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『海から百万石 ~江戸時代に転移した国交省の土木職員、水守と河童と有明海の大干拓に挑む~』  作者: 天手古まい


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第五十四普請 みんなで造る、未来の家

殿様のひと言から始まった、水学所の建設計画。


長吉は畑、健太は道具作り、おたえは商いの場所が欲しいと大騒ぎ!


ところが、学び舎を建てるには、思わぬ難題が待ち受けていました。


子どもたちの知恵と、澪の力、河童水工衆の技が一つになるとき――。


そして、どうやら白瀬と澪の「新しい家」にも、ひと騒動ありそうです。

 寛永三年(一六二六年)、秋。


 諫早の小さな村に、とんでもない知らせが駆け巡った。


 殿様が、子どもたちのために学び舎を建ててくださるという。


 しかも、ただの学び舎ではない。


 文字を覚え、算術を学び、田畑を育てる知恵を磨き、道具を作り、商いを考える。


 そんな場所を、村に造ろうというのだ。


 名は――水学所。


 その知らせを聞いた子どもたちが、大人しくしているはずもなかった。


     ◇


「おいの畑は、どこに造ると!?」


「ちょっと待て、長吉。まだ建物の場所も決まってないんだぞ」


「そいなら、今から決めればよかたい!」


 長吉の家の納屋。


 いつもの学び場は、朝から大騒ぎだった。


 白瀬湊一は、城から持ち帰った建築の覚書を広げながら、早くも頭を抱えていた。


「おいは道具ば作る場所が欲しか!」


 健太が勢いよく手を挙げる。


「木ば削って、穴ば開けて、そいから……」


「火事だけは起こすなよ」


「分かっとるって!」


「前にも聞いた気がするけどなあ」


 白瀬が苦笑すると、今度は源太が身を乗り出した。


「おいは網ば広げられる場所が欲しか。破れた網ば直すのにも使えるけん」


「うちは、遠くから来た人と話せる部屋がよか!」


 小春が両手を広げる。


「唐の人も、ほかの国の人も、みんな来られるごたる場所!」


「お前、それじゃ学校じゃなくて寄合所だろ」


「学校でも話せばよかやん!」


 確かに、それも一理ある。


 白瀬が頷きかけたところで、おたえが胸を張った。


「うちは蔵が欲しか!」


「蔵?」


「そうたい! 諫早の品物ば置いとく蔵! そいに帳面ばつける部屋も!」


「……おたえ、お前の店を造る話じゃないんだぞ」


「店も学ぶ場所たい!」


 妙に堂々と言い切る。


 長崎で商いの厳しさを知ったおたえは、以前にも増してたくましくなっていた。


 儲け話となれば目が輝く。


 ただし最近は、儲けた銭の使い道まで考えるようになっている。


 そこが昔とは違った。


「では、私は書物を置く場所が欲しいです」


 遠慮がちに声を上げたのは千代だった。


 諫早直孝の娘であり、若殿・茂敬の妹。


 数日前、父に連れられてこの学び場を訪れて以来、すっかり子どもたちの輪に溶け込み始めている。


「書物がたくさんあれば、みんなで読めますから」


「よかねえ、それ!」


 小春が嬉しそうに手を叩く。


 おたえは、さっそく帳面に何かを書きつけた。


「書物を置く棚……と」


「おたえ。それ、誰が造るんだ?」


「健太!」


「勝手に決めるな!」


 また笑い声が弾けた。


 その騒ぎの中、納屋の戸口から、ぬっと緑色の頭が現れた。


「おおっ! みんな集まっとるたい!」


「ガタ吉。どこ行ってたんだ?」


「川ば見てきたとよ。新しか家が建つなら、おいら河童水工衆の出番たい!」


 ガタ吉は得意げに胸を張った。


 そして覚書を覗き込む。


「ところで白瀬」


「なんだ?」


「おいの団子部屋はどこね?」


「……は?」


「団子ばしまっとく部屋たい。学校には必要やろ?」


「必要ない!」


「なんでね!?」


「学校だからだよ!」


「勉強したら腹の減るばい!」


 今度ばかりは、白瀬も言い返せなかった。


 子どもたちが腹を抱えて笑う。


 そんな様子を、少し離れたところで澪が眺めていた。


「まったく。おぬしらは朝から騒がしいのう」


「澪も何か欲しい部屋はないのか?」


「妾か?」


 澪は少し考えた。


「水を調べられる場所があればよい。川の石や土を持ち帰り、子らと比べてみるのも面白かろう」


「いいな、それ。水の勉強部屋か」


「……別に、妾だけの部屋が欲しいわけではないぞ」


「分かってるって」


 白瀬は笑って、覚書に目を戻した。


 そこで、ある一文に気づいた。


『水学所並びに白瀬屋敷、水守の居室を設ける』


「…………ん?」


 もう一度読む。


 読み間違いではなかった。


「俺の屋敷まで?」


 城で直孝から住まいを移すよう命じられたことは覚えている。


 だが、こうして書きつけにされると、妙な実感が湧いてくる。


 今まで白瀬は、村の世話になりながら暮らしてきた。


 それが、いよいよ自分の住まいまで与えられるという。


 しかも――。


「澪の部屋もあるぞ」


「何?」


 澪が隣へ寄ってきた。


 覚書を覗き、しばし考える。


「……水守の居室、とな」


「ああ。学び舎の奥に住まいを造るらしい」


「つまり、白瀬も妾も、そこに住むということか?」


「そうなるな」


 澪の頬が、ほんのり赤くなった。


「……待て。なぜ妾まで同じ屋敷なのじゃ?」


「水のことを教えるのに、毎日通うのも大変だろ?」


「そ、そういうことではない!」


 そのときだった。


「あらあら。楽しそうなお話ですこと」


 聞き覚えのある声がした。


 振り向けば、奥方が侍女を伴って立っている。


「お、奥方様!?」


 白瀬が慌てて姿勢を正した。


 奥方は、澪と白瀬を交互に眺める。


「なるほど。同じ屋敷にお住まいになるのですね」


「いえ、あの、学び舎と住まいを一緒にするというだけで……」


「でしたら、お部屋は近い方がよろしいでしょう」


 にっこり。


「水守様のお部屋と白瀬殿のお部屋、隣同士にしてはいかが?」


「なっ……!」


 澪が絶句した。


「もちろん、廊下を挟めばよいのです。何も問題ございませんでしょう?」


「そ、それは……!」


 澪は白瀬を見た。


 白瀬は、あっさり頷いた。


「確かに、廊下があれば別の部屋ですしね」


「白瀬!」


「え? 何かおかしいか?」


「……もうよい!」


 澪はぷいっと横を向いた。


 奥方は扇で口元を隠している。


 その肩が、小さく震えていた。


 ガタ吉が、こそっと小春に耳打ちする。


「……奥方様、楽しそうたい」


「うん。すっごく楽しそう」


 子どもたちも、何やら面白そうな顔になった。


 白瀬だけが、何を笑われているのか分かっていなかった。


     ◇


 数日後。


