡しておいた方がいいかしら?」

「もう俺がやった。ラインの緊急連絡チャットで、俺らの親族と共通の友人にメッセを送っておいた。キミのラインにも入っているはずだが?」

「……あ!ホントだ!あんた、準備が良いわね。でも『可能性としてこれから大地震が起こるかもしれません』って文言、歯切れが悪くない?」


「ハッキリ書けないだろう?職権乱用になっちまうからな。キミの実家は北海道だから安全だ。俺の実家は静岡だから心配だが、親は俺の職務を知ってるから、察して準備するだろう、たぶん。いかんせん、時間が切迫しているからこれ以上の処置は無理だよ。それよりも、俺がメッセしていないキミの知り合いには何か警告しておいたほうが良いかもしれん」

「あ!遥!彼女、新宿住まいなのよ。実家は沖縄だから首都圏に知り合いがいないと思う」

「メッセの時間はないから、通話すれば良い!あと、3分!」

「わ、わかった!彼女に電話する!」


 直美は、彼女の担当のアイドル、遥に別のスマホのアンドロイドから通話した。こんな早朝に起きているのかしら?あら?なんて説明すればいいんだろうか?と思いながら、遥の番号をタップした。


「もしもし、直美さん?」とハッキリした声が聞こえた。起きてたんかい?「遥!起きてたのね?良かったわ。あのね、あと数分で『 Jアラート』が南海トラフ地震の警報を鳴らすかも知れないの。詳しく説明している時間はないけど、窓とかドアとか開け放して、逃げる準備をするのよ、遥」

「え?どういうことですか?そんな急に……」


 iPhoneから「あと2分!」という明彦の声が聞こえた。「あと、2分ぐらいよ。何もなければ良いけど。準備だけしておいて!何もなければ寝ちゃえばいいのよ」

「……あの、その、直美さん、私、今、自宅じゃなくって……」

「ど、どこにいるの?」

「……彼氏といます……」

「だから、どこなの?」

「沼津のホテルです……」

「遥!あなた、今日録音じゃないの!」

「彼の車で来たので、間に合うかなって思って……」


 直美は頭がこんがらがった。新宿の自宅にいるはずの遥が沼津にいる?それも収録日の早朝に!……って、それはどうでもよくって、沼津!南海トラフ!やばいじゃん!ととっさに思った。「わ、わかったわ。あのね、もしも地震が起こったら録音どころじゃないわ!とにかく、普段着に着替えて、荷物をまとめて。いつでも避難できるようにして!」

「わ、わかりました。了解です!」


 iPhoneから「あと15秒!」という明彦の声が聞こえた。「彼氏を起こしなさい!何もなければ、スタジオで会いましょう……」


 15秒が過ぎた……床が振動している感じが……ドン!と建物がしなった。


 4秒して、いつ聞いても嫌なJアラートの音が直美のふたつのスマホから同時に鳴り響いた。


「ゲ!予知が当たっちまったぜ!直美!落ち着いて、テーブルの下に避難しろ!揺れが収まったら、周囲を確認して、危険なら階段で外へ出ろ!隣の總持寺の境内まで逃げるんだ!」とiPhoneから明彦の声が聞こえた。


 アンドロイドからは、遥の「直美さん!地震が!地震が!おっきい!」という切迫した声が聞こえた。

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