4.小学生と散歩
アパートは、最寄り駅から歩いて10分のところにある。
駅周辺には空き地が広がっていてコンビニのひとつも見当たらず、空き地を縫うように伸びる道路を五分程度歩くと住宅地に入る。
そこから更に五分ほど歩くとアパートに着くけど、その間、店らしい店を見つけることはできなかった。
そこでこなたちゃんには、駅とは反対のほうを案内してもらうことにした。
今時どこになにがあるかなんてスマホで調べればすぐにわかるだろうけど、実際に案内してもらえば地図を見ただけじゃわからない情報を教えてもらえるかもしれない。
前を歩くこなたちゃんから三歩分くらい離れてついてゆく。
アパート周辺はありふれた住宅街だけど、全体的に高い建物が少ない。
前に住んでいたところでは十階以上の高さのマンションがいくつもあったし、一軒家も家の前に一台分の駐車スペースがあるだけの三階建てというのをよく見かけた。
でもこの辺りは平屋か二階建ての家がほとんどで、門と庭のある家も多い。
土蔵も見かけた。
高層マンションは少なくて、二階建てのコーポやアパートがほとんどだ。
その分、空が広く見えるし、日当たりもよさそうだ。
おばあちゃんやおじちゃんとすれ違うと、みんながこなたちゃんに笑顔で声をかける。
こなたちゃんは、その都度足を止めて、礼儀正しく挨拶を返している。
本当にしっかりしているいい子だ。
近所の人たちも、そんなこなたちゃんを可愛く思っているのが伝わってくる。
「ねえ、なんで離れて歩くの?」
ふいに、こなたちゃんがおれを振り返った。
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……話しにくいし、なんだか変な感じだわ」
「ごめん。……でも、女の子と歩くのって慣れてなくて」
正直に告白すると、こなたちゃんはちょっと呆れたような残念そうな顔でおれを見て、小さなため息をひとつ吐いた。
「仕方がないわね。……ああ、そういえば、コンビニの場所は知ってる?」
「大学に行く途中にコンビニがあるのは知ってるよ」
全国展開されている、青い看板のコンビニだ。
「ああ、でもあそこは少し遠いでしょ? 町内にもあるのよ。この角を曲がって……はい、ここね」
こなたちゃんが手のひらで指し示したのは、見たことのない看板の店だった。
そこには『アミーガ』と書かれている。
「アミーガ?」
「そう。アミーガ。ちなみに夜は閉まるから気をつけてね」
「え、それってコンビニっていうの?」
「この辺の人はみんなコンビニって言ってるわよ? 郷に入っては郷に従ったほうがいいんじゃない?」
「え、あ、うん。まあ、そうだね……」
スーパーに行くよりも近いから、利用することがあるかもしれない。
「寄る?」
「いや、今はいいよ」
「そう。じゃあ、次はこっちね」
アミーガの前を通り過ぎて、こなたちゃんは進んでゆく。
道幅はそれほど広くない。
車通りも、無くはないけれど多くもない。
民家のあいだには空き地がちらほらとあって、そこで小学生の男の子たちがボールで遊んでいたりもする。
道端にはところどころにお地蔵さんや小さなお祠があって、こなたちゃんは時々ポシェットから取り出したキャンディをお供えしながら歩いている。
その後、細い川に沿って歩いてゆくと住宅街を抜け、防風林が見えてきた。
潮の匂いが鼻に届く。
片道二車線の、車通りの多い産業道路を挟んだ向こう側がすぐ海らしい。
山も海も湖も近い。
自然が多く残っていて、今もこの一帯には妖怪が出るという噂がある。
また、かつてこのあたりには死者の国があったという言い伝えがあり、今も山加外は黄泉の国と遠からぬ関係にあると言われている。
おれがこれから住むことになるここ、山加外はそんな土地だ。
「左に進めば港があって、右に進めば山ね」
「海が思ったよりも近くてびっくりしたよ。アパートからじゃ見えないし」
「平地だもの。でも、海が近いと潮風のせいで自転車とかがすぐに錆びるから困るんだって」
「なるほどね」
地元の人には色々と苦労があるようだ。
「それじゃ、あとは鎮守様の神社にお参りしてから帰りましょ」
こなたちゃんがくるりと踵を返すと、ふわりとポニーテールが揺れる。
「たくさん歩いて疲れない? どこかで休もうか?」
「平気。休むなら、鎮守様のところにする」
「じゃあ……そうしようか。ここから神社って遠いの?」
「そんなでもないわ」
さっさと歩き始めるこなたちゃんのあとを、おれは慌てて追いかける。
そういえば、こうして小学生の女の子の後ろをつかず離れず歩いている自分の姿は、傍から見れば充分怪しいんじゃないだろうかと今更ながら思い至ったけれど、もう既にいろいろな人に見られている。
こうなった以上は、なにがなんでもこなたちゃんを無事家まで連れて帰るしかない、と肝に銘じる。
――でないと、あらぬ疑いをかけられる恐れがある。