 学び舎を建てる場所を決めるため、村の周囲に人が集まった。


 城から派遣された役人。


 普請を請け負う大工の棟梁。


 村の年寄たち。


 そして白瀬、澪、ガタ吉に、子どもたち。


 若殿の茂敬も同行している。


 候補地は三つあった。


 一つ目は、城に近い高台。


 二つ目は、村の中央にある平らな土地。


 三つ目は、長吉の家から少し離れた、緩やかな高みだった。


「こちらであれば、城からの往来にも都合がよろしゅうございます」


 役人が最初の候補地を勧めた。


 確かに高台は水に浸かりにくい。


 見晴らしもよい。


 しかし、白瀬は首を傾げた。


「ここだと、村の小さな子には少し遠いですね」


「多少の坂道は、足腰の鍛錬にもなりましょう」


「晴れの日なら、そうかもしれません。でも、毎日ここへ通うんですよ?」


 白瀬は坂道を見下ろした。


「雨の日は滑りやすい。冬の朝も大変です。子どもたちが通えなくなったら、学び舎を造る意味が薄れてしまいます」


 役人は黙った。


 次に向かったのは、村の中央だった。


「ここなら近か!」


 小春が喜ぶ。


「うちの家からも、すぐ来られるばい!」


 確かに、通うには便利な場所だ。


 だが――。


 澪が、足元の草を見つめていた。


「白瀬」


「ん?」


「ここは、あまりよくないのう」


「水か?」


「うむ。雨が続けば、この辺りへ集まる。水が去るのも遅かろう」


 白瀬はしゃがみ込み、土を手に取った。


 表面は乾いている。


 だが、少し掘ると湿り気が残っていた。


「なるほど……」


 白瀬は周囲を見渡した。


 土地は平らに見えるが、北側から緩やかに下がっている。


 しかも、先には細い溝が一本あるだけだった。


「長吉。ここは大雨のとき、どうなる?」


「んー……」


 長吉は考え込む。


 やがて、少し離れた場所を指さした。


「そっちに水のたまるとよ。田んぼじゃなかけん、あんまり気にしとらんやったけど」


「いつまでも残るのか?」


「うん。晴れても二日くらい、ぐちゃぐちゃしとることのある」


「そっか……」


 白瀬は頷いた。


 澪が感じ取った水の動き。


 長吉が日々の暮らしで見てきた土地の様子。


 そして、実際の地形。


 三つが同じ答えを示していた。


「ここに建てるなら、相当手を入れないといけないな」


「白瀬。この土地が悪いわけではないぞ」


 澪が静かに言う。


「水には、水の集まる場所がある。それを知らずに家を建てるのが危ういのじゃ」


「ああ。その通りだ」


 白瀬は立ち上がった。


「じゃあ、最後の場所を見よう」


     ◇


 三つ目の土地は、なだらかな高みにあった。


 長吉の家からも、さほど離れていない。


 近くには畑があり、少し先には小さな流れもあった。


 子どもたちが歩いて通える距離だ。


「ここなら広かね!」


 健太が走り回る。


「道具ば置く場所も造れそうたい!」


「おたえの蔵も造れるばい!」


「蔵はまだ決まってないだろ!」


 白瀬が突っ込む。


 その横で、大工の棟梁が腕を組んでいた。


「地面も悪うなか。ここなら、柱を立てるにも都合がよさそうじゃ」


 しかし、白瀬はすぐに決めなかった。


「水の出口を確かめたいんです」


「出口?」


「雨が降ったとき、この土地に集まった水が、どこへ行くかです」


 棟梁が頷いた。


「なるほど。それは見ておかねばならんな」


 白瀬は縄を張り、杭を打って高さを比べた。


 水を入れた竹の管も使い、地面の傾きを確かめる。


 難しい道具ではない。


 だが、少しの高さの違いでも、水の行き先は変わる。


「健太、こっちの杭を持ってくれ」


「おう!」


「源太、そこの溝はどっちへ流れてる?」


「向こうの川たい。でも、雨の後は泥のたまるとよ」


「長吉、そっちの畑は普段どうだ?」


「よう乾くけど、あっちの隅は水の残りやすか」


 いつの間にか、子どもたちが次々と測量を手伝っていた。


 それを見ていた茂敬が、長吉に声を掛ける。


「長吉」


「は、はい!」


「お前なら、どこに建てる?」


 突然若殿に尋ねられ、長吉は目を白黒させた。


「お、おいですか?」


「そうだ。お前はこの土地をよく知っておろう」


「ばってん、おいは百姓の子ですけん……」


「それがどうした」


 茂敬は微笑んだ。


「田のことなら、私よりお前の方が詳しかろう」


 長吉は、ぽかんと口を開けた。


 そして、少しずつ笑顔になった。


「……なら、おいはこっちがよかと思います!」


 畑を避けて通れる道。


 水の残りやすい場所。


 雨が降ったとき、ぬかるみやすい所。


 長吉は一つずつ説明した。


 茂敬は真剣に耳を傾ける。


「なるほど。土地には、住んでおる者にしか分からぬことがあるのだな」


「そうたい!」


 長吉は嬉しそうに頷いた。


 白瀬は、その光景を見ながら思った。


 数年前なら、百姓の子が若殿と肩を並べて土地の話をするなど、考えられただろうか。


 少しずつだ。


 本当に少しずつだが、この土地は変わり始めている。


「よし。ここを第一候補にしよう」


 白瀬が言うと、子どもたちから歓声が上がった。


 しかし、まだ一つ仕事が残っていた。


「ただし、建物の位置は、雨水の流れを確かめてからだ」


「そいなら!」


 健太が勢いよく手を挙げた。


「おいに考えのある!」


 その顔には、自信満々の笑みが浮かんでいた。


     ◇


 翌日。


 長吉の家の庭に、奇妙なものが出来上がっていた。


 土を盛った小さな山。


 細い溝。


 木片を組み合わせた建物。


 その隣に、桶いっぱいの水。


「何だ、これは?」


 白瀬が尋ねると、健太は得意げに胸を張った。


「新しか水学所たい!」


「……小さいな」


「当たり前やろ! 本物のごたる形ば造ったと!」


 どうやら模型らしい。


 白瀬は思わず笑った。


 まだ十分に教えていないのに、健太は自分で土地の形を再現しようとしたのだ。


「で、これをどうするんだ?」


「見とって!」


 健太は桶から水をすくい、模型の上へ少しずつ流した。


 水が土の斜面を伝い、細い溝へ入っていく。


「おおっ!」


 源太が声を上げる。


 水はくねくねと曲がりながら、模型の外へ流れ出た。


「ほら! ちゃんと流れたばい!」


「すごかね、健太!」


 小春が拍手する。


 おたえも感心したように頷いた。


「こいなら、雨が降っても安心たい!」


 健太は、ふんぞり返った。


「おいの考えた水路に、間違いはなか!」


 白瀬は模型を覗き込んだ。


「なるほどなあ。じゃあ、もう少し強い雨が降ったら?」


「へ?」


「今よりたくさん水が来たら、どうなる?」


「そいも大丈夫たい!」


 健太は桶を持ち上げた。


「見とって!」


 ざばっ!


