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聖教会大司教嫡男 ランベルク=ルネスラン


「そのようなことを考えると言うことは、何かご両親がそういった素振りを…?」

「…いえ。そうでは、ないのですが…」


 そう言ってラルは黙ってしまった。うーん…もしかしたらラル自身もよく分かってないのかもしれない。だって俺、もといルクハルトとあまり変わらないくらいの年齢だろうし。

 むしろ俺は中身17歳だからまだしも、この年齢でそこまで考えられるなんて本当に思慮深い子だな。だからこそ、俺も無責任に、そんなことない、ご両親は愛し合っていたはずだ、なんて言えないし、ラルもそんな言葉は望んでいないだろう。


「ラル様は、何故ご両親が王国に恋しい人がいたかもしれないと思ったのですか?」

「…何故……?」


 何故…ともう一度ラルは呟く。思慮深いと言っても子ども。子どもって自分の思ってることや感じてることを上手く言葉に出来ない事があるから。一つ一つ確認していくしかない。


「…どうして、だろう。私の両親は父が亡くなる寸前まで、仲睦まじかった。亡くなってからも祈りは欠かしていない」

「ふむ…」


 と言うことは、ラルのご両親がどうだってわけじゃない。ならもしかして、自分自身…?


「ラル様、もしかして王国に好きな方でもいらっしゃったりします?」

「…いない、と思う。聖教会にもいない。でも、そうだな…その制約を知った時、もし私が王国の人間に恋したら、と考えて…何故か、苦しくなったことは、ある」


 あー、なるほど。仮定の話で悩んでしまって、恋もしたことがないから自分では答えが出ない。なら他の人はどうなのかと思考を切り替えて、一番身近な両親に置き換えた結果。元の悩みから外れて、両親の仲についてもんもんと悩んでしまっていたと。

 分かる…俺も幼い頃そういうことがあった。どんどんドツボに嵌まって行くんだよなぁ。俺はもうワケ分かんなくて親に泣きついた覚えがある。そんで泣いてる時にはもう何を悩んでたのか忘れてるんだよ。モヤモヤした気持ちだけが残ってる感じ。


 んー、俺がリワラをプレイしていた時、攻略対象に聖教会のキャラがいた。そのキャラは王国出身の主人公くんに惹かれるけど、これは禁断の想いだからと蓋をする。好感度を上げる程、離れていくキャラ。

 でもある日、お墓の前でその心情を吐露するんだ。主人公くんが好きだけれど、もし子が回復魔法持ちだったらいつか主人公くんから子を引き離さなければならなくなると。

 そうなんだよ。ラルは子が三属性魔法持ちだったらっていう話しかしてないけど、王国と聖教会の子は回復魔法持ちも生まれる可能性がある。引き離される可能性はどちらも五分五分。

だけど主人公くんとそのキャラ、ハッピーエンド迎えた後誰もが愛する家族と引き離されないようにと、王国と聖教会の根底を覆すような改革するんだ。だから今ラルが悩んでいることは将来気にしなくて良くなる。

 もちろん、主人公くんがどのルートに行くか分からないから、将来気にしなくて良くなる世界になるよとは言えないけど、遊びのような言葉の中に、可能性を見付けてくれれば。


「もしかしたら、それこそラル様の子が出来る頃には、皆が仲良く暮らせる世界になってるかもしれませんよ?」

「…そんなことは」

「有り得ない? 絶対に? どうしてそんなことが言えますか?」

「…今の王国と聖教会の体制を見れば」

「今の、ですよね。将来のことは、誰にも分からない。もしかしたら、誰もが愛する家族と引き離されないようにという考えを持った人が中心となって、今の体制をガラッと変えてくれるかもしれない」


 なぁ、そうだよな、ランベルク=ルネスラン。攻略対象の一人。大司教の嫡男。もし主人公くんがランベルクルートに行かずに、そんな改革をしようとすら思わなくなるなら。俺がロドリエル学院にいる間に、徹底的に導いてやる。

 確かに彼は主人公くんへの想いがあって改革に踏み出す。でもああして実際に改革をするんだから、主人公くんへの想いがなくてもそういう思考は持っていると思うんだ。

 それなら、少なくとも一人は引き離されることを憂う子どもがいたと懇切丁寧に聞かせれば、どのルートでも改革に着手してくれるかもしれない。大司教の息子。慈悲深いランベルク。

