俺は女にモテる。けど、俺が女に本気になることはない
悪役専任とも言える俳優、五味秀一。
芸能人におけるスピーチコンテスト、STAND UP SPEECH HEROに出場した彼は、自分の出番になると、手持ちマイクを持って再び舞台に上がった。
目の前には、席に座る多くの観客。
立ち並ぶテレビカメラ。
五味は口元に笑みを浮かべ、語り始めた。
さて。またこのSTAND UP SPEECH HEROの舞台に立ったわけだが。
今回も、台本なしの完全フリートークでやらせてもらう。
台本を使った演技だったら、俺の実力が圧倒的すぎるからな。
さて、と。
それにしても、だ。
こうして客席を見てみると、まあ、アレだな。
男共は憎々しげに俺を見てるし、女達は恐い者見たさの様子を隠してないな。
まあ、無理もないか。
俺は基本的に、悪役専任の俳優だ。
で、はっきり言うが、俺の演技は天才的だ。どれくらい凄いかと言えば、演技の枠を越えて、フィクションの世界すら越えて、現実の世界でも俺を敵視する一般人がいるくらいだ。
ただ、な。
俺を憎々しげに見る奴が多いのは――俺を敵視する男が多いのは、俺の演技が天才的だから、ってだけじゃない。
見ての通り、俺は二枚目だ。
はっきり言って、女にモテる。
そりゃあ、世の中の男共を敵に回すよな。
悪役としての人柄が世間に知れ渡ってて、二枚目で、女にモテる。
これで俺に好感を持つ男がいたら、驚き以外の何ものでもないよな。
けどな、世の中のモテない男共。
ひとつ教えてやる。
モテるってのは、いいことばかりじゃない。
ときには、恨みを持った女に襲われることもある。
知ってるだろ? 俺が、三年前に刺された事件。
ちょっと遊んだ女に本気になられて、妊娠したとか言われて、結婚を迫られて、挙げ句の果てに腹をブスリ、だ。
あのときの傷は、今でも腹に残ってる。
まあ、刺した刃物が小さかったのと、比較的軽傷だったのと、さらに俺が示談にしたから、その女には執行猶予がついたんだけどな。
下手すりゃ死んでたんだから、モテるってものいいことばかりじゃないだろ。
……ん?
お前等、なんか言いたそうだな?
自業自得とでも言いたいのか?
それとも、女を妊娠させておきながら捨てるなんて人でなし、とでも言いたいのか?
好きに言えよ。
だけどな。
念のため言っておくが、俺は、自分から女に言い寄ったことは一度もない。
関係を持つ前に、俺は、言い寄ってきた女に必ず伝えてる。
俺は誰とも本気で付き合わない、ってな。
俺にとっては、演技が全てだ。だから、せいぜい、練習や撮影の合間に寝るだけの関係だ、ってな。
要するに、遊びでしか付き合わないってことを、あらかじめ言ってるんだよ。
それでもいいって言うから、隙間時間に呼んで、ベッドの中で遊んでやってるんだ。
実際に俺は、女に対して「好き」だの「愛してる」だのと言ったことは、一度もない。ベッドの中でも外でもな。
……は?
だったら避妊くらいしろって?
してるよ。
少なくとも俺は、自分の家に、常にコンドームを常備してる。
確か、今も寝室の棚に大量にストックしてるはずだ。
どれくらい残ってるかは覚えてねぇけど、少なくとも十箱はあるはずだ。
ただ、中には、こっそりゴムに穴を開けたり、「ゴムしないで」ってせがんでくる女もいるんだよ。
そういう女達は、俺との結婚を狙ってるんだろうな。
俺を刺した女もそうだったみたいだしな。
結婚をせがむつもりが、血痕を残すことになったなんてな。
洒落にもならねぇよ。
まあ、ダジャレにはなるがな。
とにかく、何が言いたいかっていうとだ。
女との付き合い方において、俺に否はねぇってことだ。
俺は、ただモテるだけ。
言い寄ってくる女には、誠心誠意本心を伝えてる。
それでもいいって言う女だから、空いた時間に寝てる。
それだけだ。
お?
僻みの視線をメチャクチャ感じるな。
でもな、俺に恨みがましい目を向ける暇があるなら、モテる努力でもしたらどうだ?
人を僻んで、妬んで。
くだらねぇことに時間かけてるから、お前等はモテねぇんだよ。
そんな時間があるなら、自分磨きでもしておけよ。
有能な奴は、不細工でもそれなりにモテるぞ。
俺は有能な上に二枚目だから、さらにモテるけどな。
ほら。そこのモテなさそうな男。右隣を見てみろよ。
俺に興味を持って、好奇心の目で見てる女がいるだろ?
