33.長いつきあいの影響
酒樽を八上とふたりで抱えて社務所へと運ぶ。
境内では既に露店からいい匂いが漂っていて、スピーカーからはお囃子が流れている。
お囃子はカセットテープのもので、子どものころ巻かれているテープを引っ張り出して遊んで怒られた記憶があるけど、見るのは久しぶりだった。
境内は子ども神輿を担ぐ子どもやその友だちや保護者、大人神輿を担ぐ町内会青年団のみなさん、その他参拝客の方々でにぎわっている。
「あ、あれこなたじゃね?」
八上があれあれ、と視線でおれに教えてくれる。
その先には確かに、赤い浴衣を着て、ふたつに分けた髪をお団子にしたこなたちゃんがいた。
このあいだも一緒にいた女の子と並んで歩いている。
その女の子は黒い髪をふたつのお下げにして、夏らしい白のワンピースを着ている。
「ほんとだ。こなたちゃーん」
声をかけると、こちらを見て手を振ってくれた。
おれは両手がふさがっているので、笑顔で応えておく。
「馬子にも衣装だなぁ。こなたは大きくなったらきっと美人になるぜ」
「こなたちゃんは今でも美人だと思うよ」
「え、狭霧おまえそういう趣味が……?」
「ちっ、違うよ!」
慌てて否定する。そこは断固として否定する。
それに八上は、こなたちゃんの将来よりももっと気にすべきことがあるんじゃないか。
「……あのさ、尋さんのことなんだけど」
にやにやしている八上に切り出すと、僅かに眉をしかめた。
「狭霧がどう思ってるのか知らねーけど、それはもういいって」
「でもさっきも……。尋さんのあれ、空元気じゃないかな。少しわざとらしかったっていうかさ……」
「そりゃあ尋だってなにかいやなことや悩みのひとつふたつくらいあるだろうけど、それと俺は関係ないだろ」
「なくないよ」
「なくなくないって」
「なくなくなくな……ってそうじゃなくて。尋さんと八上って長いつきあいなんだろ? そのあいだにこういうことってこれまでなかったのか?」
「こういうことって、どういうことだよ?」
あーもうちょっと休憩しようぜ、と八上が言い出して、おれたちは酒樽を木陰に下ろした。
で? と八上に促されて、おれは考えながら口を開く。
「だから、八上が誰かとつきあってるのを見て、尋さんが落ち込むようなことだよ」
「はぁ。じゃあさ、狭霧。それがたとえ過去にあったとして、俺にどうしろって言うんだよ?」
「同じようなことがあったんなら、その時、尋さんはどうやって元気になったのか思い出せれば……」
「どうもしねーよ。放っといたらいつの間にか元に戻ってる」
「そんな……。八上はそれでなにも思わないのか? 本当は尋さんの気持ちに気づいてるんじゃないのか?」
知り合ってまだほんのわずかなおれにだって、尋さんが八上のことを想っていることが伝わってくるのに。
八上は一度口を開いたあと、ばりばりと頭を掻いて、ひとつ息を吐いた。




