表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
48/57

48旅立ち

 今、おれの前にはゆかちゃんがいる。


 ゆかちゃんの後ろ髪はほどけた。

 このままでも旅立てる。


 けれど後ろ髪は長く、またどこかでなにかに引かれてしまうかもしれない。

 そうすれば、ゆかちゃんはまた足を留めてしまうことになる。


 できることなら、断ってあげたい。


 でも後ろ髪を断つというのは――触れられないものを断つというのは、集中力を要し、更にかなり体力を消耗することだった。


 消耗すれば、髪を食わなければ動けなくなるかもしれない。


 悩んでいると、どこかから「おーい」という声が聞こえた。


 見れば、尋さんと八上が砂浜を駆けてくるところだった。

 その横をころころと転がっているのは、丸まったつっちーだろう。


「よかったわね、見つかって」

「こなたの家には連絡入れといたからさ」

「ぜえ、ぜえ、わしがキヨを呼びに行ってやったんだぞ、ぜえ、感謝するがいい」  


 一気ににぎやかになる。


「みんな、こなたのこと心配してたんだね」


 ゆかちゃんが、眩しそうな目をする。


「ええ、とても優しい人たちなの。ゆかと同じよ」


 穏やかに話すふたりを見ていると、胸が熱くなってくる。

 と、ぽんと肩を叩かれた。


「天音さん……?」

「大丈夫だよ」 


「え?」

「思うとおりにすれば、いいよ。ここにはみんなもいるし、わたしもいるから。あとのことは、わたしに任せて。どーんと」


 天音さんにはゆかちゃんが見えていないはずなのに、おれがなにを視ているのかわからないはずなのに、おれが悩んでいることに気づいていたようだ。


 どーん、と天音さんが自分の胸を叩いた。


 その動きが、浴衣の着付けはわたしに任せて、と言った時の梨花さんの動きとそっくりで、血はつながっていなくても親子なんだな、と感じる。


「うん。そうだね」 


 やる前から心配していても仕方がない。

 今は、ゆかちゃんを気持ちよく送ってあげたい。


 それに、天音さんの言うとおり、ここには仲間がいる。

 キヨもいる。


 あまり頼みたくはないけど、どうしても動けなくなったらキヨに髪をもらおうか。


 もう髪は食べない、その時が来たら死ぬだけ。

 そう思っていたはずなのに、今は、できることならまだみんなといたいと、そう思うようになっている自分に気づく。


 女の子の髪を切るくらいなら、まだキヨのほうがましだ。

 本人は髪が短くなっても全く気にしていないようだし。


 そんなことを考えていたら、本当に大丈夫な気がしてきた。

 お別れをしているふたりにゆっくりと近づく。


「ゆかちゃんがちゃんと目的地にたどりつけるように、おまじないをさせてもらってもいいかな?」


「おまじない?」

「そう。迷わないおまじない」  


 うん、とゆかちゃんが頷くのを確認してから、おれは右手の手袋をはずした。


 そして後ろ髪をじっと見つめる。

 断つべきところとタイミングを見極める。

 今だ、という瞬間、揃えた二本の右指を横に一閃させた。


 さらり、と触れられないはずの髪が、ゆかちゃんから切り離される。

 切り落された後ろ髪が風にさらわれ、夜の海へと消えてゆく。


「さあ、いいよ。これでもう、ゆかちゃんは迷わない。こなたちゃんと笑顔でお別れしたゆかちゃんのまま、旅立てる」


「ありがとう、お兄ちゃん」

「どういたしまして」


 おれも笑顔でゆかちゃんを送りたい。

 疲労感がずしりと肩にのしかかってくるけれど、気持ちはすっきりしていた。


 ゆかちゃんとこなたちゃんが、再び向かい合う。


「それじゃあ、こなた」

「うん、ゆか。また、いつかどこかで」


 いつかどこかで。


 その言葉を聞いて、ゆかちゃんが目を瞠った。

 そしてふわりと、とても嬉しそうな笑顔になる。


「いつか、どこかで。それまで、ばいばい」

「ばいばい」


 飛んでいった後ろ髪を追うように、すうっと、ゆかちゃんの足元から海へと光の道が伸びた。


 手を振って、ゆかちゃんはゆっくりとその坂道を上ってゆく。

 やがてゆかちゃんの姿は見えなくなり、光の道も闇にまぎれて消えた。


 それを見届けてから、おれはがくりと砂浜に膝をついた。

 限界だった。


「大和くん!」

「ごめん。少しだけ、休ませて……」


 本当は、こなたちゃんをちゃんと家まで送り届けないといけないんだけど、これ以上は立っていることすらできそうになかった。


 あとのことは、申し訳ないけれどみんなに任せてもいいかな。

 天音さんの言葉に甘えさせてもらうことになるけど。

 梨花さんもいるんだから、きっと大丈夫だろう――。


 そこまで考えたところで、おれは意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