アンチレター
悪役専任とも言える俳優、五味秀一。
芸能人におけるスピーチコンテスト、STAND UP SPEECH HEROに出場した彼は、自分の出番になると、手持ちマイクを持って舞台に上がった。
目の前には、席に座る多くの観客。
立ち並ぶテレビカメラ。
五味は口元に笑みを浮かべ、語り始めた。
さて。このスピーチコンテスト――STAND UP SPEECH HEROに出たわけだが。
しっかし。
優勝賞金がすげぇな。一億だぞ、一億。
フジサンテレビも、思い切った企画を出したもんだよな、本当に。
といっても、正直なところ、俺は賞金なんてどうでもいい。当たればラッキーな宝くじ、程度の気分だ。
だから、優勝を狙って素晴しい話をしようなんて思わない。コントをしてウケを狙う気もない。
ってか、そもそも、コントなんて俺のキャラじゃねぇしな。
もちろん、あらかじめ決めた台本を読むつもりもない。
台本を読むのは、ドラマとか映画で十分だ。それだけで、俺の俳優としての実力は証明されてるわけだしな。
だから、完全フリーで語らせてもらう。
じゃあ、まずは――
必要じゃないとは思うけど、簡単に自己紹介から入ろうか。
俺は五味秀一。俳優だ。悪役ばかりを演じてる。
自己紹介だから、悪役専任の俳優をやってる理由を少し語るが。
格好いい役なんて、いい台本があれば、誰がやっても格好がつくんだよ。なぜか? 格好いい役に、格好いいことをさせるための台本が作られるんだからな。
そんな面白くない仕事、俺はしない。
悪役ってのは、大根じゃ駄目なんだよ。大根役者が演じる悪役は、はっきり言って白けるんだ。悪さにわざとらしさが目立って、最終的に主人公にやられるのが目に見えるからな。悪役なんて大層なものじゃなく、ピエロに成り下がるんだ。
そう考えると、俺は、はっきり言って名俳優だ。俺が演じる悪役は、誰が見てもクソ野郎に映る。誰もが俺を憎み、蔑み、あるいは怒りを覚える。
この会場に集まった奴らからも、俺に対する嫌悪の視線をひしひしと感じるよ。
って言っても、俺を憎んでいない奴が、どこかにいるかも知れない。俺のファンだって、どこかにいるかも知れない。
……って思うだろう?
そんなことはない。俺が悪役を演じると、誰もが俺を憎む。ドラマや映画の枠を越えて、俺自身を憎む。
俺の演技力は、フィクションの枠すら越える。フィクションを越えて、現実の世界にまで影響を及ぼす。俺は、それくらいの名俳優だ。
なんなら、証拠だって見せてやるよ。ほら。ここに、俺に送られてきたファンレターを用意した。
いや。ファンレターとは違うな。ここに用意した手紙には、俺への悪口雑言が書かれてるはずだからな。
さしずめ、アンチレターってところか。
もちろん、まだ開封してない手紙だ。厳選した手紙を用意したなんて思われたら、癪だからな。
じゃあ、早速見てみようか。まずは一通目、開けるぞ。
えっと……。
「お前みたいなクソ野郎は、今までの人生で見たことがない。世の中のために、一刻も早く死んでくれ」
だとよ。長々と色んなことが書いてあるが、最終的には、俺に死ねと言ってる手紙だな。
でも、俺は当分死にそうにない。残念だったな。
じゃあ、二通目だ。
おっ?
ははっ。なんだこいつ、暇人なのか。
一通目は馬鹿な罵倒の繰り返しだったが、二通目は、暇人の手紙だな。「死ね」っていう言葉を小さな文字で無数に書いて、その小さな文字を集めて、大きな「死ね」って言葉にしてる。ある意味スゲえな、この手紙。たぶん、小さな「死ね」が千個はあるぞ。これを書いた奴は、マジで暇なんだな。
こいつこそ、暇すぎて死ぬんじゃねぇか?
次に三通目だ。
おお? こいつ、偽善者か? それとも、性善説を信じてる馬鹿なのか?
読み上げるぞ。
「あなたはそうやって好き勝手に生きていますが、他人の痛みについて考えたことはありますか? 他人の気持ちを考えたことはありますか? 若く力があるうちは、好きに生きてもいいと思えるでしょう。でも、そんなことを続けてると、誰にも死を見取ってもらえない、寂しい人生を送ることになりますよ」
だってよ。
こいつもスゲぇな。悪い意味で。こういう奴が、凶悪犯にも人権があるとか語るんだろうな。
せいぜい、助けたクソ野郎に殺されないように気を付けろや。
持ってきた手紙はあと二通か。でも、二通とも、馬鹿が馬鹿なことを書いてるだけなんだろうな。正直なところ、もう飽きてきた。
読むのも面倒だから、こんな手紙を送ってきた奴に教えておこうか。
残念だけど、お前等が送ってきたアンチレターは、俺の俳優としての実力を証明してるに過ぎない。ドラマや映画の枠すら抜け出すほど、強烈な印象を残す俳優。それが俺だ。
俺は実力を認められて、寝る暇すらないほど多くのドラマや映画に出演する。金が懐にザクザク入ってくる。お前等が、くだらねぇアンチレターを書いてる最中でもな。
で、こんな手紙を書いた奴等は、何を手に入れられる? 無駄な時間を使うことで、何が懐に入ってくる?
何も入ってこねぇよな? 金も。女も。
当然だ。人を否定して、批難して、自分の主張に酔い知れることでしか自分を肯定できないんだからな。
他人に罵詈雑言を浴びせることでしか、自分の居場所を作れない。
つまらねぇ、クソみてぇな人生だな。
そんな人生しか歩めないなら、俺なら自殺するね。
そんなクソみてぇな人生でも生き続けられるんだから、まあ誉めてやるよ。悪い意味でな。
……おっと。俺のトークの時間も、もう少しで終わりそうだな。
読むのも飽きたけど、せっかくだからもう一通くらい手紙を開封しておくか。
あー。えっと……。
「毎回、胸糞が悪くなるほどの迫真の演技が、本当に見事です。まるで、殺したくなるほど憎い人間が、目の前にいるようです。それだけの演技力を身につけるために、どれほどの努力を積み重ねてきたのか。五味さんの努力を思うと、頭が下がり……」
……。
…………。
……そろそろ次の奴の出番だな。
まだ少し時間がある?
別にいいだろ、少しくらい時間が余っても。
この会場にいる奴等だって、クソしに行くくらいの時間は欲しいだろうしな。
それじゃあな。
(終)
本作は、いでっち51号様の企画「SPEECH HERO」の参加作品です




