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創り人の箱庭  作者: サボ
第五章
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5-7『レヴァン家の人たち』

第五章

第七話『レヴァン家の人たち』



 執事さんに案内されて通された先は、多分、応接室みたいなところだと思う。

 落ち着いた家具や調度品が並べられた、生活臭のない静かな部屋だ。

 大きな窓からは、広い前庭が見える。

 二番目の異界で影絵みたいな貴族の屋敷に入ることがあったけど、それと比べるまでもなく、優しくて穏やかな部屋だ。

 あそこは色彩自体がおかしくなってたけど、それを差し引いても違うと随分違うと感じる。

 メイドさんが出してくれた紅茶を頂きつつ、ソファーで少しだけ待っていたら、静かなノックの音が三回聞こえてきた。

「はい」

 リクの声に応えるように扉が開いて、二人の男性が入って来た。

 立ち上がったリクに釣られるように、私も立って彼らを見る。

 一人はひと目でリクと血の繋がりがあると判るくらい、似通った顔立ちと体格のおじ様だった。

 もう一人は、リクやおじ様と比べると少し線が細い感じがするけど、多分リクのお兄さんだろう。

 線が細いっていっても、身体を鍛えるってのとは無縁の私と比べれば、充分がっしりしてるんだけどね。

 リクとおじ様の鍛え方がおかしいんだと思うな。

「自分の父と兄だ」

「あ、その、初めまして」

 端的なリクの言葉に、私は慌ててお辞儀をした。

「レヴァン家当主、シェーブ・レヴァンだ。此度の助力の申し出、実に痛み入る」

 ただぺこりとお辞儀をしただけの私に、おじ様……シェーブさんは、胸に手を当てて片足を少しだけ下げ、静かな礼を返してくれる。

 もう一人のお兄さんも、全く同じ形の礼を全く同じタイミングで揃えてくれた。

 頭を下げるっていう行為自体は同じなのに、全然違うように見えるのは、作り上げられた伝統とか礼儀とか、そういうものを感じるからだろうか。

「あ、あの……助力と言っても……」

 私は確かにリクの願いを聞いて、この場所にやって来た。

 だけど、まだ人を殺す覚悟は決まってない。

 一度本人に会ってみて欲しいとリクに言われて、それに頷いただけ。

「ああ、勿論判っている」

 巧く言葉を続けることができなかった私に、シェーブさんは静かに微笑んだ。

「これは飽く迄、レヴァン家の事情だ。陛下の客人である君を無理矢理引きずり込むつもりはない」

 低い声で静かに告げられて、私は曖昧に微笑む。

 私が稀人で、この世界を救うとかいう話はご家族にもしていないって、先にリクから聞いていた。

 誤魔化す形で『アデリシアは陛下の客人で、触れた人の『祝福』や『呪い』を消すことができる』とだけ伝えてあるんだって。

 普通に考えて怪し過ぎだとも思うんだけど、リクが大丈夫だって言うんだから、きっと大丈夫なんだろう。

 実際、私を見るお二人の目に、私を疑うような色は一つもなかった。

「事情を知って、それでもこの家に来てくれることを選択してくれた。ひと目でも大祖父に会おうと思ってくれた。そのこと自体に、心からの感謝を申し上げる」

 静かにそう言って、シェーブさんはもう一度頭を下げてくれる。

 一歩後ろに立ってるリクのお兄さんも、やっぱり同時に頭を下げてくれた。

 話し方は少し乱暴にも聞こえるけど、声が静かで穏やかだから、怖いとは感じない

 怖くはないんだけどさ。

「あ、あの……!」

 貴族と平民の差っていうのをちゃんとは判ってないけど、人に何度も頭を下げられるってこと自体がどうにも居た堪れない。

 顔を上げて欲しいんだけど、なんて言っていいのか、失礼じゃないのか判らなくて、わたわたと両手を振る。

「父上、兄上」

 静かなリクの声が、二人を呼んだ。

「アディは顔を上げて欲しいと言いたいようです」

 そう言われて、二人は静かに顔を上げてくれる。

 ほっとしてる私の顔を見て、シェーブさんは小さな苦笑を浮かべた。

「成る程、話に聞いていた通りの方のようだ」

 え、どういう意味?

 いや、意味なんて特に考える必要もないと思うけど、どういうこと?