 その内心の決意が顔に現れていたのか、ラルはほんの少し目を見開いて、俺を見つめる。ふわりと、風が頬を撫でた。ふとラルが俺の方に手を伸ばして来る。

 た、叩かれる!? なに夢物語語ってんだクソガキが、みたいな!? 思わず目を閉じると、髪に触れられる感覚。そっと目を開けると、ラルの手には花弁が握られていた。


「…申し訳ない。風で花弁が髪に」

「あっ、ありがとうございます…」


 だ、だよなー! ラルがツッコミに人を叩くような人間なわけないよな。内心苦笑していると、大聖堂のバルコニーから捜しているような素振りを見せる父親が目に入った。

 あ、もう大司教への挨拶とやらは終わったのかな。


「ラル様。俺、もう帰らないと。いろいろ話して下さって、ありがとうござました。楽しかったです」

「…こちらこそ、ありがとう」


 じゃあまた、と礼をして立ち去ろうとすると、背中に声が掛けられた。


「ルクハルト=ハーロイス様」

「えっ?」


 俺が振り返ると、ラルは真っ直ぐに俺を見つめていて。先程俺の髪に付いていた花弁に、そっと、唇を寄せた。そして、微かに、しかし確かに、口元を和らげて。


「…変えてみせます。それを見届けるのが貴方であれば、私は嬉しい。…また、お会いしましょう」

「は、はい…」


 俺はそれだけしか言えず、小走りで父親の元へと向かう。

 なっ、なんっじゃありゃー!! 何あの花弁へのキスは?! 思わずドキッとしてしまった…! それにしても、ラルが言ってた意味ってどういう…。

 微かに赤くなっていそうな頬に触れながら、父親の元に着いた。


「もう散策は大丈夫かい?」

「はい。お父様もご挨拶は終わられましたか?」

「あぁ。じゃあ帰ろうか」


 父親と共に馬車に乗り込む。離れていく大聖堂をじっと眺めていると、父親が微笑みながら話し掛けて来た。


「ルクハルト。彼と仲良くなったのかい?」

「彼…ラル様ですか? えっと、いろいろと、お話させて頂きました」

「そうか、彼の話は勉強になったんじゃないか? 何せ大司教の御子息だ。聖教会のことには詳しいだろう」

「そうですね、聖教会と王国のことについて…………」


 なんて? 今父親は何て言った? 聞き間違いか?


「あの…今、大司教の御子息、と…聞こえたような…」

「あぁ、そうだよ」

「そんな、違いますよ。彼はラルという名で…」

「聖教会の子は家名を名乗らず、別の名で暮らしているんだよ。彼は間違いなく、ランベルク様さ」


 は…はぁぁぁあああ?! ちょっ…え!? 大司教の息子って、攻略対象の、ランベルク=ルネスラン!? ラルって…あっ。名前と家名の頭文字で…ラル………。

 ま、またやってしまった。そんな小さなころ別の名前で暮らしてたなんて知らないんですけど!? ロドリエル学院では普通にランベルク=ルネスランで通ってたし。じゃあルカの二の舞にならないようにと、先に名前を聞いても意味がなかったということ…。


 …ラルがランベルクだとしたら、さっきの言葉の意味も変わってくる。『変えてみせます。それを見届けるのが貴方であれば、私は嬉しい』って、つまり…改革するから隣で見ててくれってことだろ。

 俺は鈍感主人公じゃなくて腐男子だから正確に読み取れてしまう…隣でってつまり恋人として、ということでは…?

 何故だ、何故よりにもよってこの悪役令息、またの名をクソガキルクハルト=ハーロイスに惹かれてしまうんだ…? 見た目か、やはりこのツラだけは天使のようなルクハルトに騙されてしまうのか。将来の想い人である主人公くんを度々害する野郎なのに! 恐ろしい…。

 まぁでも、主人公補正できっとルカールもランベルクも主人公くんに骨抜きにされるだろ。どうぞ今のうちに俺を練習台にして、学院で主人公くんとイチャコラして下さい。

 それにランベルクルートでも多分処刑フラグがちょっと折れたかな。完全に偶然だったけど。

 着々と生存ルートへの道が出来てるな!


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