第30話 Summer Snow
アイドルとしてステージに立つのとは、少し違う意味で高揚感がある。いつもは、隣にいる陽翔はおらず、代わりに見慣れたメンバーがそこにはいた。マイクを渡されるので、僕は一度目を瞑った。舞台に立つためのおまじないのようなものだ。
「それでは、みなさま、お待ちかねの監督と出演者の皆様にご登場していただきましょう」
司会の合図に、監督を1番前で次に僕、未彩と続き、ルナが最後になる。主演三人が舞台に上がった瞬間、静かだった映画館は少しざわつく。
「湊っ!」
僕のファンも来ているので、声をかけてくれる。なんだか、コンサート会場でないので、少し気恥ずかしい気持ちになった。
「それでは、今回の映画『Summer Snow』の主演である如月湊さんから、一言いただけますか?」
「はい。みなさん、こんばんは!」
「「「こんばんは!」」」
このあたりは、コンサートと同じようなノリで、ファンの子たちが返事をしてくれるので、なんだか嬉しくなる。
「ご紹介にあがりました、ジストペリドの如月湊です。今回、僕の自主企画として、映画を製作しました。ここにいる月影監督を始め、演者として参加してくださった方々、スタッフの方々、協力してくださったたくさんの方々にこの場を借りてお礼を言わせてください。
僕が、この映画の製作を希望した理由は、同じ高校の同級生から、卒業式の日に渡された小説を読んだことから始まります。もう少ししたら、その小説も本屋に並ぶことになりますが、僕はこの物語を読んだ瞬間から、映像として残しておきたいと考えました。僕のわがままに付き合ってくださった多くの方々には感謝しかありません。そして、今から、僕らと一緒にこの映画を初めてみる皆さんにも、この美しい物語を感じ取ってほしいと思いました。どうぞ、最後まで、見てくださると嬉しいです。できれば……、特設ページを作っているので、感想どしどしお待ちしています! URLは……、えっと……、『Summer Snow』で検索してもらえれば、出てくるのでお願いします」
会場は、拍手と最後のたじっとしたことで、笑いがあがった。それを待ってました! と言わんばかりに、月影がいじってくる。
「湊、最後が締まらなかったな?」
「いいじゃないですか? ねぇ? 僕らしくて。監督、フリートークにしていいってことなので、自己紹介だけしましょうか?」
「湊がすればいいんじゃね?」
「……丸投げ。本当……。では、今回の映画のメガホンを撮ってくれた監督の月影さんのです。ジスペリのMVを撮ってくれる監督と言えば……、知っている人も多いはず」
「俺はジスペリ専属じゃないからな?」
「えっ? そうだったんですか? 僕てっきり……」
笑いを誘うように話せば、監督も僕の話すテンポをしっかりわかってくれているので、とてもスムーズに話ができた。未彩もそれに便乗してくれるようである。ルナは、僕らの様子をジッと見て観察していた。
「わかりました。いつか、監督の方から、「専属でお願いします」と言ってもらえるように、さらにビックになりますからね! じゃぁ、次は……、僕、緋月役の親友となる光希役の霜月未彩です。歌舞伎のプリンスって騒がれてるけど……、みんな、素顔ってみたことある?」
「……俺は、どんな状態でも、カッコいいから」
「あっ、それ……、聞き覚えがあるな。会場にいる凛のような発言だね!」
「うるさいぞ! 湊」
客席から、凛の声が聞こえてくると、それはそれで、客席が騒がしくなる。
「今日、Wing guysも会場に来てくれているんですよ。楽しんでいってね! で、戻るけど……、霜月くん……、言いにくい。……、未彩も高校の同級生でした。と、言うわけで? 現場はどうだった?」
「高校の教室にいるのと、あまり変わらない感じがしたかな。湊がいて、凛がいて、大学での撮影だったから、大学生になってない俺らの幻のキャンパスライフみたいな感じだったかな」
「あぁ、それは、僕も思った! 今回、音大生の役だったから、ずっと、僕も凛もピアノと向き合っていたけど、未彩はチェロだったじゃん?」
