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創り人の箱庭  作者: サボ
第五章
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5-17『帰り道にて』

第五章

第十七話『帰り道にて』



 どんな些細なことでも、誰かが聞いてくれる。

 自分のことを何も隠さなくてもいい場所がある。

 王宮にいるときだって、勿論そうなんだけど。

 この世界の代表たちとは違ったマダムの存在は、今までとは違う安心感を私に与えてくれた。

 とっぷりと更けた夜の道を歩いて帰るときも、肩にゴラちゃんが乗っててくれたから不安はなかった。

 ヒイラギさんの筆頭護衛って言われても、実際に戦ってるところを見たことがないから、本当はどのくらい強いのかは判らない。

 だけどどっしり構えてくれてるからか、凄い安心感があるんだよね。

 肩の上で話してくれた、貴族の在り方とか魔法のこととか、改めて聞けたそういうものも面白かった。

 魔法といえば、ゴラちゃんは全部の属性の魔法を使えるらしい。

 色んな種族がいるこの世界でも、魔法を全属性使える人は少ないって話だから、それだけでもゴラちゃんが規格外だって判る。

 見た目からとても強いとは思えない感じだけど、全属性の魔法を使えるとなると話は変わってくるんじゃないだろうか。

 見た目は普通のお嬢さんって感じのヒールだって、自分よりずっと大きな相手を魔法であっさり倒したわけだし。

 精霊魔法の使い手であるファービリアさんは、あの見た目であの強さだし。

 二人で色々話ながらの帰路はあっという間に感じられるもので、気付いたら王宮の門が見えてたって感じだ。

 そこには門を護る衛兵さんと、カリスの姿があった。

 今日一日、私の無事を護るのが彼の仕事とはいえ、ここまで徹底してくれるのは凄いな、と素直に思う。

 護衛を任じられた騎士として、これ以上ないくらい満点な対応なんだろうなあ。

 肩に座ってたゴラちゃんは、カリスに私を任せて、そのままとっとことーって感じで王宮の奥に走って行った。

 あっという間に消えていく背中を見てると、あのサイズでどうやってあの速度を出してるんだろうと思ってしまう。

「ゴラちゃんって、本当は人の肩に乗らなくても、私たちと同じ並んで歩けたりする?」

「そうだなあ、多分俺が本気で走っても、普通に並走してくんじゃねえかな」

「え、そんなにも?」

 カリスと二人で廊下を歩きながら訊いたら、思ったより凄いことを言われた。

 あの歩幅で普通の人間と同じ速さで歩けるだけでも凄いのに、騎士のカリスが全力疾走しても並走できるとか、どういう身体能力なんだ。

「見た目からは想像できねえ部分が多いんだけどな、普段は誰かに運んで貰うのが好きらしい」

「あ~、いつもヒイラギさんの肩に乗ってるか、抱っこして貰ってる印象が強いかも」

 本当は自分で素早く動けるのに、普段からそうしてないのは、誰かに運んで貰うことが好きっていう理由なんだ。

 欲求に忠実なんだなあ……って、そういう問題か?

