【4】宗明:街の代筆屋2
三日後、代筆屋から受け取った文章を見て、宗明は息をのんだ。
(完璧だ……)
公文書なら、いくらでも書いてきたから、自信があった。しかし、そんな自分よりも、腕は上かもしれない。文章は精緻な上に、言葉選びのセンスは詩的で趣がある。
「お代を」
宗明があまりの出来に動けずにいるのを知ってか知らずか、彼は短く告げる。
「すまん」
代金を払った宗明は、少し考える。
(この代筆屋、祐筆として雇うか?)
公文書を、必要な形に整え、美しい字で書く。それが祐筆の役割だ。この腕が、在野にあるのは惜しい。
「代筆屋。この腕なら、領主の元や朝廷で、祐筆として働けるんじゃないのか? 紹介してやってもいいが」
「宮仕えに興味はありません」
にこりともせず、代筆屋は答える。
「そうか。では」
にべもない代筆屋の返答を食らい、宗明は店を後にする。ふと足元を見ると、一枚の紙が落ちていた。
(代筆屋のものか)
風で飛ばされたのであろうか。何気なく拾ってみる。
(――雲)
「雲」の文字が、意匠を凝らして書かれている。流麗な曲線が特徴的だ。その墨の濃淡、かすれ。
(これは)
やはり、あいつの字。
(いや、そんなはずは)
すぐに理性が否定をする。でも直感は変わらない。彼は、凛に近しい者――兄弟なのかもしれない。
(凛の消息を知っているかもしれない)
あの日以来、会っていない少女。自分のせいで、彼女の人生を狂わせてしまった。彼女は今、どうしているのだろう。
たまらず、もう一度代筆屋のドアを開ける。
「どうしました?」
彼が顔を上げる。
「何か不備でも?」
「いや、そういうわけじゃない」
凛の姿を思い出し、目の前の男と見比べる。男の髪は黒。凛の髪はもっと茶色がかっていたはずだ。目元やあごのラインは、似ている気がする。
(やはり兄弟か?)
聞いてみようかどうしようか。いや、そもそも凛に兄弟はいたか?
ぐずぐずしている間に、代筆屋の顔が怪訝そうになっていく。
「ご用がないなら――」
代筆屋の言葉に、宗明は慌ててかぶせる。
「もう一つ、依頼をしたいんだ」
「また公文書ですか。どのような内容でしょう」
「内容は……」
考えていなかった。行き当たりばったりで、会話をつなげる。
「もう十年以上会っていない人に、文を出したい。恋文だ」
「内容は」
「その人に聞きたい。彼女は今、幸せだろうか。ずっと案じていた、と」
「それだけですか。恋文らしからぬ内容ですね。どちらかというと、安否確認ですが」
「そうだな……」
思いつくまま言っただけだから、自分でも何を言いたいのかよく分からない。
「恋文という体でいいんですね」
「それで頼む」
「では三日後に、明さま」
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