 先ほどより多くの水が流れた。


 最初は順調だった。


 ところが――。


「……あれ?」


 水が溝の途中で滞り始めた。


 細い曲がり角に、土が崩れ込んでいる。


「ちょ、ちょっと待て!」


 健太は慌てて指で土をかき出した。


 しかし、その間にも水位が上がっていく。


「健太! あふれるばい!」


「分かっとる!」


 次の瞬間。


 ばしゃっ!


 水が溝からあふれ、木片で造った建物を直撃した。


「ああああっ!」


 健太の悲鳴が響く。


 模型の建物が傾き、横倒しになった。


 しばし沈黙。


 そして――。


「ぶっ!」


 おたえが噴き出した。


「水学所じゃなくて、水浸し学所たい!」


「笑うなあっ!」


 子どもたちが一斉に笑い出した。


 ガタ吉まで腹を抱えて転がっている。


「ひゃははは! 学校が川になっとるばい!」


 健太は顔を真っ赤にした。


「もう一回やれば、ちゃんと出来る!」


 しかし、白瀬は笑わなかった。


 壊れた模型の横にしゃがみ込む。


「健太」


「……何ね」


「よくやった」


「……は?」


「いい失敗だ」


 健太は目を丸くした。


「失敗が、よかと?」


「ああ。本物の学び舎を建てる前に、危ないところを見つけられたんだからな」


 白瀬は、崩れた溝を指さした。


「水は、いつも同じ量が流れるわけじゃない。雨が強ければ増えるし、土や落ち葉が詰まることもある」


「……うん」


「だから、実際に水を流して確かめるんだ。失敗したら、どこが悪かったか調べればいい」


 健太は黙って模型を見つめた。


 やがて、小さく頷いた。


「……もう一回、造ってよか?」


「もちろん」


「今度は、もっと上手に造るけん!」


 白瀬は笑った。


「期待してるぞ」


 その横で澪が、そっと白瀬の袖を引いた。


「白瀬」


「ん?」


「この子らは、よい顔をするようになったのう」


 白瀬は振り向いた。


 健太はすでに源太と相談を始めている。


 長吉は土を持ってきた。


 小春は桶に水を汲み足している。


 おたえは、何やら紙に図を描いていた。


 誰も、健太の失敗を笑い続けてはいなかった。


「ああ」


 白瀬は頷いた。


「俺が教えなくても、自分たちで考え始めてる」


 澪は嬉しそうに微笑んだ。


「……ならば、妾たちも負けてはおれぬな」


     ◇


 その日の午後。


 空が、にわかに曇り始めた。


 秋の雨だった。


 白瀬たちは、候補地で地面の様子を調べていた。


 浅く掘った溝へ雨が落ちる。


 最初は細い流れだった。


 だが、次第に水量が増していく。


「白瀬!」


 澪の声が鋭くなった。


「あちらへ水が寄っておる!」


「え?」


 白瀬が振り向く。


 敷地の端に集まった水が、低い方へ流れ始めていた。


 その先には、村人の畑がある。


「まずい!」


 白瀬は駆け出した。


 雨水は、試しに掘った溝を伝い、思いもよらぬ方向へ向かっていた。


「土のうを! いや、まず土で塞ぐんだ!」


 大工たちが慌てて動く。


 ガタ吉も水の中へ飛び込んだ。


「こっちたい! 水ば止めるけん!」


 泥を積み上げ、水の流れを変える。


 幸い、畑へ水が入り込む前に食い止められた。


 しかし――。


「何ばしよっとか!」


 怒鳴り声が響いた。


 畑の持ち主だった。


「学校ば造るとは聞いとったばってん、うちの畑に水ば流すつもりか!」


「いえ、そんなつもりでは……」


 白瀬が答えかける。


「つもりがなかなら、何でこっちに水の来よっとか!」


 返す言葉がなかった。


 確かに、水を敷地の外へ流すことばかり考えていた。


 その水が、どこへ行くのか。


 最後まで確かめなければ意味がない。


 白瀬は深く頭を下げた。


「申し訳ありません。俺たちの見落としです」


 健太が、泥だらけの顔で立ち尽くしていた。


「……おいの考えた溝が、悪かったとやろか」


 誰も答えなかった。


 雨音だけが、辺りに響いていた。


 せっかく始まった水学所の普請。


 その最初の一歩で、白瀬たちは壁にぶつかったのだった。


     ◇


 雨が上がったのは、夕方近くだった。


 空には薄い雲が残り、濡れた草が夕陽を受けて光っている。


 白瀬は、泥だらけの溝を前に考え込んでいた。


「……おかしいな」


 水の流れは、測量で確かめた通りだった。


 高い場所から低い場所へ流れている。


 それ自体は間違っていない。


 しかし、問題はその先だった。


 敷地を乾かすために掘った溝が、これまで別の方向へ流れていた雨水まで集めてしまったのだ。


 水が一か所に集まれば、その分だけ勢いも増す。


 行き着く先が畑では、たまったものではない。


「白瀬」


 澪が隣に立った。


「まだ考えておるのか?」


「ああ。水の出口を、ちゃんと造らないといけない」


「うむ」


「学び舎を守るために、誰かの畑を駄目にするわけにはいかないからな」


 澪は、静かに頷いた。


「……白瀬。水を追い払うことばかり考えるでない」


「え?」


「水は、ただ邪魔をしに来るわけではない。田を潤し、人を生かし、川を満たす」


 澪は濡れた地面に手を触れた。


「水には、水の行くべき道がある。それを見つけてやればよいのじゃ」


 白瀬は、はっとした。


「……そうか」


 学び舎から水を遠ざける。


 それだけを考えていた。


 だが本来、雨水はその土地の水の巡りの一部だ。


 どこかで受け止め、無理なく流し、やがて川へ戻す。


 問題は、水をなくすことではない。


 水の通り道を、きちんと造ることなのだ。


「ありがとう、澪」


「礼などいらぬ。妾は見えておることを申しただけじゃ」


 澪は少しだけ得意げに顎を上げた。


 そのとき、足元の水たまりから声がした。


「おーい! 白瀬ぇ!」


「うわっ!」


 ばしゃん!


