11.新歓コンパとは
新歓コンパは、コンパというかただの飲み会だった。
会場は山加外神社の社務所で、ただの留守番キヨも混ざってのどんちゃん騒ぎだった。
妖怪の年齢については当然外見どおりであるとは限らず、そのいい例が化けた時のつっちーだ。
つっちーはあれでも千年以上生きているらしい。
対しておれは両親ともちゃんと妖怪のはずだけれど、人型に近いせいか成長速度は人間とほぼ同じだ。
外見通り、大学一年生の大半がそうであるように、今年の夏で十九歳になる。
母親の育児方針だったのか、小さな頃からできるだけ人間に混ざって人間っぽい生活を送ってきたから、三歳で幼稚園、六歳で小学校、十二歳で中学へ入学した。
その後、まあいろいろあって現在に至る。
ちなみに八上は数百歳だと言っていた。
なんともアバウトな答えだったけれど「そんなのいちいち数えたりしねーよ、面倒くせえし」と笑っていた。
学生証上は、浪人した設定なのか、20歳になっているらしい。
尋さんと天音さんにはさすがに訊くことができなかったけれど、八上情報によると「尋は俺より百年は年食ってるはずだぜ。天音はおまえと同じくらいじゃね?」とのことだった。
つっちーは見た感じは十歳前後にしか見えないのに、キヨと杯を酌み交わしてぐびぐび酒を呑んでいて、その様子を見るに至って、これは確かに居酒屋では呑めないよな、と会場が山加外神社社務所だったことに納得する。
妖怪に人間の法律が適用されるのかどうかはわからないし、人間の年の数え方が適応できるのかもわからないけど、とりあえず生まれて十八年で人間として暮らしているわけだから、おれは酒を自粛しておく。
自粛しているのに、尋さんが「うぃーっく」と酔っ払いの見本みたいな体で、ビールをこちらに突き出してきた。
「狭霧く~ん、遠慮なんてしなくていいんだよ~? 見なよ、あいつらの飲みっぷりを!」
飲みかけの缶を手に持ったままぶんと手を振ったので、飲み口からビールが飛び散る。
「ああもう尋さん、そろそろやめといたらどうですか?」
テーブルの上にあった布巾で畳を拭いてから尋さんの示すほうへ目をやると、つっちーが「酒持ってこーい!」と瓶子を掲げている。
それに気づいた天音さんが、手にしていたオレンジジュースを置いて立ち上がった。
つっちーから瓶子を受け取ると、調理場に続く廊下へと出てゆく。
「まあったくあいつらは、狭霧くんの歓迎飲み会なのにさっさとできあがちゃうんだから困ったもんだよねー」
「あ、あの、おれちょっとトイ、レ……うわっ!」
目で天音さんを追っていると、突然ぼふん、と柔らかいものが体にぶつかってきた。
ふわりと柑橘系のいい匂いが香る。
反射的に接触してきた物から手を遠ざけるのでやっとだったおれは、身動きがとれない。
「うわあっ、ひっ、尋さんっ!?」
む、胸っ! その豊満な胸がおおおおれの体にもろにぶつかってる!
万歳をした格好のまま、パニックに陥る。
ど、どどどどうすれば!?
尋さんが缶ビールを片手に持ったままおれに寄りかかっている。
「ちょっ聞いてるの~? 先輩が話してる時にはねぇ、ちゃあんと聞きなさいよお~?」
「は、はいっ。ちゃんと聞いてます。でもあの、その、ちょ、ちょっとこの体勢はっ、あのっ……尋さんっ! 尋さん、尋さん……?」
返事がない。
恐るおそる様子を窺うと、すぴーすぴーと寝息が聞こえる。
な、なんでこの状態で寝ちゃうんだ……。
困ったおれは高く上げたままの自分の右手を確認する。
今日は両手にブラウンのレザーグローブをはめている。
大丈夫、破れたりしていない。このままなら触れてもなにも起こらないはずだ。
この栗色のきれいな髪を切ってしまうことも、ないはずだ。
ごくりと唾を呑む。
できるだけ左手で。右手を使うのは最終手段で。
手順を頭の中で確認していると、ふいに体にかかっていた重みがなくなった。
「悪ぃな、こいつの面倒押しつけちまって。大丈夫だったか?」
いつの間にこちらにやってきたのか、八上が固まっていたおれから尋さんを引きはがして抱え上げていた。
「八上……ありがとう。おれは大丈夫だけど、尋さんが結構呑んでるみたいで……」
「ったくはしゃぎすぎだよなぁ」
呆れたような、愛おしむような目で、八上が自分の腕の中で眠る無防備な尋さんを見ている。
「でも、おれに気を使ってくれてるんじゃないかな。いい人だよね、尋さん」
「ま、悪い奴じゃないだろうけどな。でも女がこんな呑み方すんのはまずいだろ。おれちょっとこいつ寝かせてくるわ。適当にやっといてくれよ」
よいしょ、と八上はお姫様抱っこをした尋さんを抱え直すと、ふすまを開けて隣の部屋へ移動してゆく。
大人数が集まる時にはふすまを取り払って使うらしいけれど、今そちらの部屋は使われていない。
手持ち無沙汰になったおれは部屋を見渡した。
例のふたりはさっきと変わらないペースでまだ酒を飲み続けている。
ザルに違いない。どちらも顔色ひとつ変わっていないのが恐ろしい。
空になって転がっていた瓶子の数が減り、新たに瓶子が何本か立てて置かれている。
けれど天音さんの姿はない。
次の酒を用意しに行っているのかもしれない。
天音さんひとりに全部させるのは申し訳ないと、自分の近くに転がっている空き缶や空き皿を適当に集めて、おれは廊下へ出た。