「では、早速大祖父の部屋に案内しよう」

「はい」

 低くて静かなシェーブさんの声に応えたのは、私じゃなくリクだ。

 こっちとしても特に異存はないから何も言わないけど、なんか、私の知らないところで話が進んじゃってる気がする。

 ちょっと不思議というかなんというか、言葉にできない感覚だった。

 戸惑ってる私に、リクは穏やかな微笑みを向けてくれる。

 それにどう返していいのかもよく判らない、なんとも曖昧な感覚のまま、私はレヴィン家の重要人物たちに連れられる形で、屋敷の奥へ奥へと導かれた。

 広い屋敷の中は、何処もかしこも綺麗に整えられてるし、明るい陽の光が降り注いでるしで、歩いていて気持ちのいい雰囲気だ。

 王宮ともまたちょっと違った空気だけど、落ち着いて歩けるっていうところは共通点かもしれない。

 二番目の異界で見たお屋敷は、何処も落ち着くどころかひと息つくこともできないところばかりだった。

 まあ、異界に居るっていう時点で緊張してるし、白黒の影絵みたいな場所だったし、比べるのもどうかと思うんだけど。

 そんなことを改めてぼんやりと考えながら皆さんのあとを付いていくと、なんだか静かな場所に差し掛かった。

 この屋敷は全体的に静かだと思うんだけど、それでもこの辺りは特別だと感じる。

 なんていうか、温度が違う気がするんだ。

 少しだけ、冷たい気がする。

 廊下には大きな窓が幾つもあって、温かい陽の光が降り注いでるのは同じなのに。

 白を基調とした壁も床も天井も、飾られた調度品も、全部綺麗に掃除されているのも同じなのに。

 それでも、この辺りの雰囲気や温度が違うと、何故かそう感じる。

 どうやらそう感じたのは間違いじゃなかったらしく、先を歩いてくれていたリクのお父さんとお兄さんが足を止めた。

 当然、私も足を止める。

 目の前には、重厚な扉。

「アディ」

 隣を歩いてたリクに呼ばれて、顔を上げた。

「大祖父の部屋だ」

 端的に告げられた言葉が、ひやりと胸の裏側を撫でる。

 その人に会いに来た。

 それがこの屋敷に来た目的だって判ってるのに。

 『不死』の『呪い』を授かってしまった人に会うのが、ここに来た目的なのに。

 どうしても、『お前の手で殺して欲しい人が居る』と言われたことが頭をよぎって、心の奥が冷たくなる。

「うん」

 ただ、こくりと頷くことしかできない。

 緊張してしまってるのは、きっと隠しきれてないだろう。

 だけどそんな私にリクは静かに微笑んでくれた。

「お願いします」

 私はできるだけ平静を装った顔で、シェーブさんにそう告げる。

 シェーブさんは小さく頷いて、目の前の扉に手を掛けた。

 ノックもせずにこの扉を開けられるのは、きっとこの家でも限られた人だけなんだろうな。

 そんなことを思いながら、静かに開いていく扉の先を見つめる。

 扉の先は、広々とした明るい部屋が広がっていた。

 廊下と同じように、温かな光に満ちた、ごく普通のひと部屋だ。

 唯一普通と違うところがあるとすれば、そのひと部屋の奥、窓辺に近い場所に、大きなベッドがあること。

 誰かの寝室に入ったことなんてなかったから、扉を開けてすぐにベッドがある光景っていうのは今までになかった。

 そこに誰かが横になっているのが、入り口からでも判る。

 そのベッドの脇に女性が一人と、壁際にメイドさんが一人立っていた。

 ベッド脇に立っていた女性が、くるりとこっちに振り返る。

 大きな眼鏡を掛けた、小柄な女性だった。

 長い黒髪を三つ編みにしていて、なんていうか、優等生って言葉が似合いそうな雰囲気だ。

 彼女はこっちに向かって、静かに頭を下げた。

 壁際のメイドさんは、目を伏せて僅かに頭を下げる。

 未だにちょっと慣れないんだけど、貴族に仕えてる人たちは、そこに居るのに居ないっていう扱いをするのが通常仕様なんだそうだ。

 使用人さんたちも、声を掛けられなければ今みたいにほんの少し反応する程度に留めるらしい。

 使用人さんたちにも階級があって、上位の人たちはその限りじゃないっていう場合もあるらしいから、なんか色んなこと、とにかくややこしいなあ。

「アディ、彼女はカスミ。陛下の騎士の一人だ」

「あ、は、初めまして」

 リクに紹介されて、私は慌ててぺこりと頭を下げる。

「お初にお目に掛かります。カスミと申します」

 そんな私に、カスミさんと紹介された女性は穏やかに微笑んだ。

 初対面の騎士さんとご挨拶できたのはいいんだけど、どうしてここに騎士さんが居るんだろう?

「彼女がここに居る理由は、もう少しあとで話す」

「え? あ、うん、そうだね」

 内心の疑問を見透かしたようなリクの言葉に、私は慌てて頷いた。

 そうだよ、この部屋にはレヴァン家の大祖父さんがいらっしゃるんだ。

 私の目的はその方に会うことなんだから、先にご挨拶をしないと。

 いや、でも。

 前にリクが言ってた大祖父さんの状態を考えると、挨拶とかどうとかできるような感じじゃないような気がするけど。

「どうぞ、こちらへ」

 そう言って私を促したのは、リクじゃなく、彼のお父様だ。

「は、はい」

 レヴァン家現当主、シェーブさんに促されるまま、私は奥のベッドへと足を向ける。

 すぐ傍にリクが付いててくれることが、なんだか凄く頼もしく思えた。



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