 ガタ吉が飛び出してきた。


「見つけたばい!」


「何を!?」


「水の出口たい!」


 ガタ吉は、濡れた手で向こうを指さした。


「あっちに昔からの細か流れがある。今は泥と草で詰まっとるばってん、下の川まで続いとる!」


「本当か!?」


「おいが嘘ば言うと思うね!」


「団子の数なら、たまにごまかすだろ」


「そいとこいとは別たい!」


 澪がくすりと笑った。


 白瀬は、ガタ吉の指さした先を見つめた。


 もし、その流れが使えるなら。


 畑を避けて、水を川へ戻せるかもしれない。


「よし。明日、みんなで調べよう!」


 白瀬の目に、再び光が宿った。


     ◇


 翌朝。


 まだ朝露の残る野原に、子どもたちが集まった。


 白瀬が地面に大きな図を描く。


「昨日、水が畑の方へ行ってしまったのは、溝の先に水の逃げ道がなかったからだ」


「じゃあ、溝ばもっと深くすればよかと?」


 健太が尋ねる。


「それだけじゃ駄目だ。深くしたところで、最後に水がたまれば同じことになる」


 白瀬は木の枝で線を引いた。


「まず、水が集まる場所を決める。そこから、畑を避けて少しずつ川へ流す」


「途中で泥の詰まったら?」


 源太が尋ねた。


「いいところに気づいたな。だから、途中に泥をためて掃除できる場所も造る」


「泥ばためる場所?」


「ああ。水の流れを少し緩めれば、重い砂や泥は底に沈みやすい。そこを時々さらえばいい」


 白瀬は、図の途中に小さな窪みを描いた。


「ただし、大雨の水まで全部ここにためるわけじゃない。あふれないよう、先へ流す道も必要だ」


 健太が身を乗り出す。


「そいなら、おいの模型ば直せる!」


「そうだな。もう一度やってみるか?」


「やる!」


 健太は勢いよく走り出した。


 すると、長吉が手を挙げた。


「白瀬しゃん!」


「どうした?」


「水路ば造るなら、あっちの畑は通らんでほしか」


「分かってる。畑は避ける」


「そいと、雨の少なか時には田んぼに水の欲しかけん、今ある流れば勝手に変えんでほしか」


 白瀬は目を見開いた。


「……そうだな」


 長吉は農民の子だ。


 水が多すぎる苦労も知っている。


 だが、水が足りない苦労も、よく知っている。


「ありがとう、長吉。そこも考えないとな」


 長吉は照れくさそうに笑った。


 白瀬は、地面に描いた図を消し、もう一度描き直した。


 そこへ源太が割り込む。


「白瀬しゃん、川の方も見てきたばい!」


「もう行ってきたのか?」


「うん。ガタ吉と一緒に!」


 源太は、川の下流を指さした。


「昨日は水の増えとったけん、出口のあたりまで水位の上がっとった。そいけん、そこも見とった方がよか!」


「なるほど……」


 水路を造れば、それで終わりではない。


 川の水位が高くなれば、流れにくくなることもある。


 白瀬は頷いた。


「よし。川の水が増えたときも、逆に戻ってこないか確かめよう」


 今度は小春が手を挙げた。


「うちは、畑の持ち主のおじちゃんに話してくる!」


「小春、一人で行くのか?」


「うん! 昨日、怒っとらしたけん。ちゃんと説明せんば!」


 そう言って走り出そうとする。


「待て待て! 俺も一緒に行く!」


 白瀬が慌てて追いかけた。


 その背中を見ながら、おたえが呟く。


「……何か、みんな勝手に動き始めたね」


 澪が頷く。


「うむ。よいことじゃ」


 ガタ吉も胸を張った。


「こいが仲間たい!」


     ◇


 それから数日。


 学び舎の予定地は、まるで祭りのような賑わいになった。


 河童水工衆が、土砂で埋まった古い水路を調べる。


 村人たちは、昔の水の流れを思い出しながら相談する。


 大工たちは、建物の位置を少しだけ高い方へ移すため、杭を打ち直した。


 そして子どもたちも、それぞれの仕事に取り組んだ。


「健太! そっちの溝、また詰まっとるばい!」


「分かっとる!」


 健太は模型の横にしゃがみ込んでいた。


 今度は、水路の曲がり角を緩やかにし、途中に小さな窪みを造っている。


 源太が水を流す。


 さらさら。


 水は窪みを通り、先へ進んだ。


「おおっ!」


「まだたい!」


 健太は首を振った。


「もっと水ば流して!」


「よかとね?」


「よか!」


 ざばっ!


 水が一気に流れ込む。


 窪みの中で水面が揺れた。


 細かな土が沈み、あふれた水が次の溝へ進む。


 そして――。


「流れた!」


「やったばい!」


 健太と源太が飛び上がった。


 小春が拍手する。


 長吉も笑顔になった。


「今度は家の倒れんやった!」


「当たり前たい!」


 健太は誇らしげに胸を張った。


 白瀬が近づいてくる。


「お、うまくいったか」


「白瀬しゃん! 見て!」


 健太は、得意満面で水路を指さした。


 白瀬はしばらく眺めてから、頷いた。


「いいな。昨日よりずっとよくなった」


「本当ね!?」


「ああ。ただ、これで完成じゃないぞ」


「……まだ何かあると?」


「本物の水路は、何年も使うからな。雨が降るたびに確かめて、悪いところがあれば直していくんだ」


 健太は少し考えた。


 そして、にやりと笑った。


「そいなら、何回でも直せばよかたい!」


「そういうこと!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 白瀬は、胸の奥が温かくなるのを感じていた。


 初めてこの村へ来た頃。


 目の前の問題を解決するだけで、精いっぱいだった。


 だが今は違う。


 子どもたちが、自分で失敗し、自分で直そうとしている。


 白瀬の知らないところでさえ、知恵は育ち始めていた。


     ◇


 一方、現場の端では別の戦いが繰り広げられていた。


「……足らん」


 おたえが呟いた。


 目の前には、建築に必要な品を書き出した帳面がある。


 柱。


 梁。


 板。


 屋根に使う材料。


 大工の手間賃。


 運搬のための舟賃。


 そこへ新しく、排水路を整えるための人手と道具が加わっていた。


「足らん、足らん、足らーん!」


 おたえが頭を抱える。


 千代が心配そうに覗き込んだ。


「おたえ。どうしたのですか?」


「銭たい!」


「お金?」


「そうたい! 水路ば造る分だけ、最初の見積もりより銭のかかると!」


 千代は帳面を眺めた。


 細かい数字が、びっしり並んでいる。


「……父上にお願いしては駄目なのですか?」


 おたえは顔を上げた。


「千代様」


「はい」


「殿様の銭も、湧いて出てくるわけじゃなかとですよ」


「……え?」


「この学校に銭ば使えば、その分、ほかに使える銭の減るとです」


 おたえは帳面を指さした。


「川ば直す銭もいる。田んぼば広げる銭もいる。海の仕事に使う銭もいる」


 千代は黙って聞いていた。


「そいに、困っとる人ば助ける銭も残さんばならんとです」


 千代が小さく頷く。


「……四面蔵、ですね」


「そうたい!」


 おたえの顔が明るくなった。


「白瀬しゃんたちが考えた、田・川・海・人の四つの蔵たい!」


 千代は、父が城で四面蔵について話していたことを思い出した。


 何となく聞いていただけだった。


 だが、今は違う。


 銭の使い方一つで、村の暮らしが変わってしまう。


 そのことが、少しずつ分かってきた。


「……では、どうすればよいのでしょう」


「そこが難しかと!」


 おたえは、うんうんと唸った。


「必要なもんば減らしたら、学校が出来ん。ばってん、全部造ろうとしたら、銭が足らん!」


 千代は帳面をじっと見つめた。


 そして、ある場所を指さした。


「……おたえ」


「何ですか?」


「この棚は、今すぐ必要なのですか?」


「棚?」


「書物を置く棚です」


 おたえは首を傾げた。


「そりゃ、欲しかばってん……」


「書物がまだ少ないのでしたら、最初は箱に入れておいてもよいのではありませんか?」


「…………」


 おたえの動きが止まった。


 千代は続ける。


「それに、この部屋の仕切りも……最初から全部造らなくてもよいのでは?」


 おたえが、ぱちぱちと瞬きをした。


 そして――。


「……そいばい!」


 ばんっ!


