【3】宗明:街の代筆屋1
部下が出してきた代筆屋の書類を見た宗明は、居ても立ってもいられなかった。
豪奢な刺繍が施されている直裾を脱ぎ、庶民が着る短衣に着替える。整えた襟足をくしゃっと乱し、街に出る。
幸い領民は、街を歩く宗明の正体に気づいていない。
部下から聞いた代筆屋の店は、裏路地にひっそりとあった。表の看板には、「なんでも代筆します。秘密厳守」とある。
扉を開けると、墨の香りが鼻をついた。狭い店内には天井まで棚が設置され、様々な色の紙がきちんと置かれている。乾かし中の筆が、梁に渡された紐から、何本か垂れ下がっている。
全体に薄暗いが、店主が座っている卓にはしっかりとろうそくが灯され、そこだけ明るい。
宗明の訪れに、店主が顔を上げた。自分と同じくらいの年齢の、小柄な青年だ。
ふんわりと癖のある黒髪は、簡単に束ねられている。若草色のゆったりとした短衣。線は細くどことなく中性的ではあるが、髪型も服装も男性だ。
部下が持ってきた書から連想した人物は、女だった。
「どういったご用ですか?」
と彼は短く言う。
「代筆を頼みたい」
「どのような」
「これを、公文書らしく」
宗明は、箇条書きにしたメモを渡す。いつもなら自分でやる仕事だ。それをこの代筆屋は、どのように仕上げるのだろう。
「かしこまりました。何点かお聞きしたいことが」
代筆屋の質問に、宗明は答えていく。そのメモを取る代筆屋の手元を見る。正確には、その手が描き出す筆致を。
(曲線は、あいつそっくりなのに)
彼女が描く優美な曲線に胸を焦がし、何度も真似をした。
「承りました。では、三日後に」
代筆屋の声に、ハッと我に返る。
「お次の方」
いつの間にか後ろに並んでいた客に一礼し、宗明はその場を後にした。
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