14.お隣さん
翌朝は久しぶりにバイトが休みだった。
開店からバイトが入っている日は洗濯をする余裕がないので、ここぞとばかりに溜まった洗濯物を片づけてしまう。
それにしても――。
空を仰ぐと、洗濯物を干すにはかなり不安な灰色の雲が広がっている。
ゴールデンウィークが明けて一週間。
梅雨入りにはまだ早い時期なのに。
「今日も雨が降りそうねぇ」
垣根の向こうで、東風さんが空を見上げている。
栗色の髪を後ろでゆるくひとつに束ねている。
いつも化粧っ気がなくて、童顔なせいもあってかとても小六の子どもがいるようには見えない。
お隣は大家さんの家で、そちらとアパートの庭は垣根で仕切られているだけなので、双方が庭に出ていればこうして垣根越しに顔を合わせることになる。
「あ、おはようございます」
「おはよ、狭霧くん」
「こなたちゃんは、もう学校行きましたか?」
「行った行った。もう、朝からあれがないこれがないって大変だったんだから。本人はしっかりしてるつもりみたいなんだけど、まだまだねぇ」
やれやれ、という風に東風さんがため息をつく。
東風さんは大家さんの娘、つまりこなたちゃんのお母さんだ。
以前は別の土地で暮らしていたらしいけれど、離婚を機にこちらに戻って来たのだと、こなたちゃんから聞いていた。
「はは。おれにも覚えがあります。でも、こなたちゃんは本当にしっかりしてますよ。おれがあのくらいの頃とは比べ物になんないです」
母さんに、なんで前の日に準備しとかないの、っていつも叱られてたなぁ、と懐かしく思い出す。
「ふふ。実はわたしも。こなたには偉そうなこと言ってるけど、自分が子どもの頃は同じようなことやってたんだよねー。でも、今のわたしは親だからね。そんなことしてちゃ大きくなってから困るってことを、身をもって経験してきたからこそ、こなたにはちゃんと注意しとかなきゃ」
ちょっといたずらっぽい顔をして笑う東風さんは、きっとこなたちゃんにとってとても素敵なお母さんなんだろうな。
少し、おれの母さんにも似ているような気がする。
こんな大学生の子どもがいるような年齢の母親に似ているなんて思うのは、失礼かもしれないけど。
「雨、降りますかね」
「いつ降ってもおかしくない雲ではあるよね~。ほら、この辺の人は『弁当忘れても傘忘れるな』って言うじゃない? 狭霧くんもこれから大学行くなら、傘忘れないようにね」
「あ、はい。ありがとうございます」
自転車通学のおれは、カッパの準備も万端だ。
じゃあね~、と手を振ると、東風さんは室内へと戻ってゆく。
洗濯物は、雨が降っても壊滅的なダメージをくらわなくて済むように、できるだけ軒の下に隠れるように干した。
風が強くなければ、そう濡れることはないだろう。
まあ、濡れないからといって乾くかといえばそれはまた別問題だけれど……。
締め切った室内で部屋干しするのとでは、どちらがましなんだろう。