 帳面を叩いた。


「そいでよかたい!」


「ひゃっ!」


 千代が驚いて肩を跳ねさせる。


 おたえは一気に書きつけを始めた。


「棚は後回し! 仕切りも必要な分だけ! 道具も、今あるもんで使えるなら買わん!」


 千代は嬉しそうに笑った。


「それなら、少しは減らせますか?」


「減らせる! きっと減らせるばい!」


 おたえは千代の両手を握った。


「千代様、すごか!」


「そ、そんな……」


「うち、思いつかんやった!」


 おたえは、にっと笑った。


「千代様、商いの才があるかもしれんね!」


 千代の顔がぱっと明るくなる。


「本当ですか!?」


「本当たい!」


 そのとき、おたえは気づいた。


 千代が、少し寂しそうに自分を見ている。


「……どうしたとですか?」


「その……」


 千代は、ためらいながら口を開いた。


「ここでは、私もみなさんと同じように学んでいるのでしょう?」


「はい」


「でしたら……千代様ではなく、千代と呼んでいただけませんか?」


 おたえは目を丸くした。


 領主の娘を呼び捨てにするなど、簡単にできることではない。


 千代も、それは分かっている。


「もちろん、ほかの方がいるときは、今までどおりで構いません。でも……」


 千代は、少し頬を染めた。


「二人だけのときくらい、友達のように話してみたいのです」


 おたえは、しばらく黙った。


 そして、そっと笑った。


「……なら、今だけたい」


「はい!」


「千代」


「……!」


「一緒に、帳面ばつけようか」


 千代は、満面の笑みで頷いた。


「うん!」


 二人は顔を見合わせた。


 そして、どちらからともなく笑い出した。


 身分も、育った場所も違う。


 それでも、同じ帳面を覗き込み、同じことで悩み、同じように笑っている。


 その小さな机の上に、二人だけの友情が、確かに生まれていた。


     ◇


 排水路の見通しが立った頃。


 諫早直孝が、再び建設予定地を訪れた。


 知らせを受けた村人たちは、慌てて作業の手を止めた。


 白瀬も頭を下げる。


「殿。申し訳ありません。当初の予定より手間が増えました」


「ふむ」


 直孝は、整備途中の水路を眺めた。


「雨水のことで、ひと騒ぎあったそうじゃな」


「はい。危うく畑へ水を流すところでした」


「被害は?」


「幸い、ありません。ただ……」


 白瀬は、一度言葉を切った。


「学び舎を守るために、ほかの人を困らせるところでした」


 直孝は、静かに頷いた。


「ならば、気づいてよかったではないか」


「……はい」


「普請とは、そのようなものであろう。最初から何もかも見通せる者などおらぬ」


 そう言って、直孝は周囲を見渡した。


 村人が土を運んでいる。


 河童たちが水路の泥をさらっている。


 子どもたちも、忙しそうに走り回っている。


「それにしても……」


 直孝は目を細めた。


「ずいぶんと賑やかな普請になったものじゃ」


「……そうですね」


 白瀬が笑う。


 そのときだった。


「殿様!」


 元気な声が響いた。


 おたえだった。


 千代と並んで、こちらへ駆けてくる。


「おたえ、どうした?」


 白瀬が尋ねる。


「銭のことたい!」


 おたえは帳面を広げた。


「水路ば造る分、銭のかかるけん、ほかのもんば見直したとです!」


 直孝が興味深そうに覗き込んだ。


「ほう。どれ」


 おたえは、必死に説明した。


 今すぐ必要なもの。


 後からでもよいもの。


 村にすでにあるもので代用できるもの。


 そして、何よりも削ってはいけないもの。


「柱や梁は、ちゃんとしたもんば使わんば危なかです。そいと、水路も途中でやめたら意味のなか!」


「うむ」


「ばってん、棚やら仕切りやらは、後からでも造れるとです!」


 直孝は、深く頷いた。


「なるほど。よく考えたのう」


 おたえは胸を張った。


「千代様のおかげでもあるとです!」


「千代の?」


 直孝は娘を見た。


 千代は、少し照れくさそうに笑った。


「父上。私も、ほんの少しだけ考えました」


「ほう……」


 直孝の表情が柔らかくなる。


「城で書物を読んでおるだけでは、学べぬこともあるようじゃな」


「はい!」


 千代は元気よく頷いた。


 その隣で、おたえも嬉しそうに笑っていた。


 直孝は、しばらく二人を見つめていた。


 そして白瀬へ向き直った。


「白瀬」


「はい」


「おぬしは、この学び舎で何を育てるつもりじゃ?」


 突然の問いだった。


 白瀬は少し考えた。


 文字を教える。


 算術を教える。


 農業や治水の知恵を伝える。


 それは確かに大切だ。


 だが、本当に望んでいることは、その先にある。


「……人です」


「人、か」


「はい」


 白瀬は、子どもたちを見渡した。


「俺が知らないことを長吉が知っています。健太が考えつく道具を、俺は思いつかないこともあります」


 直孝は黙って聞いている。


「源太は海を知っている。小春は人と人をつなげられる。おたえは、俺より商いの勘が鋭い」


 白瀬は笑った。


「みんなが自分の得意なことを伸ばせば、俺一人では造れないものが、きっと造れます」


 直孝は静かに頷いた。


「……なるほどのう」


 そして、まだ柱も立っていない土地を眺めた。


「銭は使えば減る。じゃが、人を育てるために使う銭は、百年先に実を結ぶというわけか」


 白瀬は、はっと顔を上げた。


 直孝は、穏やかな声で続けた。


「田を耕せば米が実る。人を育てれば、国が育つのじゃ」


 白瀬の胸に、その言葉が深く響いた。


 国を豊かにする。


 米を増やし、魚を獲り、商いを広げる。


 それだけではない。


 人が育ち、その人がまた次の人を育てる。


 そうして初めて、豊かさは次の世代へ受け継がれていく。


 直孝は、傍らに立っていた茂敬へ向き直った。


「茂敬」


「はい、父上」


「よく見ておけ。人を育てるとは、こういうことじゃ」


