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37.誤解

 尋さんは藍色の地に蝶の華、天音さんは桃色に朝顔の柄の浴衣で現れた。

 ふたりとも髪を結いあげていて、露わになったうなじにどきりとする。 


 尋さんはおれとつっちーだけしかいないことを知っても八上のことには触れず、

「お待たせ。さあ行くわよー! 昼間たくさん働いたんだもの、しっかり遊ばないとね。あ、雨音っち、たこ焼き買っていこうよ、たこ焼き。雨音っちたこ焼き好きだよね?」

と、おおはしゃぎだった。


 無理してるのが、ばればれだった。


「ん。たこ焼きは優しいし、丸くて可愛いから、好き」

「そうだよな、たこ焼きは優しいよな!」


 天音さんの言葉に、水干から浴衣へと着替えたつっちーが同意してるけど、こいつ本当にわかってるのか? おれは、たこ焼きの美味しさは認めるけど、優しさに関してはちょっと戸惑ってる。


 可愛いってのはなんとなくわかる。

 小さくてころころしてるもんな。


 露店でたこ焼きと、あとつっちーがりんご飴を凝視しているのでそれも買うことにする。


 露店前は混雑していたから、尋さんたちには空いているところで待ってもらっている。

 つっちーと並んで尋さんたちを探すと、ふたりが境内の松の木の下に立っているのが見えた。


 けれどふたりだけじゃない。知らない男たちと一緒だ。


「あっ! あいつら、昼間の連中だぞ!」


 つっちーも気づいたのか、鋭い声を上げる。


「なんだって? 昼間ふたりに声かけてきたっていう?」

「そうだ。わしが追い払ってやったのにまだ懲りてなかったのか。しつこい奴らめ。これを持っていろ」 


 つっちーはおれにりんご飴を手渡すと、にゅるんと本来の姿に戻った。

 小さな毬のように丸まると、そのまま三人の男たちに向かって突進してゆく。


 おれは慌ててそのあとを追いかける。


「お、お待たせ!」


 転がったつっちーは目測を誤ったのか、惜しくも男たちの足のあいだをすり抜けていってしまったけれど、男たちは今なにか通らなかったか? とか言いながら足下を気にしている。


 その隙に、おれは天音さんたちと合流する。


「お帰り、狭霧」 


 天音さんの『お帰り』にちょっとくすぐったい気持ちになりつつ、そんな場合じゃないと気を引き締める。


「あの、おれの連れがどうかしましたか?」 


 わざとらしくならない程度に声を張って、三人組に声をかける。


 なんだこいつ、と鋭い目を向けられ、ちょっと心が怯みそうになる。

 でも、おれは八上にこのふたりのことを任されてるんだ。


 そうでなくても、ふたりはおれの大事な仲間だ。

 ここで引くなんてできるわけがない。


 ふたりと男たちのあいだに、身体を割り込ませる。


 緊迫した空気の中「あ、見つけた!」という子どもの声が闇の中から聞こえた。


「ごめんお姉ちゃん、僕、迷子になっちゃってた。てへ」


 さっき暗闇を突っ切って転がっていたつっちーが、再び人の姿になって戻ってきた。

 どうやら尋さんか天音さんの弟を演じるつもりらしい。


 普段のキャラとのギャップにぎょっとしつつも、「もう離れちゃだめだぞ」なんて言いながらりんご飴を渡してやる。


「狭霧、つっちー、なにか誤解してる?」


「え?」

「ん?」  


 おれとつっちーの声が被った。


「この人たち、わたしと同じゼミの子たちで、大井(おおい)くん中井(なかい)くん小井(こい)くん」

「ゼミの?」


 ナンパじゃなかったのか。


 つっちーが男に絡まれてた、なんて言っていたからてっきりナンパだとばかり思っていたのに。


「おい、ぜみってなんだ」


 シャツの裾をひっぱるつっちーにゼミの説明をしてやる。


「あのさ、ごめん雨音っち、狭霧、つっちー。わたし、この子たちと花火見に行ってもいいかな? 言いだしっぺが途中で抜けるとかほんとごめんなんだけど。ていうかつっちーも一緒にどう?」


「え、わし? なんでわし?」


 事態が呑み込めていないつっちーは混乱しているのか素に戻っている。


「でも尋さん……」


 男三人に女ひとりだなんて、いくら知り合いだとはいえなんだか不穏な気がする。

 つっちーは、誘われたって天音さんの傍を離れないだろう。


 ところが、尋さんは頭の周りに疑問符を浮かべているつっちーの手をぐいと掴むと、おれたちに「じゃ、また明日ね!」と言ってつっちーを引きずったまま男たちと一緒に行ってしまう。


「尋さん!」


 喧噪にかき消されてしまったのか、呼びかけた声に尋さんは応えてくれなかった。

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