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25.サークル活動

「夏祭りの手伝いをすることになりました!」


 尋さんが高々と宣言したのは、梅雨明け宣言がされたばかりの七月下旬。


 ついこのあいだまで雲ばかりだったのが嘘のように空が青く晴れ渡っている日の午後だった。


 以前住んでいた場所では梅雨のあいだでも結構晴れる日があったのに、こちらの梅雨は雨が

多く、降らない日でも空には重い雲がかかっているので晴れ間がすごく少なかった。


 外からはみんみんと蝉の鳴き声が聞こえてくる。窓を開け放しているので、すごくうるさい。


 旧サークル棟に、エアコンなんていう文明の利器が存在していないとは盲点だった。

 なまじ他の家電類が充実していたからこそ、見落としていた。


 今、サークル室内では扇風機二台が部屋の端と端に配置され猛然と羽根を回している。


「夏祭り?」


「そう。今月末に山加外神社のお祭りがあるから、それの手伝いをするの。特に男手が足りないんだって」

「男って、ここには俺と狭霧しかいねーじゃん」


「ふたりだけでもいないよりはいいでしょ。若くて元気な子がほしいんだって」

「狭霧はともかく、俺は別に若くねーけど? っつーかその辺のおっさんたちよりよっぽど歳食ってっけどな」


「はいはいそういうのはいいから。とりあえずやるわよね?」

「へいへい、やりますよ。どうせ俺らに拒否権なんてねーし」


「別に拒否権の行使を禁止してるわけじゃないじゃない。使うならどうぞ?」


 言っていることと、鋭い眼差しから伝わってくる意思が正反対なような気がしてならないのはおれだけじゃないだろう。


「いいえ結構です。ぜひ担がせてください。あー楽しみだなー」


 八上が平坦な声で応えるけれど、尋さんは満足げにうむ、と頷いて話を進める。


「女子は巫女さんやります。天音っち似合うと思うんだよね~」


 おお!

 それはいい。尋さんナイスです。


 天音さんの艶やかな黒髪はきっと緋袴が似合う。

 いや、髪だけじゃなくて天音さんの全身が、きっと似合う。


 天音さんがおみくじとかお守りを渡してくれるなら、おれ速攻でもらいに行く。


「本当は、KYCの活動としてそばを食べに出かけたり、電車で二時間半かけて水族館まで足を伸ばしたり、フェリーで島まで行ったりとかしたいところだけど、とりあえず今年は地元のイベントを楽しんでいこうじゃないかっていう年間方針に基づいて活動するからそのつもりでね」


「そんな年間方針がいったいいつ立ってたって?」

「このあいだわたしが貯金残高を確認した時よ」

「ああなるほどね。どうりで俺が知らないわけだよ」


 八上が遠い目をしている。


「でもほら狭霧もいるし、この辺のことを知ってもらう為にもこの方針は有意義だと思うのよね。このあいだの牧場限定瓶プリンもそうだけど、近場でいいところもいっぱいあるわけだからー。それに狭霧くんもあんまりお金を使うイベントは厳しいでしょ?」


「おい狭霧が原因みたいなことを尤もらしく付け加えるな」

「あ、でも、事実だから。おれに構わず出かけてくださいよ」

「それはない」


 尋さんと八上の声が被った。しかも即答だった。


「そんなのつまんないじゃない」


 テーブルを挟んだ向こう側で、こくこくと天音さんが頷いている。     


 でもおれの都合でみんなの行動を制限してしまうのは本意じゃない。


「ほら尋、おまえが狭霧を引き合いに出したせいでまた悩み始めちまったじゃねーかよ。狭霧、気にすんなって。遠出しないのはただ単純に尋の財布事情のせいだから。それに俺は遠出すんの大儀だから近場で済むならむしろ助かるし」


「恙は彼女の相手もしてあげなきゃいけないしね」

「……まあな」


 すいと尋さんが八上から目を逸らしながら言い、八上は否定しない。


「え? 八上、彼女がいるのか? 尋さんじゃなくて?」


 てっきり八上と尋さんはそういう関係だと思っていたから驚く。

 普段は軽口を叩きあったり口喧嘩をしたりしているけど一緒にいることが多いし、なにより春先の飲み会の時、つぶれた尋さんを抱き上げた時の八上の顔は恋人に対するそれに見えたのに。


「なんで尋? んなわけねーじゃん!」


「違うわよ! わたしと恙はただの腐れ縁。それよりごめんね狭霧、恙の言うとおりだから気にしないで。あーわたしもアミーガで働こうかなぁ」


「え……あ、そ、そうなんだ。ご、ごめん」


 ふたりの迫力に押されつつ謝る。


 その後、尋さんは夏祭りの手伝いの詳しい日程の説明に移り、八上はふわぁとあくびをしながらその様子をぼうっと眺めていた。


 そんなふたりを見ていると、やっぱりお似合いなのにな、と少し思う。

 ずんずん突き進む尋さんのあとを、なんだかんだ文句を言いながらもついていって面倒をみる八上。


 何百年にも渡って続く腐れ縁っていうのは、そういうものなのかな。

 まだ十八年しか生きていないおれにはよくわからなかった。

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