 茂敬は深く頭を下げた。


「はい」


 そして、作業する村人たちへ目を向ける。


 泥だらけの長吉。


 模型を抱えた健太。


 川から戻ってきた源太。


 笑顔で人々に声を掛ける小春。


 帳面を抱えるおたえと千代。


 茂敬は、静かに口を開いた。


「父上。私は、城の中で多くのことを学んでまいりました」


「うむ」


「ですが、田のことも、川のことも、商いのことも、知らぬことばかりでございます」


 茂敬は長吉を見た。


「この者たちと学べば、私も、もっと諫早を知ることができると思います」


 直孝は息子を見つめた。


 そして、満足そうに頷いた。


「……よい心掛けじゃ」


 その直後。


「若殿様ぁ!」


 長吉の声がした。


「そっちの縄、持ってもらってよかですか!」


 家臣たちがぎょっとする。


 しかし茂敬は、にっと笑った。


「うむ。任せよ!」


 そして自ら泥の上へ足を踏み出した。


「わ、若殿様!」


 家臣の声が響く。


 白瀬は思わず吹き出した。


 直孝も、呆れたように笑っていた。


「……まったく。誰に似たのやら」


 その言葉に、奥方がいれば、きっとこう答えただろう。


 あなた様でございましょう、と。


     ◇


 それから、さらに日が過ぎた。


 秋の空は高く、村を吹き抜ける風が少しずつ冷たくなっていった。


 学び舎の予定地では、水路の整備が進んでいた。


 水の出口を確保し、畑へ流れ込まないよう経路を変える。


 古い流れをさらい、土砂のたまりやすい場所には、手入れをするための窪みを設けた。


 水路を通す土地については、村人たちと何度も話し合った。


 反対の声があれば、白瀬は足を運んだ。


 誰か一人が我慢する形にはしたくなかった。


 そうして迎えた、ある雨の日。


 子どもたちは、そろって水路を見守っていた。


「来たばい!」


 源太が叫ぶ。


 雨水が地面を伝い、整えた溝へ入っていく。


 最初は細い流れだった。


 やがて、いくつもの水が合わさり、勢いを増した。


「健太!」


「分かっとる!」


 健太は拳を握り締めた。


 水は曲がり角へ差しかかる。


 以前、模型が壊れた場所だ。


 みんなが息を呑んだ。


 水は、ゆっくりと曲がった。


 そして、途中の窪みを通り――。


 その先へ、流れ出た。


「……行った?」


 小春が呟く。


 源太が下流を確かめる。


「行った!」


「本当か!?」


「ちゃんと川の方へ流れよる!」


 次の瞬間。


「やったあああっ!」


 歓声が上がった。


 健太が飛び跳ねる。


 長吉が両手を上げた。


 小春はおたえに抱きつき、千代も思わず手を叩く。


「出来たばい!」


「やった! やったあ!」


 ガタ吉が水路から顔を出した。


「ひゃっほう! こいで学校ば建てられるたい!」


 白瀬も、ほっと息をついた。


「……よし」


 隣で澪が微笑む。


「白瀬」


「ん?」


「水が、笑っておるぞ」


 白瀬は、水路を見つめた。


 雨の中を流れる水。


 何の変哲もない、小さな流れだ。


 だが、その水は、誰かの畑を傷めることなく川へ向かっている。


 水を無理やり押さえつけたわけではない。


 水の行き先を、みんなで考えたのだ。


「……ああ」


 白瀬は笑った。


「いい流れになったな」


 澪も、嬉しそうに頷いた。


「うむ」


 もちろん、これで終わりではない。


 もっと強い雨が降れば、また直すところが見つかるかもしれない。


 年月が過ぎれば、泥もたまるだろう。


 だから、手入れを続けなければならない。


 そのことを、子どもたちはもう知っている。


 健太が、白瀬を見上げた。


「白瀬しゃん!」


「どうした?」


「また詰まったら、おいが直すけん!」


 白瀬は笑った。


「頼んだぞ、健太」


 それが、何よりも嬉しかった。


     ◇


 そして、待ちに待った日がやって来た。


 水学所の、最初の柱を立てる日である。


 朝から村中の人々が集まっていた。


 大工たちは材木を運び、縄を張り、柱を立てる支度を進めている。


 その周囲を、子どもたちが落ち着かない様子で歩き回っていた。


「まだね!?」


 健太が尋ねる。


「まだじゃ!」


 棟梁が答える。


「もうよか?」


「まだじゃと言うとろう!」


「いつになったらよかと!?」


「おぬしが黙ったらじゃ!」


 周囲から笑いが起こった。


 少し離れたところでは、源太が材木を運んできた舟の話をしている。


「川の水が高か時は、無理して舟ば出さん方がよかと。荷を傷めたら元も子もなかけん」


 大人の漁師が感心して頷いた。


「源太も、すっかり一人前の口ば利くごとなったのう」


「口だけじゃなかばい!」


 源太が笑う。


 その横では、小春が忙しそうに走り回っていた。


「お茶はこちらたい! お昼の握り飯も用意しとるけん!」


 大工たちへ声を掛け、村人へ礼を言い、足りない道具を探しに行く。


 誰に言われるでもなく、人と人の間をつないでいた。


 おたえは帳面を抱え、千代と並んでいる。


「今日使った縄は、こっちに書いて……」


「はい!」


「その板は、まだ余っとるけん、捨てたらいかんよ!」


「はい!」


 二人は、すっかり息が合っていた。


 長吉は、建物の脇に造る小さな畑の場所を確かめていた。


「ここなら日当たりもよか。土ば入れ替えれば、いろんな作物ば育てられるたい」


 茂敬が隣で頷く。


「私も、植えるものを考えてみたい」


「そいなら、若殿様にも教えます!」


「頼むぞ」


 二人は笑い合った。


 白瀬は、その光景を眺めていた。


 みんな、本当に変わった。


 数年前まで、ただ目の前の暮らしに追われていた子どもたちだ。


 だが今は違う。


 自分の得意なことがあり、やりたいことがあり、そのために学ぼうとしている。


「……白瀬」


 澪が隣に立った。


「ん?」


「嬉しそうじゃな」


