10.入会
「なんてこと言うんだよ。誤解だよ誤解だってば! 確かに見惚れてはいたかもしれないけど、それだけだって」
初対面でとんでもなく悪いイメージを天音さんに植え付けるようなことは勘弁してほしい。
いやほんとに。
「まあ確かに天音を初めて見た奴は大抵動きを止めるよな」
「確かに天音っちはきれいだからね。見惚れるくらい勘弁してあげなさいよ」
八上と尋さんがおれをフォローしてくれる。
この人たちいい人だな
「当然だ。でもだからこそ天音に近づこうとする変態は絶対許さんからな! うううぅ」
低く唸って威嚇するつっちーを八上が救い上げるように抱える。
「まあまあ」
「おい、軽々しくわしを持ち上げるな」
「ちょっと、だからおれは変態じゃないってば!」
「はいはいそこまで、そこまでよ」
パンパン、と両手を打ち合わせながら尋さんが制止をかける。
「でも」
「つっちー、でもじゃないでしょ。天音っちがやめなさいって言ってるんだからそれがどういうことかわかるでしょ?」
「うううぅ…」
無念の滲む唸り声が小さくなってゆく。
「つっちーは別にメンバーじゃなくて、ただ単に天音っちにくっついてくるだけなんだけど、
一応紹介しとくね。これ、槌転びのつっちー」
「槌転びっていうと、確か……」
「もともと山の中とかにいて、人の足とかに噛みつく習性がある妖怪ね。でも今は天音っちを守るのを生きがいにしてるから、噛みつかれるのはたいてい天音っちに近づく男連中よ」
「俺も最初のころはかなり噛まれたもんだぜ」
八上はどうやら当時のことを回想しているらしく、うんうんとひとりで頷いている。
「でももう狭霧くんはうちのメンバーなんだから、手出し無用よ」
「それはできん!」
「一蹴かよ」
きっぱり拒否するつっちーと、呆れる八上。
あれ、ちょっと待て。
「すみません、今、尋さんなんて言いました?」
「もう狭霧くんはうちのメンバーなんだから手出しするなって言ったけど?」
「おれまだ入るって言ってないですよね?」
「え、言ったよ、さっき。ねえ恙もきいたでしょ」
「……まあ、一応」
「ええ?」
「天音っちを紹介したあと、入るよね? って訊いたわたしに、はいって返事したじゃない」
記憶を巻き戻す。
映像としては天音さんの顔しか残ってないけれど、その後ろのほうで確かになにか尋さんの声が聞こえていたような……。
なんて言ってたんだっけ、とそこに集中して記憶を掘り返す。
天音さんは怖がりだから、って聞こえた時には、気をつけなきゃな、って意識の隅で思ったんだよな。
そんで――。
あ。
該当箇所の検索に成功してしまって、おれは愕然とする。
そんなおれを見て、尋さんがにやりと笑う。
「男に二言はないよね? ってことで、入会決定おめでとう狭霧くん! 郷土遊楽会。略して『KYC』へようこそ!」
「別に誰も略さねーけどな、そんな『空気(K)読めない(Y)クラブ(C)』みたいな略称」
「恙うるさいわよ」
へいへい、と八上が面倒くさそうに返事をする。
「入、会……?」
おれが?
メンバーは、満足そうに腕を組んでいる尋さん、やれやれという表情の八上、尋さんの手前で小さくなって俯いている天音さん。
おれは落ち着かなさそうに視線を泳がせつつびくびくしている天音さんを見る。
この子と同じサークル。
そう考えると、この機会をふいにするのはもったいないような気がする。
このまま入会すれば、また天音さんに会える。
そう考えたら、押しの強い尋さんの勢いに抗ってまで入会を取りやめることに労力を使う必要はないような気がしてきた。
バイトも斡旋してくれるらしいし。
まあ、どうしても続けられないと思ったら、その時はなんとか尋さんを説得できるようがんばればいいだろう。
天秤はあっさりと入会に傾いた。
「あ……その、よろしく、お願いします」
こうして、おれは郷土遊楽会の一員となった。