お前もそんな目で見られるように、自分を磨いてみたらどうだ?
……まあ。
そうはいっても、だ。
さっきも言ったが、俺は別に、モテたいわけじゃない。
寝る相手がいるから寝るだけで、相手がいなけりゃ自分で処理する。
その程度の感覚だ。
だけどな。
こんな俺に好かれたくて、俺を自分だけのモノにしたくて、色々と無駄な努力をする女がいるのも事実だ。
好いた惚れたの感情だけで、後先考えずに動く。俺に好かれるために、俺の言いなりになる。あるいは、俺を縛るために、俺の子を妊娠しようと画策する。
馬鹿かっての。
相手に好かれるために自分を破綻させるなんて、間抜けのすることだ。
恋愛感情が自分を壊すなら。
恋愛感情に振り回される前に、恋愛感情から離れりゃいいだけの話だ。
惚れた男から離れて、近付く時間なんてないほど働くなり何なりして。
相手に好かれる為じゃなく、自分の為だけに時間を使っていれば、いつかは、馬鹿な感情は消え去る。
自分の為だけに必死になって。
自分の為だけに時間を使えば。
使った時間のぶん、自分だけの財産が残る。金とか資格とか、あるいは何らかの技術とかがな。
自分の身についたものは、絶対に自分を裏切らない。
まあ、金は使えばなくなるけどな。
そういうわけで、だ。
何が言いたいかというと。
誰かに依存する前に、自分を磨いてみろよ。
依存ってのは、恋愛感情に振り回されることだけを指しているわけじゃない。
自分を肯定できない奴が、誰かを批難することで簡単なカタルシスを得たり。
安全圏に身を置いて、ネットで他人を攻撃したり。
自分より弱い奴だけを狙って、嫌がらせをしたり。
自分で自分を磨けない、努力もできない馬鹿な奴が、他人を利用して満足感を得る。
そういうのを、他人に依存しているっていうんだ。
そんな馬鹿は、そりゃあモテねぇよな。努力の結果で得た魅力がないんだから。
お?
なんか、苛ついた顔をした奴がいるな? 図星か? 図星だろ?
そうやって、事実を指摘されて苛ついてるから、いつまで経っても三流な上にモテないんだよ。
悔しかったら、何かを死に物狂いでやってみな。
努力を努力とさえ思えないくらいに。
自分じゃ努力とすら感じないことが、他人には狂気とすら見えるくらいに。
それくらい必死になれば、少しはマシになれるだろうよ。
少なくとも、今よりはモテるようになるだろうな。
あ。
なんか、モテなさそうな野郎共を煽ってたら、もうこんな時間か。
スピーチコンテストってのも、案外短いもんだな。
まあ、本音を垂れ流してたら、俺らしい話ができたからいいとするか。
じゃあ、残り時間も少ないし、最後に、他人への依存から抜け出した女の話でもしておくか。
最初の方に話した、三年前に俺を刺した女の話だ。
人を刺したら、一般的には、相手が死んでなくても殺人未遂事件になる。
ただ、初犯であることとか情状酌量の余地があるとか、反省の深さであったり被害者との示談が成立することなんかで、執行猶予がつくこともある。
俺を刺した女には、執行猶予がついた。
それであいつも、目が覚めたんだろうな。
あれ以来、俺に連絡してくることはなくなった。
出産ギリギリまで働いて、子供を産んで。育休が終わったら、また必死に働いてるらしいな。
……は? 養育費は払ってないのかって?
払ってねぇよ。
要求してきたら払ってもいいが、今のところ請求されてないしな。
それで、だ。
その女、半年くらい前に結婚したそうだ。
俺の子を産んだこととか、執行猶予中であることとか。
そういったことを、全て受け止めてくれる男とな。
自分を見直して、脇目も振らずに努力したら、知らず知らずのうちに自分を磨いてたんだろうな。
だからこそ、何もかもを受け入れてくれるような男に惚れられたんだろうな。
……ははっ。
こうして遊んだ女のことを語ってると、何て言うか……。
なんか、俺らしい悪役の気持ちが芽生えてきたな。
だから最後に、その女に呼び掛けてみようか。
おい。
お前の旦那は、俺よりいい男か?
お前は本当に、俺のことを忘れられるのか?
もう、俺のことを忘れられたのか?
もし忘れられないなら、気軽に連絡してこい。
また、ベッドの中で遊んでやるよ。
お前に刺された傷痕も見せてやる。
待ってるからな。
……なんかスピーチコンテストっぽくない締めくくりだけど、まあいいだろ?
それじゃあな。
(終)
本作は、いでっち51号様の企画「SPEECH HERO」の参加作品です