「ああ」


 白瀬は笑った。


「こんなに大勢で学校を造ることになるなんて、思ってもみなかった」


「ふふっ」


「何だよ?」


「いや。おぬしは、いつもそうじゃ」


「そう?」


「最初は小さなことを始める。水を流す道を造り、田を増やし、子らに文字を教える」


 澪は、子どもたちを見つめた。


「気がつけば、皆が集まっておる」


 白瀬は、少し照れくさくなった。


「……俺一人じゃ、何もできないからな」


「うむ」


 澪は、当然のように頷いた。


「だから、妾たちがおるのじゃ」


 白瀬は澪を見た。


 澪は、まっすぐに笑っていた。


「……そうだな」


 白瀬も、笑った。


     ◇


「皆の者!」


 棟梁の声が響いた。


「いよいよ、最初の柱を立てるぞ!」


 人々が集まる。


 諫早直孝と奥方、茂敬、千代も並んだ。


 棟梁が、太い柱を指さす。


「この柱が、学び舎の最初の一本となる。長く、この地に立ち続けるよう、皆で力を合わせるぞ!」


「おおっ!」


 村人たちの声が上がった。


 白瀬は、柱にそっと手を置いた。


 木の香りがした。


 まだ新しい、まっすぐな柱だった。


 その表面には、大工がつけた墨の線が残っている。


 白瀬は、ふと思いついた。


「なあ、みんな」


 子どもたちが振り向く。


「せっかくだ。この学校で何をしたいか、聞かせてくれないか?」


「何ばしたかか?」


「ああ。何でもいい。これから先、やってみたいことだ」


 最初に手を挙げたのは長吉だった。


「おいは!」


 長吉は、大きく息を吸った。


「みんなが腹いっぱい米ば食べられる田んぼば造りたか!」


 拍手が起こる。


 長吉は照れくさそうに笑った。


 次に健太が手を挙げる。


「おいは、誰でも使える便利な道具ば造る!」


「また水浸しにするなよ!」


 源太がからかう。


「もうせん!」


「本当かぁ?」


「……多分!」


 笑い声が弾けた。


 源太は胸を張った。


「おいは、もっと魚ば獲れる海にしたか! ばってん、獲りすぎて魚のいなくなったら困るけん、そこも考える!」


「よか心掛けじゃ!」


 ガタ吉が嬉しそうに頷いた。


 小春は両手を広げる。


「うちは、遠か国の人とも話せるごとなりたか!」


「唐の言葉だけじゃ足りんのか?」


 白瀬が尋ねる。


「足りん!」


 小春は、きっぱり言い切った。


「もっともっと、いろんな人と話したか! そいで、諫早のよかところば、いっぱい教えてやると!」


 白瀬は笑った。


「そりゃ大仕事だな」


「任せとかんね!」


 おたえは、ふふんと鼻を鳴らした。


「うちは、諫早の品物ば日本中に売る!」


「おおっ!」


「そいで、村の人たちが困らんごと、もっともっと商いば広げると!」


 千代が、嬉しそうに拍手した。


 そして、少し遠慮がちに手を挙げた。


「……私も、よろしいですか?」


「もちろん!」


 白瀬が頷く。


 千代は、少し考えた。


「私は……歌を学びたいです」


 意外な答えに、皆が振り向いた。


「歌?」


「はい」


 千代は頷いた。


「知らない土地の歌を覚えて、いろいろな人と一緒に歌ってみたいのです」


 小春が笑った。


「よかねえ!」


「歌なら、お祭りでも歌えるばい!」


 源太も頷いた。


 すると、おたえが、ぽんと手を打った。


「そいなら!」


 千代の方へ身を乗り出す。


「長崎の明美姉ちゃんに会わせてやらんば!」


「明美……?」


「歌の上手か人たい! 長崎の明謝楼の娘さんで、前に諫早にも来とらしたとよ!」


 千代の目が輝いた。


「その方は、そんなに歌がお上手なのですか?」


「もう、ものすごかと!」


 おたえは胸を張った。


「うちも最初に聞いたとき、びっくりしたばい!」


「……会ってみたいです」


 千代が、小さく呟いた。


 おたえはにっこり笑った。


「いつか一緒に長崎へ行こうね!」


「はい!」


 千代は、嬉しそうに頷いた。


 その小さな約束が、やがて長崎の歌姫と諫早の姫君を結ぶことになるなど、このときは誰も知らなかった。


 白瀬は、最後に澪へ目を向けた。


「澪は?」


「妾か?」


「ああ」


 澪は、しばらく考えた。


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「妾は……この土地の者たちが、水を怖がるだけではなく、水と共に生きていけるようになればよい」


 皆が静かに耳を傾ける。


「雨も、川も、海も、決して人の敵ではない。されど、侮れば命を奪う」


 澪は、白瀬を見た。


「水の声を聞き、人が知恵を尽くせば、共に生きる道は見つかるはずじゃ」


 白瀬は、深く頷いた。


「……そうだな」


 澪が微笑む。


「白瀬の夢は、何じゃ?」


「俺?」


「うむ。皆には聞いておきながら、自分は何も申さぬつもりか?」


 子どもたちが一斉に声を上げた。


「そうたい!」


「白瀬しゃんの夢も聞きたか!」


「先生の夢は何ね!?」


 白瀬は困ったように頭をかいた。


「そうだなあ……」


 みんなの顔を見渡す。


 長吉。


 健太。


 源太。


 小春。


 おたえ。


 千代。


 ガタ吉。


 澪。


 そして、この土地で出会った、数え切れないほどの人々。


 白瀬は、ゆっくりと口を開いた。


「俺は、みんなが自分たちの力で未来を造れるようになってほしい」


 子どもたちが静かになった。


「俺が知らないことも、これからきっと出てくる。俺にはできないことを、みんなならできるかもしれない」


 白瀬は、立ち上がったばかりの柱を見つめた。


「だから、ここで学んでほしい。失敗してもいい。何度でも考えて、何度でも挑戦してほしい」


 そして、少しだけ笑った。


「……いつか俺がいなくなっても、この場所で、みんなが誰かに教えられるようになってくれたら嬉しいな」


 そのとき。


 澪の表情が、わずかに変わった。


 ――いなくなる?


