30.見てしまったふたり
「おい、恙はどこ行った?」
祭りはいよいよ明日に迫っていて、おれたちは最終確認に追われていた。
「飲み物買ってくるって出て行ったわよ。三十分くらい前だったかしら」
社務所で座布団の数が足りない、倉庫じゃないのか、とてんやわんやしているところにキヨが顔を出した。
耳の前の髪が片方だけ短くなっているのはどうしても目を引くけど、本人は特に気にする風でなく、そのままの状態でうろうろしている。
宮司は未だに戻っていないらしい。
さすがに明日は神事もあるし戻って来るはずだがなぁ、とキヨは言っていたけれど、本当に大丈夫なのか不安になる。
キヨに髪を食わされた日以来、キヨを捕まえて話をしようと思っているのに、祭りの準備で慌ただしく、結局時間が取れないままだ。
祭りが終わるまでは難しそうだ。
「あ、おれ捜してきます」
「悪いわね、お願い~」
尋さんの声に送られて、社務所を出る。
境内には氏子さんをはじめ、露店の業者さんらも準備に奔走しており、にぎやかだ。
さて、買い出しってことは、アミーガかスーパーかそれともホームセンターか。
電話してみるのが早いな、とスマホを取り出しながら参道を歩いていると、参道脇の小道を入った林の中、木々のあいだからちらりと水色のものが見えた。
八上が今日水色のシャツを羽織っていたことを思い出す。
そちらへ近づいてゆくと、それはやっぱり八上だった。
こんなところでなにをやってるんだろう。
声をかけようとした時、八上の他にもうひとりいることに気づいて声を呑み込む。
相手は女の人のようだった。
こちらに背中を向けているので顔は見えないけれど、茶色いウェーブのかかった髪が背中に流れている。
ふたりはなにか話をしているようだけれど、ここまで声は聞こえない。
あの人が八上の彼女かな、とぼんやり思う。
と、女の人が八上に抱きついた。
えええええ、とおれは慌てる。
こ、こんなところでっ!?
いやいや見ちゃだめだ、と引き返そうとした時、八上が女の人の髪に顔を埋めた。
……そういうことなのかな。
おれは本当に八上と尋さんはお似合いだと思っていたから、八上が彼女と恋人っぽいことをするのを目の当たりにしたのは少しショックだった。
そんなの余計なお世話だろうけど。
気づかれないうちに帰ろう、とそっと踵を返して、はっと立ち尽くす。
そこに、尋さんが立っていた。
その目は八上たちへと真っ直ぐ向けられている。
「ひ、尋さん……」
「わたしも捜すの手伝おうと思ったんだけど……。ま、今、お邪魔するのは野暮だよね。へへ。わたし先に帰ってるよ」
なにかを諦めたような、切なそうな表情を浮かべた尋さんが、こちらに背を向け駆け出す。
「尋さんっ!」
尋さんは立ち止まらない。
そのまま参道へ出ると、社務所とは違う方角へと姿を消した。