「見た目の割りに、並大抵のことじゃびくともしねえし、長年生きしてるからか達観してる。こういうときの護衛には最適ってわけだ」

 ああ、確かにそうかもしれない。

 あの場に護衛として残ってくれたのがカリスやサイゾウさんだったら、あんなに素直に色々話せたか微妙な気がする。

 マダムもゴラちゃんも、こっちの警戒心を解くのが巧いっていうか、自然とそれができる人たちなんだよねえ。

「のんびり話せたか?」

 隣を歩きながら、カリスはふ、と微笑んだ。

「うん……ありがとね」

 何がどうっていう話はしないまま、こくんと頷く。

「なら良かった」

 大きな手が伸びてきて、くしゃりと頭を撫でてくれた。

 手袋をした手はマダムのそれとは感触も温度も違うけど、伝わってくる優しさは似てる気がする。

「気を遣ってくれて、ありがとね」

「まあ、ああいう場を作ってくれたのは、ヒイラギさんなんだけどな」

 私のお礼に、カリスはちょっと情けなく眉尻を下げた。

 獣の耳も、同じように少しだけ下がってる。

「でも、本当はずっと私に付いてなきゃいけないっていう立場を曲げてくれたのはカリスだよ」

 本来なら、カリスは私から離れずに護ることが仕事だ。

 今にして思えば、その日担当の護衛騎士は、私が起きる前には部屋のリビングに来ていて、夜は私が寝室に入るまで傍にいてくれた。

 状況によっては傍から離れて敵を追うことはあっても、その必要もないのに目を離すことは避けるのが護衛騎士なんだと思う。

 いくら東の領主代行であるヒイラギさんがセッティングした場とはいえ、更に立場が上の陛下から護衛の指示を受けてるカリスが素直にあの場を離れるのって、あらゆる意味で結構難しいんじゃないだろうか。

「そんなとこまで、お前が気にする必要はねえんだよ」

 ぐしゃぐしゃと私の頭を掻き混ぜるように撫でながら、カリスは笑う。

「そんな細けえこと、お前は気にしなくていい。そういうのをどうにかしてやるのも、俺たちの役目だ」

「うん……ありがとう」

 何かにつけて私のことを優先してくれることは嬉しいっていうかありがたいっていうか、なんだけど。

 そこまでして貰える価値が今の自分にはまだない気がして、居た堪れない。

 変に頑張ろうとしても空回りしそうだし、ここはひとつ、ありがたく受け取っておこう。

 彼らが陛下から私を護るように、優先するように言われてることは確かなんだし。

「次の異界行きもちけえだろうからな、息抜きはできるうちにやっといたほうがいいさ」

「うん、そうだね」

 次の異界行きがいつになるか、明確に言われてるわけじゃない。

 だけどなんとなく、もうそろそろなんじゃないかなって、そんな気がしてた。

 それは私だけじゃなかったらしく、カリスの言葉には素直に頷くしかなかった。

「次はカリスが一緒に来てくれることになるかな?」

「どうだろうなあ? 同行者は石板が伝えてくるって話だから、順番ってわけでもねえんだろうけど」

 一度言葉を切ってから、カリスは親指を立てて見せる。

「俺が一緒に行くときにゃ、他の奴らに負けねえくらいちゃんと護るから、安心しろよ?」

「うん、頼りにしてるよ」

 にっこり笑って断言されれば、頷く以外に返すこともないだろう。

 陛下の近衛騎士として色んな訓練を受けてるのと、今までの実績があるからだろう、みんな自分の腕には自信があるみたいだ。

 まあ、ここで怖気付いた発言をして、私を不安がらせないようにっていうのもあるんだろうけど。

 人を護る側として、徹底してるよなっていつも思う。

 誰と異界の先に行くことになっても、一人にならなければきっと大丈夫なんだろう。

 改めてそんなことを思いながら、自室へと歩いた。





 その日の夜、夢を見た。

 暗い、暗い場所で、誰かに呼ばれる夢。

 私は何度か、この夢を見たことがあると思う。

 だけど、それがどんなものだったのかも思い出せないし、誰が私を呼んでいるのかも判らない。

 ぼんやりとした声は、うわん、うわんと頭の中に響くようで頭痛がする。

 眩暈がしてきて、私はその場に蹲った。

 目を開けても閉じても同じ色。

 耳を塞いでも聞こえてくる、なのにはっきりと聞き取れない声。

 多分、私のことを呼んでいるんだとは思うんだけど。

 ……いや、ちょっと、違う?

 前に、どこかで見た夢は、私を呼んではいなかった……?

 じゃあ、前の夢では、なんて言われてた?



  ───『行っておいで』



 ああ、そうだ。

 そう言われた。

 誰に?

 あの人に。



 ああ。

 ああ、そうだ。

 私は、夢でも、現実でも。

 あの人に、会ってる。



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