 白瀬の言葉が、胸に引っかかった。


 だが、周囲の子どもたちは気づかない。


「おいら、ずっと勉強するばい!」


「うちも!」


「そいで、もっとすごか諫早にする!」


 元気な声が響く。


 白瀬は、嬉しそうに頷いた。


「……ああ。頼んだぞ」


 棟梁が、再び声を張り上げた。


「よし! 柱を立てるぞ!」


 縄が引かれた。


 大工たちが息を合わせる。


 大きな柱が、ゆっくりと起き上がる。


「せーのっ!」


「おおおおっ!」


 木槌の音が響いた。


 柱が、まっすぐに立った。


 秋空へ向かって。


 青く、高い空へ向かって。


 最初の一本が、確かに立った。


「やったあああっ!」


 子どもたちの歓声が響き渡った。


 長吉が飛び跳ねる。


 健太が拳を突き上げる。


 源太が大笑いする。


 小春は千代の手を取り、おたえも一緒になって喜んでいた。


 ガタ吉は、なぜか両手に団子を持っている。


「めでたか! こいは祝いの団子たい!」


「お前、いつの間に!」


「こげんめでたか日に、団子のなかとは許されんばい!」


 白瀬が呆れる。


 澪が笑う。


 直孝も、奥方も、茂敬も、楽しそうにその光景を眺めていた。


 たった一本の柱。


 まだ屋根もない。


 壁もない。


 教室もない。


 けれど、その場所には、確かに何かが生まれていた。


 田を育てる者。


 道具を作る者。


 海を守る者。


 人と人をつなぐ者。


 商いを広げる者。


 歌を届けようとする者。


 そして、次の時代を担う者たち。


 それぞれの夢が、一本の柱の下に集まっていた。


     ◇


 その日の夕方。


 人々が帰り始めた頃、おたえと千代は、まだ帳面を開いていた。


「今日の日付は……ここたい」


「はい」


「そいで、最初の柱が立った、と」


 千代は筆を持ち、慎重に文字を書いた。


 まだ、あまり上手ではない。


 何度か筆を止め、形を確かめながら書いていく。


 ところが――。


「あっ!」


 筆先から墨が落ちた。


 ぽたり。


 紙に、小さな黒い染みができた。


「……どうしよう」


 千代が泣きそうな顔になる。


 おたえは、ひょいと覗き込んだ。


「ああ、そいくらいならよかよか!」


「でも、汚してしまいました……」


「間違うたら、直せばよかと!」


 おたえは笑った。


「白瀬しゃんも、いつもそう言いよるやろ?」


 千代は、墨の染みを見つめた。


 そして、そっと微笑んだ。


「……はい」


 二人は、また筆を動かし始めた。


 その帳面には、今日の出来事が書き残された。


 誰が何を運んだのか。


 どんな失敗をしたのか。


 どうやって水路を直したのか。


 最初の柱が立ったとき、どれほど嬉しかったのか。


 つたない文字と、小さな墨の染み。


 それは、まだ誰も知らない未来へ続く、最初の記録だった。


 やがてこの学び舎では、子どもたちが自ら学びを記すようになる。


 そして、その知恵を次の者へ伝えるための書物が作られていく。


 だが、それはもう少し先の話。


 今はただ、二人の少女が、笑い合いながら筆を動かしていた。


     ◇


 夕暮れ。


 建設予定地に、静けさが戻っていた。


 立ち上がった一本の柱が、長い影を落としている。


 白瀬は、屋敷になる場所に張られた縄を眺めていた。


 その隣に、澪が立つ。


「白瀬」


「ん?」


「ここが、おぬしの部屋か?」


「ああ、そうらしい」


 白瀬は縄の内側を指さした。


「この辺りが俺の居間で、向こうが寝間になる予定だって」


「ふむ……」


 澪は、隣の縄へ目を移した。


「では、こちらは?」


「澪の部屋だな」


「…………」


 しばし沈黙。


「……近すぎぬか?」


 白瀬は、不思議そうに首を傾げた。


「廊下を挟んでるし、問題ないだろ?」


「そういうことではない!」


 澪は、ぷいっと横を向いた。


 白瀬はますます分からなくなる。


「何だよ。嫌なら、もう少し離してもらうか?」


「……嫌とは申しておらぬ」


「え?」


「何でもない!」


 澪は、少しだけ頬を赤くした。


 白瀬は頭をかいた。


 どうにも、澪の考えていることは難しい。


 水の流れなら、ある程度は読めるようになった。


 だが、澪の心の流れとなると、さっぱりだった。


 しばらくして。


 澪が、静かに口を開いた。


「……白瀬」


「ん?」


「先ほど、妙なことを申したな」


「妙なこと?」


「いつか、おぬしがいなくなっても……と」


 白瀬の動きが止まった。


 夕風が、二人の間を吹き抜ける。


「……ああ」


 白瀬は、ゆっくりと柱を見上げた。


 いつか、現代へ帰る日が来るかもしれない。


 いや、帰らなければならないのかもしれない。


 ここで出会った人々。


 ともに苦労し、笑い合ってきた仲間たち。


 そのすべてを、この時代に残して。


 そんな考えが、ふと頭をよぎることがある。


 だが、今はまだ答えが出ない。


「……もしもの話だよ」


 白瀬は笑おうとした。


「俺だって、いつまでも元気でいられるとは限らないしさ」


 澪は、何も言わなかった。


 ただ、白瀬を見つめていた。


「……白瀬」


「ん?」


「妾は、水の流れを見ることができる」


「ああ」


「されど、人の心までは見えぬ」


 白瀬は、澪へ顔を向けた。


 澪は、まっすぐに見返していた。


「おぬしが何を考えておるのか、妾には分からぬこともある」


「……澪」


「じゃが」


 澪は、ほんの少しだけ微笑んだ。


「今は、ここにおるのであろう?」


 白瀬は、しばらく黙った。


 そして、ゆっくりと頷いた。


「……ああ。ここにいるよ」


「ならば、それでよい」


 澪は、ふっと肩の力を抜いた。


「まだ屋敷も出来ておらぬ。学び舎も、柱が一本立っただけじゃ」


「そうだな」


「おぬしには、やるべきことが山ほどある」


「……ああ」


 すると澪は、手にしていた包みを差し出した。


「ほれ」


「ん?」


「食べるのじゃ」


 包みを開くと、握り飯が二つ入っていた。


 白瀬は目を丸くした。


「……これ、俺に?」


「ほかに誰がおる」


「いや、でも……」


「昼餉もろくに食べておらなんだろう」


 図星だった。


 工事のことで頭がいっぱいになり、昼はほとんど食べていなかった。


「……よく分かったな」


「当たり前じゃ」


 澪は、少しだけ胸を張った。


「妾を誰だと思うておる」


 白瀬は笑った。


「水守様、かな?」


「ふふっ。よく分かっておるではないか」


 白瀬は握り飯を受け取った。


「ありがとう、澪」


 澪は、わずかに目を細めた。


「……礼などいらぬ。さっさと食べるのじゃ」


 白瀬は、一口かじった。


 米の甘みが、口いっぱいに広がった。


「……うまい」


「そうか」


「ああ。うまいよ」


 澪は、嬉しそうに微笑んだ。


 二人は、並んで柱を見上げた。


 まだ、屋根も壁もない。


 けれど、いつかここに家が建つ。


 朝になれば子どもたちが集まり、文字を読み、道具を作り、笑い声が響くだろう。


 その奥で、白瀬と澪が暮らしている。


 そんな未来が、少しだけ見えた気がした。


 そのときだった。


「おおーい!」


 遠くから、聞き慣れた声が響いた。


「白瀬ぇ! 澪ぉ!」


 ガタ吉だった。


 何やら両手を振りながら走ってくる。


「二人で何ば食いよっとね!」


「握り飯だよ」


「おいの分は!?」


「ない!」


「なんでねぇぇぇ!」


 ガタ吉の悲鳴が、夕暮れの野原に響き渡った。


 白瀬は腹を抱えて笑った。


 澪も、声を上げて笑った。


 そしてガタ吉は、二人の間へ割り込むと、ふてくされた顔で座り込んだ。


「……団子なら持っとるけど」


「持ってるのかよ!」


「こいはこい、そいはそいたい!」


 また、笑い声が弾けた。


 一本の柱。


 三人の仲間。


 そして、そこに集まる大勢の人々。


 四百年の時を越えて、この土地へやって来た白瀬は思う。


 未来とは、誰か一人が造るものではない。


 誰かが考え、誰かが支え、誰かが失敗し、また誰かが立ち上がる。


 そうして、少しずつ形になっていくものなのだ。


 見上げれば、秋の空。


 そこには、一番星が輝き始めていた。


 まだ小さな光だった。


 けれど、確かにそこにある。


 白瀬は、そっと呟いた。


「……さあ、次は屋根だな」


 澪が笑う。


「うむ。雨に濡れぬ学び舎を造らねばのう」


 ガタ吉が勢いよく立ち上がった。


「そいなら、団子ば食べて元気つけんば!」


「結局、団子かよ!」


 三人の笑い声が、秋の風に乗って広がっていく。


 この日、諫早に立ったのは、たった一本の柱だった。


 けれど、その柱の下には、数え切れないほどの夢が集まっていた。


 田を耕す者も。


 海へ出る者も。


 道具を作る者も。


 商いをする者も。


 歌を届ける者も。


 そして、これから生まれてくる子どもたちも。


 いつの日か、ここで学び、ここから旅立っていく。


 人が育てば、国が育つ。


 その言葉が、本当の意味を持つ日が来ることを、今はまだ誰も知らない。


 そして――。


 この一本の柱が、三年後、どれほど賑やかな場所の一部になっているのか。


 白瀬も、澪も、まだ知らなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回の主役は、一本の柱と、そこに集まったみんなの夢でした。


失敗から学ぶ健太、土地を知る長吉、商いを通じて友情を深めるおたえと千代。


白瀬が教えてきた子どもたちが、今度は自分の知恵で未来を造り始めています。


「田を耕せば米が実る。人を育てれば、国が育つのじゃ」


直孝のこの言葉は、これからの諫早を象徴するものになると思います。


さて、ようやく立った一本目の柱。


三年後、この場所はどんな学び舎になっているのでしょうか?


そして、同じ屋敷で暮らすことになる白瀬と澪の関係は……?


次回、成長した仲間たちとの再会をお楽しみに!


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