43.死者の国に近い場所
おれはに、もうこの世にいないはずのひとの姿が、生きている人間と同じように見える。
あまりにも普通に見えるから、それが生きているひとなのかそうでないのかわからないくらいだ。
だから、不安になった時にはその人の影を見るようにしている。
母さんが亡くなった時も、おれのことを心配して地上に留まっている母さんの姿がおれにははっきりと見えた。
「東風さん、ここは現世で一番、死者の国――黄泉、に近い場所ですよね」
「ええ、そう言われているみたいね」
「そしてこなたちゃんは、死んでいる人の姿が見える」
「ええ、見えるわ。たぶん、狭霧くんと同じように」
「こなたちゃんが一緒にいた子は、おそらく黄泉へ行く途中で迷った子だと思います。おれにはこなたちゃんと同じくらいの年の子に見えました。寂しくて、友だちがほしかったのかも。もしその子が、こなたちゃんを一緒に黄泉へ連れてゆこうとしているのなら、こなたちゃんが危険です」
「すぐ、捜索願を出すわ!」
「おれたちも捜します。見つかったら連絡しますから」
踵を返した東風さんの背に向かって声をかける。
「お願い!」
振り向いた東風さんに頷いて見せてから、おれはスマホへ目を落とす。
「尋さん、聞こえてましたか?」
『だいたいは。つまりこなたちゃんが死者に魅入られたかもしれないってことね?』
「はい、その可能性があると思います。尋さん、この辺りではこういうことがよくあるんですか?」
『……ええ、あるわね。場所柄、どうしてもこういうことが起き易いらしいのよ。だから梨花はいつも飛び回ってるのよ』
「梨花さんが?」
『そう。梨花は、迷った者が正しく黄泉へ向かえるよう、手伝いをしているの。でもまさか自分が留守にしているあいだに、姪っ子が巻き込まれているなんて考えもしなかったのかも』
「それで、梨花さんは今どこに?」
『宮司としての仕事を終えて、わたしたちの着付けを手伝ってくれたあと、すぐにここを発ったはずよ。もうとっくにこの町にはいないわ』
「そんな……」
『とにかく手分けして探しましょう。わたしたち、今、山加外神社まで戻って来てるの。ここに来ていたことは間違いないんだから、境内や周辺を気をつけて捜してみるわ。梨花にも連絡とってみる。キヨは……エスケープがてら山に帰ってるから、つっちーに呼び戻してきてもらうわ』
「わかりました。おれは家の近所……こなたちゃんの小学校とか公園とか、その辺を捜してみます」
『じゃあ、なにかあったら連絡して』
「了解です」
『気をつけろよ』
「そっちもな」
通話を終え、スマホをポケットに戻して駆け出す。
すると、アパートの前で、階段を下りてくる天音さんと遭遇した。
浴衣から普段着へと着替えている。パーカーにハーフパンツ、スニーカーという、ワンピースやスカートが多い普段の天音さんの服装とはちょっとイメージの違う、動き易そうな格好だ。
「声が聞こえたから……」
「こなたちゃんが行方不明なんだ。今からおれ、ちょっとその辺捜してくるから……」
「わたしも行く」
「え、でも……」
「わたしも心配だから」
「そうだよね。わかった。ちなみに、天音さんは最後にこなたちゃんを見たのいつ?」
「今日の朝。ひとりで境内を歩いてた」
「そっか」
天音さんにも、おさげの女の子は見えていないのか。
説得をするにしても、なんにしても、とにかく女の子の見えるおれが行ったほうがいい。
「絶対に見つけないと。こなたちゃんはしっかりしてるから、大丈夫だと思うけど、でも……」
こなたちゃんにはどの程度見えるんだろう。
話をする程度なら、おれくらいはっきり見えていれば、相手が人間じゃないって気づかないかもしれない。でも、一緒に遊んでいたら、手や体が触れることはあると思う。
相手は実体があるわけじゃないから、触れればわかるはずだけど……。
相手はもう死んでいるんだと知っていて、それでも友だちなんだとしたら……。
おれは右手をぎゅっと握った。
迷っているひとは、黄泉路へと導くべきだ。
けれど。
おれはこなたちゃんの顔を思い出す。
友だちのことを話すとき、ちょっとはにかみがちな笑顔を浮かべる、その顔を。
それでも、こなたちゃんをあちらへ行かせるわけにはいかない。
おれも八上も、もちろんこなたちゃんの家族だって、みんなこなたちゃんのことが大好きで、成長をすごく楽しみにしてるんだから。
「うん。行こう」
こなたちゃんと一緒に帰ってくるために。




