2.入学式
入学式は大学の敷地内にある講堂で行われる。
式の終盤に流された学歌を聴きながら、小中高の校歌ならともかく大学の学歌って今後聴いたり歌ったりすることがあるのかな、なんて考えているうちに、気がつけば周りの人たちが席を立ち始めていた。
式はつつがなく終わったらしい。
とりあえず今日大学でやるべきことはもうないはずだ。
おれも帰ろう、と腰を浮かせた時、背後から肩をとんとんと叩かれた。
「なあなあ、LINE教えてよ」
「へ?」
振り返ると、人懐っこい笑顔がそこにあった。髪を明るい茶色に染め、片耳にピアスをつけている。
「俺、国文の八上恙。よろしくなっ」
椅子の背もたれの上に腰をかけて、片手を上げる。
「あ、えーと、おれは法学部の大和狭霧。よろしく」
「うっす。んで狭霧、LINE、LINE」
狭霧、といきなり下の名前で呼ばれてちょっと驚く。
嫌じゃないんだけど、おれは初対面の人をいきなり名前では呼べないから。
「あ、うん……」
スマホを手に待機している八上に促されて、おれも自分のスマホを取り出す。
「あれ、手袋、なんで右手だけしかしてないんだ? どっかに落としたのか? 探してやろっか?」
おれは苦笑しながら首を横に振った。
「ありがとう。でも、なくしたわけじゃないから。手袋してたらスマホ操作しにくいだろ? それより、これでいい?」
「おっ! サンキュ。ヨロシク、っと。それ俺な。んじゃ、もうちっと知り合い増やしてくるわ。またなっ!」
見ると、八上からスタンプが送られてきていた。
スマホを手に持ったまま立ち上がった八上は、まだ講堂内に残っている三人組の女子に突撃してゆく。
単身で女子グループに突撃できるなんて強者だ。
しかも、様子を見ているとどうやら女子とのLINEの交換は順調そうで、女子は三人とも笑顔で八上と話している。
おれには到底真似できない。
握ったままのスマホに目を落とす。
八上の勢いには最初から最後まで呑まれっぱなしだったけど、おかげで知り合いになれた。
八上はあの調子で大量に知り合いを作るつもりに違いないから、おれなんて大量にある中のひとつにすぎなくて、きっと登録されているだけの忘れられた存在になるだろうけど……。
それでも、おれは嬉しかった。