「そう。でも、アイドル二人と歌舞伎役者みたいなもんで、そこは……って感じだったかな。もともと、チェロは習っていたから、役でこんなに弾ける時間が取れたことは、正直嬉しかった」
「霜月くんは、チェロが好きなんだ?」
「えぇ、監督。次もあったら、チェロの演奏がある役をください!」
「そんなご都合あるか!」
少しの撮影現場での雰囲気を話していると、後ろでメイキングが後ろで流れていたらしい。僕ら三人のふざけ合っている映像が流れていて、なんだか恥ずかしい。
「えぇ、では、ヒロイン響役の工藤ルナちゃんです」
「よろしくお願いします」
「ルナちゃんは、今回、初めての映画撮影だったと聞きしまた。どうでしたか?」
「湊くんを始め、監督やスタッフのみなさんに助けられて、とても楽しい撮影となりました。未彩くんも映画撮影は初めてだって聞いていて、二人でこっそり監督に撮影のコツなんか聞きに行きましたよね?」
「そうそう、行ったね?」
その瞬間、切り取ったようにその場面が出てきた。台本のないフリートークだったはずなのに、用意周到な感じがする。
「湊にアドバイスをもらおうかって話もあったけど、二人で監督に話しかけてみたら、すごく話しやすくて」
「そうなんですよ! 見た目が、ちょっと怖そうに見えたから、話しかけるとき、緊張しました」
「あははは……、二人とも、そんなことを考えてたの? 湊みたいに、無遠慮にどんどん話しかけてくれてよかったんだよ。俺も、君たちのような若い役者と話ができて、また、いいインスピレーションをもらったよ。この二人だけでなく、原作を書いた麗月くんも含め、若い人から与えられるものは、本当に多い。この場にいる三人、それと、この会場にいる麗月くんや今回参加してくれた演者のみんな、スタッフも含め、ますます活躍してくれることを願っているよ!」
「……監督、まとめようとしないで……っと、そろそろ、上映の時間になったそうです。話は尽きませんが、今日、お集まりの皆さまに、この物語が心に残る一幕となることを願っています」
僕ら四人は頭を下げ、挨拶とした。
そのあとは、映画を見る。僕らは、一番最後列で、見ることとなった。実際、完成したと連絡はもらっていたが、月影からは、試写会まではお預けされていたので、この会場にいるほとんどは、まだ、一度も完成した映画を見ていない。
「……なかなかおもしろいステージだったよ」
「それ、褒めてるのかな?」
「まぁ、いいんじゃね?」
先に席に座っているつっきーが、茶化してくる。作曲のお礼に試写会に招待するとの約束だったから、来てくれたようだ。ポップコーンや飲み物がちゃんと確保されているところを見ると、少し笑ってしまった。
そんなやり取りをしていて、足元を見ておらず転びそうになり、一緒に席に来た未彩に肩を抱かれた瞬間には、僕は腕を引っ張られ、陽翔の隣……、奥側に座らされることになった。
「……心配しなくても取らないさ」
「そういう問題じゃない。触れてほしくないだけ」
「嫉妬深いと嫌われるぞ?」
「嫌われるようなことは、湊にはしないから大丈夫。未彩の出番はないから。そっちに座って」
陽翔の隣に座ろうとした未彩は、ため息をひとつ残し、凛の方へ向かった。それほど、仲がいいわけでもないのにと思いながらも、二人の会話から、陽翔がむきになっているようだ。僕は映画が始まり暗くなり始めたとき、右隣に座る陽翔の手をぎゅっと握ると応えるように握り返してくれる。
僕は、初めて『Summer Snow』を通して見て、あぁ、やっぱり映画にしてよかったなぁ……と感じる。
日本での公演のシーンになり、ハッとした。
「ブラボー」
映画の中で、そう叫んだ声は、陽翔だった。
……なんだか、恥ずかしい。この映画、大学でのシーンにところどころ、ヒナがいたんだよね。後ろ姿だったり、チラッと映っただけだったり。今のも、声だけだったけど、全部わかったよ。
