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【完結】三年間の白い結婚の末、夫が妹に産ませた子を私の嫡子にするつもりだと知ったので、証拠を揃えて離縁しました  作者: 木風


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第四話 離縁から一年後

 離縁後、私は慰謝料として譲られた南部のルーヴェル荘へ移った。

 屋敷は古く、長く使われていなかったため、窓枠には埃が積もり、庭は腰の高さまで草が伸びていた。

 けれど、朝になると東向きの窓から柔らかな光が入り、遠くには葡萄畑が広がっている。


 私は使用人たちと一緒に家具を運び、傷んだ壁紙を剥がし、少しづつ手を入れる。

 領民から話を聞き、放置されていた水路を修繕し、冬に備えて共同倉庫へ穀物を積んだ。

 屋敷の一角は、夫や父親を失った女性が働ける縫製所として開放した。

 領内にあった古い修道院を改修し、孤児や行き場を失った子どもたちのための施設も設けた。


 忙しい日々。

 朝から晩まで歩き回り、夜は疲れて寝台へ倒れ込む。

 けれど、胸に空洞が開くことはなかった。

 自分で選び、自分で決めた日々だからだ。


「こちらの水路は、アシュフォード領まで繋がっています。修繕するなら、向こう側とも工期を合わせた方がよろしいかと」


 家令の言葉を受け、私はアシュフォード公爵家へ書状を送った。


 数日後、返事だけでなく、レオンハルト本人が視察へ訪れた。


「公爵様ご自身がお越しになるとは思いませんでした」

「君が作った工事計画が、私の家臣が出したものより詳しかったのでね。誰が書いたのか確かめたくなった」

「私が書きました」

「やはり」


 レオンハルトは僅かに笑った。


「以前の備蓄会議でも、君だけが避難民の人数だけでなく、乳児の数と必要な薪の量まで計算していた」

「覚えていらしたのですか」

「君は、自分が思っているより目立つ」


 胸が小さく鳴った。

 彼は私を、裏切られた哀れな女として見ていない。

 私が何を考え、何をしてきたかを覚えている。




 それからレオンハルトは、水路工事や物資の輸送について協議するため、たびたびルーヴェル荘を訪れるようになった。

 訪れるたび、彼は孤児院へ足を運び、子どもたちの名前を覚えた。

 厨房で働く女性が意見を述べても遮らず、畑の作業をしている老人にも自分から声をかける。


 ある日、子どもたちにせがまれて木馬を直していた彼の袖へ、木屑がびっしりと付いていた。


「近衛騎士団長に、何をさせているのですか」

「剣より難しい」

「代わりましょうか」

「いや。ここまでやった以上、完成させる」


 真剣な顔で小さな車輪と格闘する姿に、私は声を立てて笑った。

 笑った後、自分でも驚いた。

 誰かの前で、これほど無防備に笑ったのはいつ以来だろう。


 レオンハルトが顔を上げる。


「やっと笑ったな」

「私、普段も笑っております」

「社交用の笑顔ではなく」


 頬が熱くなった。

 彼は追及せず、再び木馬へ視線を戻した。

 その横顔を見つめながら、胸の内側へ温かなものが広がっていくのを感じた。




 離縁から一年後。

 私はレオンハルトのエスコートで、王宮の夜会へ出席した。

 淡い青銀色のドレスに袖を通し、彼の腕へ手を添える。

 大広間へ入った瞬間、多くの視線が集まった。


 好奇。

 同情。

 値踏み。

 扇の陰から、声を潜めた囁きが聞こえる。


「夫に捨てられた方が、今度はアシュフォード公爵様に取り入ったそうよ」

「お気の毒だから、憐れみをかけていらっしゃるのでしょう」

「一度離縁された女性を、公爵夫人に迎えるはずがありませんわ」


 以前の私なら、聞こえないふりをしただろう。

 けれど、今は違う。

 私は足を止め、扇を持った婦人たちへ向き直った。


「訂正させてくださいませ。私は夫に捨てられたのではありません。夫と妹の不貞を暴き、出生記録と爵位継承の偽装を企てた男を、私から切り捨てました。今後、私についてお話しになる際は、どうぞ事実をお間違えになりませんように」


 婦人たちの顔が強張り、周囲の会話が止まった。


「レティシア」

「何でしょう」

「私が口を挟む必要はなかったな」

「私自身のことですもの」

「その通りだ」


 隣に立つレオンハルトの声は、どこか楽しげだった。

 彼は婦人たちへ視線を向けた。


「もう一つ、誤りを訂正しておこう。私はレティシアに憐れみをかけているのではない。彼女の判断力と行動力を尊敬し、一人の女性として心から好ましく思っている」


 婦人たちの顔色が変わる。

 私は息を止めた。


「レオンハルト様」

「続きは、二人きりの場所で話そう」


 彼は何事もなかったように腕を差し出す。

 夜会が終わった後、レオンハルトは私を王宮の中庭へ連れ出した。

 春の夜気には、咲き始めた薔薇の香りが混じっていた。


「先ほどの言葉についてですが」

「取り消すつもりはない」


 彼は私の正面へ立った。


「私は、以前から君を知っていた。夫の隣で黙って微笑む姿ではなく、備蓄表の間違いを指摘し、避難所へ毛布を追加させ、誰も気に留めなかった者の名前を覚えている君を」


 胸の奥が強く脈打つ。


「審問の後、君は誰かに寄りかかるのではなく、自分の足で新しい場所へ立った。私は、その姿に惹かれた」

「私は一度、夫という人を見誤りました」

「知っている」

「また同じことになるのではないかと、怖くなることがあります」

「当然だろう」


 レオンハルトは、安易に否定しなかった。


「傷を消せるとは言わない。過去をなかったことにするつもりもない。君が歩いてきた三年間も、そこから立ち上がった時間も、すべて君のものだ」


 彼の指先が、私の手へ触れる。

 喉の奥が熱くなる。

 強引に掴まず、離れようと思えば離れられるほどの触れ方だった。


「私は、その時間ごと君を大切にしたい」

「すぐに答えを求めるおつもりですか」

「いや。君が自分で選んだと言えるまで待つ」

「では、今、お答えします」


 レオンハルトの目が見開かれた。


「私は、あなたと生きてみたい」


 声が震えた。今度は恐怖ではない。

 差し出された未来へ、自分から手を伸ばす緊張だった。


「私も、レオンハルト様をお慕いしています」


 彼はゆっくりと息を吐き、私の手を両手で包んだ。


「レティシア。私と結婚してくれるか」

「はい」


 月明かりの下で、深い青色の石が嵌められた指輪が、私の指へ収まった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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▶ 私の婚約者は優秀なのですが、ときどきどこかおかしい
〜人と熊を対立させて、一番得をするのは鮭だったようです〜
異世界恋愛/ラブコメ/王太子/公爵令嬢/婚約者が残念/鮭/生き物ガチ勢/平和な国
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