映画を見ているあいだ、ずっと握っていた手に、もう一度ぎゅっと力を込めた。すると、ほっぺに柔らかいものが当たる。頬にキスをされたことに気が付いたとき、思わず、陽翔の方を見た。いたずらっ子のような笑みとともに、軽くキスをされる。ちょうど、ラストのシーン。緋月と光希が、ヴァイオリンの置かれている席を見つめていたところだった。
◇
「いい映画だったね! 元々、原作もよかったけど……、映画になると、また、いいな」
「満足してもらえたならよかった。感想投稿しておいてよ」
「ジスペリのHinatoとして?」
「そこは任せるけどさ。ところどころで、ヒナが出ていることに驚いた」
「あぁ、やっぱり気が付いた? 人が足りないとか、エキストラが必要なとき、麗月とこっそり出てたんだよ」
「麗月も?」
「あれ? こっちは、気が付かなかった?」
僕は、顔を手で覆い隠した。
……ヒナのことしか、見えてなかった。麗月もいたんだ。
「まぁ、俺だけでも気が付いてくれて嬉しいよ。愛だよね、愛」
クスクス笑い、上機嫌な陽翔に僕も開きなった。手を繋ぎながら、夜の街を二人で歩く。都会の街は、夜中でも、まだ、人で賑わっている。帽子を目深に被りながら、僕らはマンションまで帰るために駅へ向かっている最中だった。
「ねぇ、本当に、あの映画さ」
「ん」
「撮ってよかった。元々、湊のための小説だったけど……」
「そうだね。映像として残してよかった作品だと僕も思うよ。明日から、全国で見られるんだ。たくさんの人に見てもらえるといいな」
「それは、大丈夫だろう? 世界中に湊ファンがついていることだしね。俺も、また、見に行ってくる」
「ありがとう!」
夜道を二人で歩きながら、撮影のときの話をする。次はコンサートが控えているが、しばらくは、僕はオフになったので、家で陽翔の世話をやけそうだった。たくさん話す時間がとれて、充実した日々を過ごせた。
◇
『ジスペリのHinatoです。今回、『Summer Snow』試写会に招待で行ってきました! 湊の新しい一面を見た気がして、すっごくカッコいいので、ぜひ、見てほしいです。物語は、とても繊細でせつなくて、でも、強さもあり、挫けてもまた頑張ろう! と思わせてくれるようなお話です。あなたの隣にいる人の大切さを感じてもらえたらいいなと思いました。俺も、また、見に行こうと思います』
試写会のあったその日のうちに、陽翔は特設ページへの感想を書いてくれた。麗月も続いて書いてくれた。次の日の公開日には、たくさんのファンや『Summer Snow』を見た人で感想が溢れかえった。もちろん、厳しいコメントもあったが、やはり映像にしてよかったと思える優しいコメントが多かったことに、僕らは喜んだ。
映画は、おかげで大ヒットとなり、日本だけでなく、海外でも字幕放映されることとなった。思わぬヒットに、懐へ入ってくるものが多くなったおかげで、この映画に関わってくれた方にも恩恵があったことは、言うまでもない。
◇
「映画見てくれた人!」
「おぉー! 結構いるね?」
「本当、みんなのおかげで、大ヒットとなりました。月影さんも、なんだったかの賞をとったらしいよ?」
「湊も、今度、日本アカデミー賞のレッドカーペット歩くくせに!」
「「本当!」 すごいね!」
「本当だよ! もう、発表になっているから言えるけど。何? ヒナは妬いてるの?」
「俺も湊と歩きたかった!」
「ヒナもミナと一緒に映画にでてるもんね!」
コンサート会場の声に「そうそう! 俺も出てるの。気が付いた?」と、反応している。
今日は、ジスペリのコンサートで、今はMCの時間だ。このあと、『Summer Snow』を歌う予定なのだが、その前に映画の話だ。
おかげさまで、映画『Summer Snow』はロングランとなり、新曲『Summer Snow』は国内だけにとどまらず、世界中の音楽ランキングで1位に輝いた。
「まぁ、そうは言っても、湊は結局、ここが一番落ち着くでしょ?」
そう言って、陽翔が近寄ってきて、至近距離で向き合った。「キャー」という会場の声に、僕らは二人で笑い合い、お互いの手を握り、空いている方で会場のファンのみんなに手を振ったのだった。
- END -




